乱れ撃ちディスク・レヴュー"Classic Edition 6"

<1999年>


LED ZEPPELIN
 Early Days
 オリジナルアルバムは全部持っているのに…買ってしまう、偉大なるZEPのベスト第一弾。もし「リマスターズ」やらボックスセットやら持っていてこれを買った人はかなりのZEPファン。あるいは「とにかく全て手にいれば気が済まない」マニアである。
 このアルバムはタイトル通り、前期つまりファーストから4枚目までから年代順にセレクトされており、最後はお馴染「天国への階段」という、まさにお約束的なもの。入門用にはピッタリで、ハードロックやへヴィメタから遡ってZEPを聴きたい人にはこれ1枚で十分かもしれない。つまり第二弾は「聖なる館」以降からの選曲となり、これはかなり地味になる。実際にはここからが本当に面白いことは確かだが。
 こうしてあらためて聴いてみると前期の彼らはまさに「恐い者無し」の勢いで突き進んでいるのが分かる。現在のドラゴンアッシュに同じ勢いを感じる。さてここからどうなるか?ZEPは5枚目から趣をかなり変えた。しかし何故彼らが音楽史に名を残す存在になったかは後期があったからだと思う。曲目は殆どわかっているのに第二弾を楽しみにしてしまう、そんな困った自分がいるわけだ。(99.12.30)


SHERYL CROW
 Live From Central Park
 現在、ナンバー1女性ロック歌手は、と問われれば少し迷った末シェリル・クロウの名前を出すだろう。
 「迷う」部分というのは二枚目以降目立ってきたメジャー臭が少し気になるからだ。カラッとした、とてもシンプルなファーストが好きだった自分にはどうもそれ以降の路線は首を捻らせるものがあるのだ。特に「007」シリーズの主題歌、なんて話を聞いたときは天を仰いだものだ。
 …しかし、だ。このライヴ盤を聴いてやはり彼女の実力は大したものだった、と思わざるを得ない。何せナンバー1だ。自分は少し思い違いをしていた。彼女を「素朴な、シンプルなロックが似合う」アーティストと捉えていたのだ。実際にはこんなにも、カリスマ的魅力に溢れる、華のあるアーティストだったのだ。それは豪華ゲスト陣にも表われている。なにせ、クラプトン、キース・リチャーズだ。前者は「ホワイト・ルーム」、後者は「ハッピー」を演奏&歌。凄すぎるよ。ロック・ファンはこれだけでもう許す。OKだ。他にもスティーヴィー・ニックス、クリッシー・ハインドといった両ロック姉ちゃんをゲストに呼ぶあたりなんざ気が利いています。でも新旧交代を感じさせたりもするけど。それにしてもこんな豪華ゲストが参加していながらタイトルには「シェリル・クロウ&フレンズ」である。いやまあ、何というか、大したものだ。
 ところでこのジャケ写のシェリル。どういう格好なんだ、これは… (99.12.26)

UNDERWORLD
 Beaucoup Fish
 もう随分前の作品になってしまうが、今年を代表するアルバムの1つだと思うので取り上げることにした。
 ケミカル・ブラザース、プロディジー、そしてこのアンダーワールドがテクノ御三家と言われていたのだが、前二者が1997年に傑作アルバムを出していたのだが、アンダーワールドだけが映画「トレインスポッティング」に流れた「ボーン・スリッピー」を発表した後、沈黙を守っていた。そして満を持してリリースされたのがこれだ。
 正直言って、前作は「ボーン・スリッピー」も含めてあまり性に合わなかった。ケミカルやプロディジーと比べてロック色が薄かったのが要因だが、今やテクノはまた進歩しており、ロック色が濃いのももはや時代遅れとも言える。つまりはアンダーワールドの方が先を行っていたとも言えるのだ。
 そしてこのアルバム。これは凄く良い。相変わらずロック色は薄く、最も単純なテクノとも言える作品だが、それがカッコ良いのだ。ファースト・カットとなった「Push Upstairs」などはもう極め付け。シビレまくりである。BS放送で少しライヴの模様が流れていたのを見たが、「行って、踊りたい!」と強く思ったものだ。「新しい」と思わせる要素は何もない。しかし「素」のテクノ一本槍で勝負して見事勝利したその実力は計り知れないものがある。
 地元英国ではこのアルバムから何枚もシングルが切られている。人気が高い証左である。もう一度言うが、1999年を代表する、5本の指に入る名作だ。(99.12.23)


SOPHIA
Oar(シングル)
 これで彼らは一体どういうバンドなんだろう?と言う人が増えるだろう。
 何せ「ゴキゲン鳥」「黒いブーツ」「ビューティフル」といったブギー調のシングルでロック・ファンの心を鷲掴み、アルバム「マテリアル」では音楽誌大絶賛、美しいバラード「Place〜」ではドラマのタイアップ、一般的な支持も得た。その姿には元「ヴィジュアル系」の姿はない。
 そうした中での、この久しぶりのニュー・シングル。はっきり言ってシングルとしてはかなり難しいのではないか?という曲だ。メロディーがわかりにくい。ヴォーカルの声がやけに神経質的だ。売る気はあるのか?結局「ただの良いバンド」で終わってしまうではないか?
 しかし、私はこれを全面的に支持したい。今、これを出してきた、ということはきっと何らかの必然性があるはずなのだ。それを信じる。とにかく、自分的に大好きなわけだけど、こういう音。
 カップリング曲も素晴らしい。しばらくは聴き続けそうなシングル。(99.12.19)


BONNIE PINK
 Bonnie's Kitchen #1
 トーレ・ヨハンセンとのコラボレーションから離れた新曲を出したと思ったら今度はこのベスト盤、まずは日本語の曲だけを集めたもの。
 こういったベストを出してくる、というのは何かの区切りなのだろう、と勘ぐりたくもなる。まあそんな詮索はともかく、彼女のセンスが存分に理解できる、良いレコードだ。やはり名曲「犬と月」は個人的にはこの中で一番で、アナログ限定版でのヴァージョンが収録されているのもうれしい。
 構成的にはトーレプロデュースのものが前半、デヴュー時の粗削りな曲が後半、という曲順になっているが、これには少し不満。もう少し考えて欲しかった。決して初期を蔑ろにするわけではなく、いやむしろあらためて良い曲も多いことがわかるのだが、ちょっと単調になりがちだったのだ。カーCDなどで聴くときはシャッフルプレイで楽しもう。ただラストはこの通りで良い。
 それにしても前にも書いたがやはりボニー・ピンクというアーティストは恰好良い。他の女性ヴォーカルが到達しえない、独特のポジションに彼女はいると思う。それはある意味、性を超越したものだ。もっとも彼女の書く詞は大変「かわいい」ものが多い。このギャップもまた魅力だ。きっと同姓のファンだともっと違う感じ方をするのだろうな。
 いつかは知らないが次(#2)は英語曲だけのベストが出るわけだ。彼女の発語する英語はもの凄く良く、日本語より魅力的だと思うのでこれは楽しみ。(99.12.17)


KORN
 Issues
 とにかく、ハードな音の洪水に埋もれたい方に。
 このアルバムも全米ナンバー1になった。全く、こういう暗く沈んではいるがハードな音を今のアメリカのキッズは好むのだな。まあ、そこから例のマリリン・マンソンがスケープゴートにされた、乱射事件に繋げることは容易だが、ここは日本。で、これはどうか。
 前作と比べれば、ポップさこそ後退したものの、へヴィメタっぽい感じが出てきているのでメタル好きの多い日本でもかなり良いところまでイケそうな気がする。だが相変わらず暗い。「ネクラ」というのとは違って、「暗黒」という感じだ。それに興味を感じたら聴いてみると良いだろう。まずはリンプ・ビスキットを聴いてからの方が取っつきやすいかもしれない。リンプは同じタイプだけどかなり明るいので。個人的には前作よりこちらの方が好きだ。(99.12.16)


ゆず
 ゆずえん
 路上でアコギをかき鳴らして歌っている少年たちよ、オリジナリティーを持とう!どうも皆ゆずに聞こえてしまって…
 とは言え、この手のサウンドはなかなかに心地よい。この新作ではかなりの間口の広さを出してきており、単なるアコースティック・デュオに留まらない力強さを感じることが出来る。ただ、単なるアコースティックの方が他との差別化という意味では分かりやすいかもしれないが。そうは言ってもセールス的には新曲(このアルバムには未収録)がチャートで2位にランクされるなど、確実にヒットメーカーとして定着しつつあるのだ。にもかかわらず、ああ「夏色」の人達ね、で済まされてしまうことも多いのは残念だ。
 「19」は紅白出場が決まった。何故実績のあるゆずは落ちたのか?それが今後の課題(?)かもしれない。(99.12.13)


エレファントカシマシ
 ガストロンジャー(シングル)
 聴くまでは何じゃ、「ガストロンジャー」って?などと思っていたのだが。
 これは一体どうしたことなのか?何があったんだろうか、宮本に。もはやこの曲に批評は無効だ。いや、曲というかこの「叫び」は自分の魂を抉り、刺し、ぐちゃぐちゃにした。ここに収められている一言一言の言葉の塊はとにかく今までにない、宮本のある「決意」を感じさせる、恐ろしくも感動的なものだ。それにしても、いや、何と言おうか…まだこれをラジオで聴いたことはないのだが、かけられるのだろうか?と思っていたら何とテレビの出演予定はあるそうだ。積極的にマスコミにも露出してアジテーションするというのか?何だか物凄くワクワクしてきた。
 思えば最近の宮本は、名前が世間に知られるにつれ、言ってみれば「ソフト」になっていた。ラヴソングさえ歌ったりもしていたのだ。「売れなければ」とまで言っていたのだ。ただ、「悲しみの果て」「今宵の月のように」級のヒットからは遠ざかっていた。
 それが今回のこのメガトン級の衝撃力を持つシングルが登場。これは世間でどう評価されるのだろうか。ただの世紀末ソングの一種として括られてしまうのか。この現代を見つめ直す一つの布石となるのか。いや、そんな抽象的なことよりもこれは「売れるのか」? 大変興味深い。エレカシを「叙情的なちょっと男臭い歌を歌うバンド」と思っていた婦女子、いきなり背を向けないように。こういうのも歌というものが持つ一つの役目なのだから。(99.12.10)


THE YELLOW MONKEY
 バラ色の日々(シングル)
 どうしたのだ吉井、その髪形は…というジャケ写も久しぶりなイエモンの新曲。
 それにしても、いかにもイエモンらしいこのタイトル。そして例によって欲しいもの(ここでは「バラ色の日々」)手に入らずにもがく姿が描写されるのだ。相変わらず満足することを知らないような吉井の歌詞だ。曲も王道イエモン路線。あまりに王道過ぎて最初聴いたときはシングルには向かないんじゃないかと思ったほどだ。
 しかし2度、3度、と聴くうちにやはりこれはいい、と確信した。これがイエモンなのだ。吉井なのだ。ところでこの曲、UAやゼペット・ストアで御馴染の朝本浩文がプロデュースを勤めている。とは言っても従来のイエモンと比較してガラリと音作りが変わったわけではない。良くも悪くも脂ぎった部分がソリッドになった、という点は認められるが。それでも朝本と組んだ、というのは何か意味があるのだろう。今後のニューアルバムに向けた新たな展開か?3曲目には彼らには珍しくリミックス・ヴァージョンが収められており、これが今までとの大きな相違点かもしれない。
 小難しいことは抜きにしても、十分楽しめる良い曲ですよ。(99.12.10)


(番外編)乱れ撃ちライヴ・レヴュー
 The Charlatans @ 名古屋ダイヤモンドホール
 何せ久しぶりのライヴである。気合いも入るというものだ。
 会社を6時に出て一路ダイヤモンドホールへ。しまった、歩くんじゃなかった。意外と長い…
 会場はビルの5階。「階段で上がって下さい」という案内。何?
 頭の中でブツブツ言いながら5階へ。さあ、ドキドキしてきたぞ。良いね、この感じ。
 入ると意外と空いていた。もうとっくに開場時間は過ぎているのに。しかし次第に人は入ってきて、開演の7時近くなるとまずまずの状態になってきた。それにしてもネクタイ姿がほとんどいない。自分もほぼ普段着の格好だったので良かった。でもこのバンド、それなりにベテランだから、オールド・ファンもいてもいいのになあ。
 さあ7時。オープニング・アクトはWINO。前座とは言え、さすがメジャーバンドのパフォーマンスを見せる。演奏・歌ともに思っていたよりも良くて、これは収穫だった。オーディエンスのノリも凄く良かった。新作ももう間近に控えており、大変楽しみだ。考えてみれば豪華な組み合わせである。
 WINOが終わってシャーラが登場するまでの時間はかなり長く感じられた。コンクリート敷きの床は固さを直接足に伝えてくる。何せこの会場の平均年齢若いよなあ。疲れてないよなあ。…などとぼんやり考えたりしているうちに照明が変わる。BGMも鳴り止む。
 歓声と前へ前へ行こうとする群衆で周りの状況は一変する。シャーラタンズ、登場。
 前から思っていたことだが、確かに彼らは優れたバンドである。しかし日本人の僕からしてみるとあまりに地味ではないか?何故英国ナンバー1バンドでいられるのか?特に新作はかなり地味だ。
 しかしその疑問はティム(ヴォーカル)の姿を見て氷解した。これこそはスターの姿だ。この存在感はカリスマという言葉が陳腐化してしまった今、安易に使いたくはないが、やはりカリスマとした言い様がない。確かに写真で見るより随分と年をとったな、という印象はあったが、逆に風格となっている。
 オープニングこそ新作からのシングル「Forever」で幕を開けたが、意外に新作からの曲は少なかった。ライヴでこそ新作の地味なロックンロールは生きると思ったのだが。しかし、内容は文句の付けようが無い。「North Country Boy」などの比較的最近の曲でのノリが当然良かったが、初期の代表曲である「The Only One I Know」でのノリがもの凄く良かったのは意外だった。このうちリアルタイマーはどの位か?でもやっぱりポップでいい曲なのは間違いない。それまでの「60年代後半から70年代初めのストーンズ」といった曲調からがらりと「マッドチェスター」な曲になるのは面白かった。個人的には一番好きな「Weirdo」を演ったのはうれしかった。キーボードが最も主張する曲だ。亡くなってしまった元キーボードのロブを思い出してしまうが、いない人のことを言ってもしょうがない。それにしてもベースのマーティンはもの凄く前に出て弾いている。目立ち過ぎだ、しかもニコリともしないで、恐いよ。キーボードの姿は人に隠れてよく見えなかった…
 大興奮のうちに終わったこのライヴだったが、果たして他の東京などの公演と比べてどうだったかは分からない。しかしなかなか調子は良かったのではあるまいか。オーディエンスの方はどうだっただろうか?何せ名古屋はノリが悪いといつも散々言われている場所だ。去年の公演はノリが他会場と比べて良くなかったと聞く。しかし自分の周りは少なくとももの凄く乗りは良かったと思う。確かに後ろや横の方はそれ程でもなかったかもしれないが…また、まだ会場は余裕があった。もっと入れます。名古屋とその近辺の皆さん、もっとライヴ会場に足を運びましょう。きっと損はしないはず。(99.12.6)


山崎まさよし
 Sheep
 独特の声が醸し出す存在感。
 この人の声が個性的であることは周知の事実だが、こういったアクの強い声でメジャーな人気を博していることも特筆に値するものだ。その声だけであたりを自分の「ワールド」に引き入れてしまうのは日本ではブランキーの浅井(ベンジー)、UA、そしてこの山崎まさよしだと僕は思っている。そして前二者に比べると圧倒的に彼は知名度が高い。俳優活動や、最近のCM出演(「ユニクロが似合ってしまう」というのは彼にとっては皮肉でも何でもない)のよるものもあるが、何よりもギターの弾き語りというイメージが強いので分かりやすいのだろう。
 この新作はその得意の弾き語り中心の、彼のギターと声が響き渡る傑作だ。シングル曲は先行した「Passage」のみで、地味な印象を与えがちだが、どんな地味な曲でも彼の声があるだけで「生きる」。もちろん本当に地味なわけではなく、熱気がスピーカーから良く伝わってくるのだ。(99.12.5)


綾戸智絵
 Friends
 純粋に人の声の持つ「パワー」を思い知らされた気分だ。
 このひと、去年デヴューしたジャズ・シンガーなのだが、これで早くも4枚目。かなりのベテランのようだが、ジャケット写真を見るかぎりでは若々しさに満ち溢れている。それが歌にも表われており、人気の要因だろう。ライナー・ノーツも自分で書いており、これまた人柄が良く分かるパワフルかつエネルギッシュなものだ。もう今にもニューアルバムを出しそうな勢いが窺える。
 さて内容は、「カントリー・ロード」「スピニング・ホイール」「ヒア・ゼア&エヴリホエア」「スーパースター」「見つめていたい」といった、ポップスの名曲が圧倒的な歌唱力で歌われている。「枯葉」や「センチメンタル・ジャーニー」の様なジャズ定番曲もあるが、とにかくどんな曲も彼女のハスキーな、存在感のある声で見事に「自分の歌」にしている。ジャズだとかポップスだとか、そう言ったことは全く関係ない。とにかくこれだけ「魂」を込めて歌うシンガーが、しかもアマチュア時代から考えるとずっと存在していたのだ。素晴らしいではないか。
 恰好良い。あまりに恰好良い。演奏も良いので大音量で声・音の洪水を浴びたい。(99.12.2)


IAN BROWN
 Golden Greats
 90年代は終わりを告げようとしているが、このイアンをヴォーカルとしたストーン・ローゼスは89年、シーンに登場した。そして90年代は幕を開けた。もう10年な訳だ。
 ローゼスが英国ロックシーンに与えた影響は計り知れないものがあるのだが、その存在自体が我々に残す印象は日に日に薄くなってきていることも事実だ。何せもう10年なのだ。来年は、1ヶ月後は2000年なのだ。オアシスもどうやら活動を再開したようなのだ。ローゼスはもはや伝説の存在なのだ。
 …とは言うものの、このイアンのセカンド・ソロ・アルバムを聴くと、言い意味でも悪い意味でもローゼスの存在、というものを考えざるを得ない。ヴォーカルだから当然といえば当然なのだが、彼のヘタクソな歌声を聞いていると、この10年、というモノを感慨深げに思ってしまうのだ。内容よりも彼がこうしてまだ元気で活躍していることでとりあえず満足してしまっている自分がいる。
 確かに良く出来たアルバムだとは思う。しかし、しかしだ。これが現在のローゼスを知らないリスナーにどう響くのか?どういうインパクトを与えることが出来るのか?それはかなり疑問だ。そしてそれはかなり残念に思えてならない。(99.12.1)


FIONA APPLE
 When The Pawn...
 いわゆる「情念系」の女性ヴォーカルは大好きなのだが、彼女は弱冠21ながらその真打ちと言えるかもしれない。タイトルは実はもの凄く長い(ジャケット参考)。世界一か?
 デヴュー作であった前作はどちらかというとフォークっぽいイメージがあったが、今作はバンド・サウンドでセールス的にもかなり日本でもイケそうだ。現にFMでもかなりかかっている。それにしても彼女の声は圧倒的だ。魂をぶつけてくるのだ。音楽誌などでは彼女のトラウマティックな過去を取り上げているが、そのためなのか、「負」のイメージを持ちがちである。確かに音楽は「正」だけでははっきり言って面白くない。ミュージシャンたるもの心に「闇」を抱えていないと…といつも思ってはいる。しかし彼女の抱える「闇」は覗いてしまっては最後かもしれない、と恐怖感を抱かせるものがある。まだ全部出してはいないのだ。まあ、出してしまってはポップ・ミュージックでは無くなってしまうが。
 ところで彼女の名前の「アップル」、椎名「林檎」は彼女から何かを感じて自分の名前にしたのだろうか?気になるところだ。(99.11.28)


FOO FIGHTERS
 There Is Nothing Left To Lose
 先入観や予備知識無しで楽しんで下さい。
 …というのは、以前「NIRVANA」という偉大なバンドがあった。代表曲に「Smells Like Teen Spirit」があるが、これのイントロを聴いたとき、もうぶっ飛んだのだ。「これは凄い奴等が現れた」と感動したものだ。そして瞬く間に彼らは時代の寵児となり、彼らの歪んだ音のアメリカン・ロックを「グランジ」と呼んだ。少し汚い格好はファッションスタイルの名前にもなり、まさに一世を風靡したと言っても良かろう。
 しかしリーダーでヴォーカル兼ギタリストのカート・コヴァーンにはその自分たちがどんどん有名になって行くのが耐えきれなかった。そして、カートの自殺、と言う悲劇的な幕切れで終わった。しかし彼らの曲は単なる流行りではなくて確実に何かを変えたはずだ。
 そしてそのニルヴァーナのドラマー、デイヴが結成したバンドでもう3作目になる。どうしてもニルヴァーナの名が持ちだされてしまう彼ら(現に自分も持ちだしてしまったが)だが、良質のロックを毎回展開している。もう「素」のままで評価されてもいいはずである。(99.11.28)


BECK
 Midnight Vultures
 「新しい」ロックの音って?という疑問をお持ちの方。これが答えです。
 待望のベック、ニューアルバムの登場だ。前作がちょっと箸休め的なアコースティック集だったので、「オディレイ」以来ということにもなる。それにしても随分大物扱いの今日この頃である。相変わらず童顔だけど。
 さて楽しみにしていたサウンド、期待を裏切らない出来だ。逆に言えば期待を良い意味で裏切るような新機軸、と言ったものはないが、一層その音世界はわかりやすいものになっており、FMでもかかりやすいはずだ。つまり、これは売れる。妙にけばけばしいカラーのジャケットと同様、全体的に明るい横ノリのトーンで包まれており、アルバムを通してそれは貫かれているのだ。
 思えば「ルーザー」で人気に火がついた訳だが、あれは「おいらは負け犬〜♪、殺すなら殺せ〜♪」という暗い曲で、そのせいでベックは「病める若者の代表」みたいな言い方をされてしまっていた。しかし彼は自分の資質でそのイメージを払拭に努めてきたように思う。「おれはただのミュージシャンだよ」と。今作もミュージシャン魂が伺える、素晴らしい作品だ。もはや歌詞がどうの、思想がどうの、とは言わせない問答無用のベック節を確立しているのだ。間違いなく1999年の必聴盤の一つ。(99.11.25)


BEASTIE BOYS
 The Sounds of Science
 これがロックか、ヒップヒップなのか、ということはもはやどうでも良いことだ。とにかくビースティ・ボーイズ初のベスト盤、しかも二枚組。とにかく内容盛り沢山で楽しい。
 最初のヒットである「ファイト・フォー・ユア・ライト」から随分の時が流れたが、当時「白人がラップをやっている」という、いわば色物扱いをされていたときと比べ、現在の多くのアーティストにリスペクトされている状況を考えると感慨深いものがある。
 日本ではようやくドラゴンアッシュによってロックとヒップホップの垣根が低くなったが、それをアメリカにおいて最初にやったのがビースティーズだ。このベスト盤でもデヴュー当時のハードコアモノがあったり、ロックナンバーのカヴァーがあったりと、「ロック」な曲も収録されているが、それが他のヒップホップモノと違和感なく聴かせてくれる。
 「どうもヒップホップやラップは分からない」というロックファンの方、ロックは進化しているのです。このビースティーズなど喰わず嫌いせずに、楽しいベスト盤いかがでしょうか?(99.11.21)


宇多田ヒカル
 Addicted to You(シングル)
 ずいぶん顔が変わったな、短い間に。というジェケ写も今までとは違う、ヒッキーの新曲。
 発売前にさんざんCMやFMで聴いていたヴァージョンは2曲目である。プロデュースは予告通りジャム&ルイスというプリンス一派の方々で、このため音作りがこれまでとは一変、もの凄くカッコ良い仕上がりになっている。「チキチキチキ…」と囁きか効果音か、という音をつい口にしてしまう。
 彼女の声の存在感もさらにパワーアップしたように聞こえ、もうどこに出しても恥ずかしくない曲、アーティストである。ジャム&ルイスはジャネット・ジャクソンを大物にしたが、歌はそれ程上手くないジャネットでああなのだから、ヒッキーならば…とさえ思わせてくれる、そう言っても良い曲。まさにJ-POP界の「中田」となるか? (99.11.14)


RAGE AGAINST THE MACHINE
  The Battle Of Los Angeles
 アメリカン・ロックというと、どういう音を想像されるだろうか?
 世代によって違うかもしれないが、典型的と思われるのはB.スプリングスティーン、ヴァン・ヘイレン、TOTO、ガンズ、ニルヴァーナと言ったところだろうか。
 比較的最近になるニルヴァーナは別として、アメリカン・ロックと言うのはブリティッシュと比較して「明るい」イメージがどうしてもあると思う。「陰」のUKに対して「陽」のアメリカ。そうしたステロタイプな見方が大勢だろう。
 しかし最近ではニルヴァーナあたりからか、様相は変化してきている。「病んだアメリカ」というものを感じさせる、そんなサウンドと内容。もっとも、実際にはスプリングスティーンの代表曲「Born in The USA」にしたってアメリカ批判の曲だったりするのだが、英語の分からない日本人にはただの明るいバカ・ロックに聞こえても仕方がなかった。何より「分かりやすい」のがアメリカン・ロック。陽気でポップでパーティ気分。
 このレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンこそが現在のアメリカン・ロックと言ったら旧来のイメージを引きずった多くの日本人は驚くかもしれない。さらに実はもうかなりの大物バンドとなっているのだ。英語の解る人はそのもの凄い政治批判にびっくりすることだろう。そしてこれが支持されているという現実。音はヒップホップの影響を受けたもの。こうしたアプローチの方が内容を際立たせるのだ。
 もう一度言おう。これがアメリカン・ロックだ。(99.11.13)


椎名林檎
 幸福論(シングル)
  新曲「本能」と同時発売だったのだが、予想をはるかに超える売り上げだったため、店頭からしばらく消えていた復刻版デヴューシングル。
  かなりパンキッシュな音だったアルバムの同名曲とはヴァージョンが違い、やはりシングルの曲になっている。その違いがセールスに結びついた原因の一つだろう。もちろんもう一つは未発表曲の収録で、「時が暴走する」だ。これはいかにも彼女らしいかなり神経質な歌詞が、何か不安な気持ちを掻き立ててくれる名曲である。特にその前に流れる「すべりだい」が彼女にしては珍しいのどかな曲なので一層強調されているようだ。彼女のやや分裂気味の部分が良く出ていてなかなか深いものがある一枚。(99.11.12)


wyolica feat. Kenji
 風をあつめて(シングル)
  巷では降谷建志をフィーチャーしたシュガーソウルの「Garden」がロングヒットになっているが、こちらのワイヨリカも降谷のラップとボッツのターンテーブルが加わってパワーを増した感じのする曲に仕上がっている。
  しかし、こちらはシュガーソウルに比べるとそれ程ヒットしていない。僕には不思議でたまらない。降谷の参加は別にしてもこの曲は素晴らしく良い。このワイヨリカというユニット、アズミという女性ヴォーカルとアコギの男性、という編成なのだが、このアズミが他にはいない、これまでのいわゆるR&B系とは全く異なるタイプのシンガーなのが新鮮なのだ。今、やはり眉間にしわを寄せたようなR&B系が強いのだろうが、きっと彼女らは「来る」はずである。まあ、プロデュースは大沢伸二(UA、birdでお馴染)だしね。(99.11.12)


トライセラトップス
 A Film About The Blues
  ポップ!と思っていたトライセラなのだが、これは認識を改めねばなるまい。
  もの凄く彼らは「ロック」だ。ずいぶん短期間で成長というか、本性を現したというのか、そんな会心作である。
  やはりヒットした「Going To The Moon」を最初に持ってきているのがいい。この曲を名刺代わりに、アルバムは突き進んで行く。まさに「上に上に」。シングルとしてはちょっと地味かな、と思われた「if」もこの構成の中で非常にいい味を出しており、あらためて名曲であることが分かった。
  さて最初に書いた「ロック」になったということだが、これまではどちらかというと女の子の「マイブーム」にピッタリはまるナイーヴなポップ・ロックというイメージが抜けず、「なんかいいよね」的な語られ方をしてきたはずだ。
  ところが今作で彼らは骨太なロック・バンドであることを証明した。このグイグイ来るグルーヴはきっと男性ファンを増やすだろう。正直これまでは「ライヴは女の子多そうでちょっとなあ…」と思っていたが、もう大丈夫。これは男のロック、…なんて言うと差別的だな。(99.11.6)


UA
  Turbo
  UA、やはり彼女はオリジナルな存在であることが分かった。
  思えば彼女が「情熱」で思いきりカッコ良く登場したとき、僕は「日本にも真のソウル・シンガーが誕生した!」と驚き、喜んだものだった。UAの登場で後のMisia、宇多田ヒカルのブレイクがあったわけだ。しかしながら、彼女自身は至ってマイペースを貫いた。出産後のセカンドではもの凄く暗く沈んだトーンながら(何せ「悲しみジョニー」だからねえ)高い評価を得、自分自身でも愛聴盤の一枚になっている。もうこの時点でかなり特異性を出していた。
  そしてこの新作。先行シングルでオープニングを飾る「プライヴェート・サーファー」に代表されるように、ああいう曲調を「ダブ」と呼ぶのだが、今作は「ダブアルバム」と言ってもいい。日本では馴染みが無い、レゲエを発展させたようなスタイルだが、UAによって普遍化されるだろう。フォロワーもまたかなり登場するのではないか。
  また、今作ではベンジー(ブランキー)が2曲書いてギターで参加しており、さすがこの2曲はギターが突き刺さり、何故か歌詞までがブランキーぽい(作詞はUA)。こうしたコラボレーションが他でももっともっと行われて欲しい。最近フジロックや蝦夷ロックといった素晴らしいフェスがあったのでこれから面白い組み合わせが生まれそうだ。
  全体ではポップな要素は少ないものの、もはや「何をやっても許される」彼女に敵はない。何をやってもUAはUAなのだ。あの天性の「声」を聴けばもう満足だ。
  今作を聴いて後セカンド、ファーストと遡ってみたが、あらためて「情熱」や「リズム」を聴いてみると、今流行りの「R&B系」そのものであった。もう3年前のことであるのに、だ。それは彼女がいかにオリジネーターであるということだし、そして現在の突き抜けた立ち位置を考えると、これは誰も彼女には追いつけないということだろう。作曲はしないという弱点も全くモノともしない、リスナーを納得させるあの「声」と「存在」。いや恐れ入りました。(99.11.5)


サニー・デイ・サービス
 Mugen
  なんて心地よいのだろう。初めてサニーデイを聴いたときを思い起こさせた。どうも最近(特にここに2作)は小難しくなっていた彼らだが、この新作は違う。まさにグループ・サウンズ・テイストなサニーデイが帰ってきた、そんな傑作だ。
  曲名からして良い。「恋はいつも」「時計をとめて夜待てば」「夢見るようなくちびるに」などなど。そしてタイトル通りに曲は緩やかにあたりを取り囲む。ギターを片手に歌いたくなるような…気分は長髪(ロンゲではない)だな。
  ただ、決して単なるノスタルジックな作品ではないし、ましてや懐メロバンドなどではないのだ彼らは。シングル「スロウライダー」を聴いても分かるが、こういう「グルーヴ」は昔はなかった。そこが違いだ。ダサくならない理由だ。
  もうそこそこのキャリアを持つ彼らだが、これでそろそろもう少し人気が出てもいいはずだ。前作、前々作では無理だが、このアルバムなら行ける。ただどうしても前作までの「地味渋」イメージが着いていがちなのが残念なところ。


椎名林檎
 本能(シングル)
  看護婦のコスプレ(ジャケ写)もナイスな林檎嬢、久しぶりのマキシ・シングル(3曲入り)。今回はパンキッシュ、と言うにはあまりにパンクなナンバーで、「ここでキスして」のアラニス・モリセットなイメージしかない人は驚くだろう。前から「ジャニス・ジョプリンが日本に降臨した!」とアルバム「無罪モラトリアム」を聴いて感動した私としては当然の展開でもあった。とにかくノックアウト、降参である。セールス的には「売れるだろうがバカ売れはしない音」だが、これでいい。それでもかなり売れるのが最近のセールス状況でもあるし。
  2曲目は打って変わって彼女にしては大人しい、可愛らしいとも言える作品でかなり新鮮。懐の深さを見せてくれるが、さらに3曲目は何と、ジャズ。早くセカンドアルバムを聴きたいものだ。


ZEPPET STORE
 CLUTCH
 hideが見出したバンドという位置づけはもう無用だろう。このような確信に満ちた音を鳴らされては。
 思えばこのゼペット・ストアの様な「正統派」ギター・バンドというのは日本では「いそうでいない」存在である。特に彼らはアメリカン、ブリティッシュのどちらからの影響も感じられ、といって日本の歌謡曲的な臭いは極端に少ない。このバランスは実際には貴重で、洋楽コンプレックスのせいなのか、英・米どちらかに寄ってしまうか、歌謡ロックになるかであった日本のロック界では希有な存在とも言える。
 逆に言えば、これは日本人ミュージシャンの特権だ。アメリカとイギリスはどうしても自国の音楽フォーマットに固執してしまうため、新しいものが生まれにくいのだ。完成されているわけだ。しかし、日本はまだ「これ」という「ロック」フォーマットが無いため、また固執するべきオリジナリティもないために、さまざまな要素を吸収できるのだ。
 インディーズ時代はアメリカで英語で歌っていたという彼ら。そしておそらくそんな時代へのオマージュだったのだろう全曲英語歌詞の前作「bridge」。これも傑作だったが、日本語歌詞のアルバムとしては二年半ぶりの今作は彼らの現在全てが詰まっている。もっと売れて欲しいバンドの一つだ。そういえば最近は歌番組によく出ていた。「こいつらこう見えてもオヤジですねん」と、浜ちゃんにいじられもしたのだ。先行シングル二曲はその割に結果は今一つだったと思う。あまりに正統派過ぎること、またメンバー自身の地味さのせいもあるだろうが、アルバムは是非とも長く売れるものになって欲しい。


WOODSTOCK99
  あれ、ついこの前だったような気がするけど、というスピードで登場したウッドストック99のコンピレーション二枚組〔輸入盤〕。
  一枚目は今アメリカを代表するロックバンドが勢揃い。初っぱなからコーン、そして「あは〜ん、あは〜ん」でお馴染となったオフスプリング。すっかりNo.1バンドのリンプ・ビスキット、新作はもの凄いらしいレイジ・アゲンスト・ザ・マシーン、メタルで残ったのはこの2つ、メタリカとメガデス。そしてラストはレッチリ、という豪華絢爛メンバーだ。
  統一性があった一枚目と違い、二枚目は「その他」といった趣でヴァラエティ豊か。ブライアン・セッツアー・オーケストラ(あのストレイ・キャッツのね)、ジュエル、エルビス・コステロ、アラニス・モリセット、ジャミロクワイ、ケミカル兄弟という多国籍軍(?)がずらり。
  こういうラインナップなので単純にお買い得盤として買うのが我々日本人にとってはベターかもしれない。ウッドストックが云々、というのは野暮というものだろう。出演バンドによると、ずいぶん状況はひどいモノだったらしく、「もうこりごりだ」といった声も聞かれた。もはや思想とかそう言ったものはなく、ただ騒げる場所、という認識しかオーディエンスにはなかったわけだ。そしてもの凄く安全でオーディエンスのマナーも良かった日本のフジロックについては両方に出演したバンドは口を揃えて褒め称えていた。フジロックのコンピはいつ出るんだろう。それも楽しみだ。


PAUL McCARTNEY
 Run Devil Run
  リンダが亡くなって初のアルバムになるので追悼盤だろうか。前から噂はあったが、今作はいにしえのロックンロール・カバー集となった(新曲もあり)。
  このカバー集で思い出すのはジョン・レノンの「Rock'n Roll」だろう。特に「Stand By Me」などはジョンのオリジナルと言ってもいい位の名曲だった。やはり二人ともロックンロールが大好きなのだ。イメージとしてはジョンよりもポールの方が単純なロックンロールに向いているような気もする。
  このアルバムの収録曲はメジャーなものは少なく、自分もほとんど知らないものばかりだ。そのため、あまりカバーアルバムであることを意識せず、新曲も違和感なく溶け合っており、いつものポールの新作と言っても良い。ここが「いつもと違う」ジョンのカバーアルバムと違うところで、ポールという人は今では数少ない「昔ながら」のロックンロールを作るアーティストだったのだ。でもやっぱり新曲だけのアルバムも待っています。


THE CHARLATANS
 Us And Us Only
 ベスト盤を出していたのであまり感じなかったが、実は二年半ぶりの新作であった。イギリスではもはや超大物バンドなのだが、相変わらずオアシス、ブラー以外の英国バンドは日本ではかなりマイナーな存在だ。日本で認知されるには最低でもFMでかかるような曲を出すこと。
 そしてこの新作。FMでイケそうな曲は全く無し。それどころか今までにも増して地味なアルバムになっている。耳に残るのは曲間で幾度か鳴らされる音(「good witch/bad witch」、日本盤では三回登場する)。今作で日本のファンが増えることはあまり期待できそうにない。
 それでもこのアルバムで鳴らされている音はもの凄く自信に満ち溢れている。サウンドの核であったキーボーディストのロブを亡くした今回どうなるかと懸念させたが、新加入のメンバーも違和感がないし、全員が一体となってどっかりと地に足のついた演奏を聴かせてくれる。思えばもう彼らも年季の入ったバンドになった。言ってみればベテランの堂々たる作品なのだ。デヴュー盤のペナペナした軟派なサウンドからよくぞここまで腰の据わった音に…と感慨に浸らせてくれて、何度もターンテーブルに乗せたくなる、そんなアルバム。


BONNIE PINK
 Daisy(EP)
 名盤「evil and fiowers」とシングル「犬と月」を経て、久しぶりのシングルを出してきたボニピンさん、今までプロデュースを受けていたトーレ・ヨハンセンを離れて今回から再出発、という形だ。ジャケットを見るとトレードマークにもなっていたピンクの髪の毛も金髪に変わっており、何か決意を感じさせるものがある。
 音の方もやはりかなり違う。トーレの時はカーディガンズなどで聴くことの出来る、あの「北欧サウンド」が前面に出されていたが、今回はもっとシンプルでオーソドックスだ。彼女自身が弾くアコースティック・ギターがかなりフィーチャーされているためでもあるが、どちらかというと彼女自身の個性で勝負、という造りになっている。メインの曲「Daisy」も、もの凄くシンプルだが、飽きの来ない、彼女にしか出来ないもので、また名曲が一つ誕生した感じだ。
 彼女の特徴は、といえば、「カッコ良さ」だと思う。それも今流行のR&B系の女性シンガーとは一線を画する「肩の力の抜けた」ドライなカッコ良さだ。それは以前と全く変わらない。このドライさを持ちあわせているかぎり、彼女は流行などに左右されない唯一無二のアーティストでいることが出来るだろう。


宇多田ヒカル
 First Love
 何と今頃(3月だぜ、出たの)レヴュー!これをきっかけにJ-POP路線に転換か?って事は決してありません。「乱れ撃ち」ですので。それにしても800万も売れたんだなあ、これ。
 そもそもデビューしたのが去年の12月。MISIAのヒットからこういった楽曲がヒットする可能性はあったわけだけど、じわじわとブレイク。わたくしもシングルは買っていた。この若さで自作とは大したもんだ、なんて思いながら。そしていつの間にやらもの凄いことになっていたのだ。
 あの藤圭子の娘、ということで普段CDを買わない世代も巻き込んだのもこんな数字になった要因の一つだろうが、やはり彼女の作る曲の良さ、耳馴染みの良さはたとえ洋楽に影響を受けていようが、良い意味で歌謡曲的な所を多く持ち合わせていたからだと思う。
 そしてこのアルバム。一通り聴いて、個人的には彼女は「シングル向けのシンガー」かな、と感じた。決してこのアルバム、「どれをシングルに切ってもOK!」という作品ではない。それではヴァラエティに富んでいるかというと、そうでもない。プロデュースのせいなのか、統一された音作りになっている。悪く言えば通り一遍の音だ。聴いていて少し飽きてしまったのも事実。もう少しアコースティックな、彼女の「歌」を聴かせるアレンジがあっても良さそうなものだが。どの曲も人工的で、丁度「Movin' On …」のヴィデオクリップの様な感じに仕上がっているのだ。ちょっと勿体無い。
 ただ、もうすぐ発売される新曲は「ジャム&ルイス」プロデュース(ジャネット・ジャクソンなどでおなじみ)ということなので期待できる。とにかく素材の良さは間違いなし。あとはいい料理人がいれば海外でも売れるアーティストになれるはず。


DAVID BOWIE
 Hours...
 「若いな、ずいぶん」とはジャケット写真を見た感想。最近ではクラプトン程ではないにしろ、「素敵なおじさま」化していた感のあったボウイだが、ここに来て若返った。それとも若作りか?いや、実際にこの写真は若い。どうしたのか?何があったのか?
 それはともかく、音の方も若い。別に若者向けの音というわけではない。昔のボウイが戻ってきたような、そんな懐かしさをオールド・ファンには感じさせるものなのだ。思えば、「レッツ・ダンス」以来ずいぶん迷走を続けていたが、久しぶりの帰還という趣がある。一度は過去を封印したと言っていたが、それは無理をしていたということだろうか。本来の自分に素直になり、再起、ということだろう。
 クラプトンのように年をとるのも悪くはない。しかしやっぱりロックは少年性の象徴だな。これからのボウイに期待が高まるというものだ。これで自分にもう少しボウイに思い入れがあれば最高なんだけど。何せ「レッツ・ダンス」の頃がリアルタイムだからなあ…


BIRD
 bird
 本当に女性ヴォーカリストが今、熱い。本当に実力のある人たちがどんどんデヴューしており、何故今まで埋もれていたのだろうと思わせるが、答えは簡単。ちょっと前までは売れなかったのだ、この手の音楽は。しかし有能なプロデューサーが付き、R&Bテイスト溢れるアレンジを施せば売れるのが現在の邦楽シーンなのだ。
 このbirdもそんな中の一人と言えるし、また同時に際立った個性を持った存在だ。ハイトーン・ヴォイスの持ち主、ではなくどちらかというとジャズテイストを持った味わい深い声をしているのだ。アルバム自体はヒットしたシングル2曲の他にもヴァラエティに富んだ選曲になっており、どんな曲も彼女の声の個性で聴かせてしまい、特に低い方の声に魅力を感じる。ラップに挑戦した曲もあるが、個人的にはやはりジャズ調のものに惹かれる。ジャズもこのところ徐々に回復の兆しを見せているので彼女はそんなシーンに風穴を開ける存在になるのではないか。


ERIC CLAPTON
 Clapton Chronicles
 「ギターの神様」「三大ギタリストの一人」「スロー・ハンド」などという形容詞は現在のクラプトンには全く似付かわしくないものになった。今やヴェルサーチを粋に着こなし、「酸いも甘いもかみ分けた」大人の男、と言うイメージが強く、OL御用達の一つとして確立されているのだ。たとえ禿げても恰好良い、と言われるだろう。
 このベストはそんな現在のクラプトンを実に良く表しているものになった。サントラからの新曲、「チェンジ・ザ・ワールド」、「ティアーズ・イン・ヘヴン」といったヒット曲がちりばめられたこのアルバムは日本でもヒット間違いなしだろう。ジャケット写真も彼のおしゃれな佇まいが満載だ。85年からの作品からのセレクトなので、往年のファンは昔のベストを買うしかない。それにしても昔と今でこれほどイメージが違うのだということをあらためて思い知らされた。
 しかしやはりこうして聴いてみると、彼は本当に素晴らしいソングライターであり、歌い手であり、ギタリストであることが分かる。それはただ甘いだけのAORとは次元を異にするもので、ギターの上手さが売りであった(いい曲をたくさん書いていながら)時代より現在のポジションは彼に合っているのかもしれない。


Runaway Bride (soundtrack)
 邦題は「プリティ・ブライド」。そう、あの映画のサントラ。「プリティ・ウーマン」のサントラも豪華メンバーだったが、今回はそれ以上だ。クラプトン、ホール&オーツ、ビリー・ジョエルの新曲が聴けるのはうれしい。
 すでにシングル・カットされてラジオでかかっているクラプトンの新曲は相変わらず「最近の」クラプトン節。いい曲だけど昔のような破綻はなし。クラプトンもそうなのだが、H&Oもビリーも自作自演ではない(「マンイーター」も収録されているが)。ビリーは「もうポップソングは歌わない」と言っているそうだが、確かにこの曲はポップソングではなく、憧れていたレイ・チャールズなどの路線を行きたいのだろう。声もいい具合につぶれてきており、昔ファンだった自分には残念だが、こういう道もあるだろう。
 クラプトンの曲はダイアン・ウォーレン、H&Oはデズモンド・チャイルドと、現在のアメリカの売れ線ロック界大御所(とは言えもう古い連中とも言えるが)が作曲している。みな優れたメローディ・メーカーなのに今一つ納得が行かないものがあるが、これがサントラであることを考えれば仕方ない面もある。映画を盛り上げやすい曲になっているのだ。
 その他はやや小粒だが、カントリー畑らしいディキシー・チックスがなかなか良かった。ラストのマイルスのジャズも◎。


スガシカオ
 Sweet
 脱サラアーティストの星、もうサードアルバムなのかあ。一般的には「夜空ノムコウ」の作詞者といえば通りがいいかもしれない。アコースティックなサウンドでありながら黒さのかなり濃いファンキーなノリも持ちあわせる希有の存在だが、独特のブラックでシニカルな歌詞も持ち味。特に先行シングルの「あまい果実」などは凄い。引用は避けるが、自分の彼女について疑心暗鬼に駆られた男の変化していく内面が描かれていて、「ストーカー」ソングと言ってもいいくらいだ。よくこんな歌詞の曲をシングルで出したな、と感心してしまった。しかし、そんな「濃い」内容を「誰にだってあるよね、こういうこと」ってな感じでさらりと歌っているところがまた凄い。歌詞をよく聞かなければ高性能のポップソングとして機能するし、歌詞を読めばその性格の悪さ(褒めているのです、念のため)にニヤリとして聴き込める。なかなか深い人なのだ。


SUGAR SOUL feat. KENJI
 Garden(シングル)
 「Kenji」とはドラゴンアッシュ降谷のこと。彼(とBOTS)がクラブ・シーンでは名を馳せているシュガー・ソウルと組んでリリースしたシングルだ。言わば「グレイトフル・デイズ」の逆で彼らがアーティストと競作という形で出演・プロデュースしたわけで、これがまた見事なまでのドラゴンアッシュ節が炸裂している。歌詞や降谷のライムにちりばめられた、「陽」、「天使」、「空」、「時代」、「風」、「青空」、「夢」という彼らしい単語。一歩間違えるとワンパターンになりがちな彼の書く詞だが、これらの言葉が他の誰よりも重みをもって響くことで彼らしいアイデンティティを確立しているのだ。曲も素晴らしくカッコ良く、きっと売れるだろう。
 また、カップリングは同じく降谷がプロデュース・参加しているが、こちらはどちらかと言うと従来のシュガー・ソウル路線の歌詞で、そういったラヴソングのような歌詞を降谷がライムする、というのも大変新鮮で面白かった。


THE BEATLES
 Yellow Submarine Songtrack
 またしても否定された再結成話、そりゃもうノスタルジーを呼び起こすだけのイベントなんて彼らも望んでいないだろうに。何せビートルズはとにかく革新的な存在だったのだから。この「ソングトラック」を聴いてあらためて確認できる。一体彼らはどうして、普通のバンドなら一曲くらいはこんな素晴らしいメロディーを書きたい…と思うような曲を何百曲も完成させていたのか。例えばこのアルバムに収録されている「Nowhere Man」の様な曲はビートルズの中ではどのくらいの位置を占めているかは知らないが、他のバンドがつくったら一生ものである。もう不公平、反則ギリギリの連中だったのだ、ビートルズは。
 このアルバムには映画「イエロー・サブマリン」に使用された15曲が収録されており、どれもデジタル・リマスタリングされて「良い音」になった。楽器の輪郭が明確になり、特にリンゴって意外とドラム上手かったのね、なんてことも解る。また、音の拡がりも出ていて、ステレオらしい仕上がりになった。「エリナー・リグビー」みたいにヴォーカルと楽器のパートを左右に振り分けて録音していたりしていた(これはこれで面白いのだが)のを、今回のリマスターでヴォーカルを真ん中に定位させる、ということもやっている。これでどの曲もかなり現代的になり、ビートルズの普遍性も浮き彫りにされた。オールド・ファンはこの高音質化を歓迎しない(「硬」音質化と言われそう)かもしれないが、やはり当時「最先端」だったビートルズなのだから、当然の帰結のように僕は思う。


NOW43
 日本でこのようなオムニバスが出される場合、どうしてもレコード会社の壁が厚く、その会社ごとのものしか出来ず、アーティストのヴァラエティと言う点においては限界がある。日本にも「NOW」シリーズはあるが、この本家イギリス版には質・量ともに敵わない。もっとも、最近は逆にそれを利用して、同じタイトルのシリーズ(例えば「80年代もの」と言ったような)を複数の会社から出す、という事をやっていて、これはなかなか面白い企画だと思う。
 さて、この本家「NOW」はすでに43作目。二枚組で41曲ぶち込みである。一枚目はどちらかというと英国歌謡といった趣が強く、バックストリート・ボーイズやジェリ・ハリウェル(元スパイスガールズ)などが登場。特に今挙げた二人の曲は良く作られたいい曲だ。日本でも良く耳にするはずである。他には二枚目に入れた方がいいような気がするベースメント・ジャックス。これは次の曲次第ではかなり「来る」だろう。去年のファットボーイ・スリムになれるか?あと復活カルチャー・クラブの新曲だが、これは今一つ地味。
 二枚目だがこちらの方が個人的には好き。テキサス(日本でもやっと知られるようになったかな)、ニュー・ラディカルズ(これもFMで良くかかってました)、スーパーグラス(そろそろアルバム)、ケミカル兄弟(Here we go♪)、ファットボーイ・スリム(アディダスのCM曲)、ブラー(フジロック見たかった…)、ステレオフォニックス(ロック!)などUKロックそろい踏み。日本で作ってもケミカルやブラーなどは必ず入るだろうが、その他は日英の温度差のようなものが解って面白いかもしれない。輸入盤を扱っている大型店にはあると思うので、興味にある方は愛車に一枚いかがだろうか。日本版より割安だし。


OCEAN COLOUR SCENE
 One From The Modern
 UKロックの良心、我らが兄貴、泣ける男節。まるで演歌歌手のような形容詞が付けられるオーシャンの新作。とは言え、今作は前作までの彼らの王道パターンとも言える泣き節は幾分押えられている。先行シングルとなり、FMでも割とかかっている1曲目はまだそのパターンを踏襲した名曲だが、あとはぶつける感情を控えめにしたフォーク調とも言える曲が多い。これは実際には凄い事だ。彼らはまだまだこんなものではない、と言わんばかりに前進している。大体前述した形容詞など、メディアが勝手に作り上げたものではないか。確かにブレイクを果たした2作目からどんどん地味になっていく彼らだが、聴くたびに噛みしめられる内容の濃いものを作り上げていることは間違いない。


BOSS HOGG
 Whiteout
 ジョンスペの奥方、クリスティーナがヴォーカル、そしてジョンもギターを受け持つバンド。実際にはブルース・エクスプロージョンよりも歴史は古い。もちろん贅肉をそぎ落としたようなロックを得意とするのだが、今回は何と、曲によってはトーレ・ヨハンセン(カーディガンズなど北欧もので有名)にプロデュースを任せているのだ。この異種格闘技はいきなり一曲目から展開される。…しかし思ったよりはいい感じに仕上がっている。むしろこれが今のロックの最新型か、という気もする。チボ・マットなどにも通じる独特のユルさと言おうか、もちろんテンションは張りまくりだが。なかなかトーレ、おしゃれモノだけではないようだ。とは言え聴いた後、前作を聴くと「やっぱりこれかな」と思ってしまったことも事実だが。


CATATONIA
 Equally Cursed and Blessed
 自分はあまり酒を呑めないのだが、酒好きの御姐ちゃんは嫌いではない。ステージではいつも酒瓶を置いて呑みながら歌う、豪快姐ちゃんケリスがヴォーカルの、最近盛り上がりを見せているウェールズから最も注目されているバンド。豪快ちゃんらしいパワフルな曲もあるにはあるが、実際には天使のような歌声の曲もあったり、とかなり歌い分けの上手いタイプだ。酒のせいかどうかは解らないが適度にかすれた声が心地よい。しかしステージで歌った後も呑みまくるのだろうな。


グレイプバイン
 Divetime
 その昔、アナログの時代、12インチシングルなるものが流行したことがあった。つまり、LPと同じサイズ(30Cm)でリミックスされたシングル曲を出すことが流行っていたのだ。ブルース・スプリンススティーンみたいな、いかにもシンプルなロックンロールでも当時一流のリミキサーの手でミックスされた曲に変化して発売されたのだ。自分も「カヴァー・ミー」の12インチ持っているけど、何か無理あり気な感じで、リミキサーの方もおそらくやっつけ仕事、完全に金のための仕事、と云う印象を強く受けた。でもなかなかの迷盤とも言えるものだ。
 さてこのグレイプバインもリミックスアルバムを出すと聞いて、ブルースを否応無しに思い出してしまったわけだが、さらに海外の一流どころがミックスしていると聞いてその思いというか不安は強くなってしまった。大体似合わないよ、バインにリミックスなんて。
 聞いてみて最初その予感は当たったような気がした。「スロウ」なんか一体何だか良く分からない。あんなに名曲なのに。しかし聴き進んでいくうちに「なかなかいいじゃない?」と云う気分になってきた。特に終盤の2曲は逆に原曲よりも良かった。最後はまた「スロウ」が聞こえるけれど、最初に聴いたよりずいぶん心地よさを感じたのだ。意外に何度も聴きそうな、そんなアルバム。


THEE MICHAEL GUN ELEPHANT
 Rumble(EP)
 あれ、少し後ろでやったじゃないか、と思われるかもしれないけどこれは別物。実は輸入盤でアナログ盤をタワレコで見つけて即ゲット。4曲収録の25センチという珍しい大きさのシングル盤だ。もっとも輸入盤では時々見られる。
 国内盤とのダブりはいっさい無し、「スモーキン・ビリー」「G・W・D」「ハイ!チャイナ!」そして「ボーリング・マシーン」のライヴと云うラインナップ。イエモンの時のように英語で歌うということはなく、そのまま日本語で勝負。しかし彼らなら関係ないだろう。何せ「日本語コンプレックスの無い初めてのロック」だと個人的に思う彼らのサウンドは、もはやチバの発する日本語さえ既にロック過ぎるからだ。つまり日本語の方が圧倒的に恰好良いのである。その事実を確認して改めて彼らの凄さを思い知らされる。
 うれしいのはジャケ裏に彼らのバイオグラフィが記されていることである。こうしたタイプのロックが今のイギリスで売れるのかどうかは分からないが、是非多くの英国人の魂を揺さぶって欲しい


THE YELLOW MONKEY
 SO ALIVE
 (註:前に書いたものです)98年のツアーの予定を見て絶句したものだ。日本全国津々浦々。まさに鬼のような日程は「こいつら死ぬんじゃないか」と思わせるのに十分なものだった。そのツアーのアルバムがこれ。ヴィデオ盤ももうすぐ出るとのことなので、やはりぜひ映像も見たいところだ。ライヴ盤の面白いところは、オリジナルとの相違だが、「Rock Star」の様な古い曲は当然として、名曲「JAM」の歌詞が少し気になった。「素敵なものが欲しいけど、あんまり売ってないから…」の「あんまり」が「何にも」に変わっていたことだ。もうこの世の中には素敵なものは何にも売っていないのか…。


NUMBER GIRL
 School Girl Distotional Addict
 一部で大変話題のナンバーガール、ここにフルアルバム登場。何と言っても売りは激しくたたきつけるサウンドだ。「何故そんなに性急に?」と言いたくなる位ガシャガシャと音のカタマリをぶっつけてよこす。ヴォーカルの少し引っ込んだ音に、「一体ライヴになったらこいつはどんな声を聞かせてくれるんだ?」という期待を抱かせる。ミッシェルが日本のロックに一つの形を提示し確立したが、彼らもそうなっていくのではないかという気にさせる、強烈なものを持っている。
 また話題の一つにはこのヴォーカリストの格好。昔のメンズクラブ(今の、ではない)から抜け出してきたような、メガネとボタンダウンシャツ、そして洗いざらしのコッパンが似合う、一見いそうでいない好青年風なのだ。このギャップに驚いてしまうが、彼はインタヴューで「いや、ただ普通の格好をしているだけです。外国の連中は皆そうじゃないですか」といったようなことを言っていた。なるほど。言われてみればそうで、形を大切にしがちな日本人と違って海外のアーティストは格好を見ただけではどんな音を出す連中か分からない。パンクだからと言ってみんなが髪を逆立てているわけじゃない。翻って日本では大変分かりやすく、ヴィジュアル系という奴等が存在する。また、へヴィメタが日本で根強いのも分かるような気がする。ナンバーガールは既成概念を自然体で破る存在になるだろうか?    

THEE MICHAEL GUN ELEPHANT
 Rumble
 僕は「ゲット・アップ・ルーシー」のシングルを持っていたのでこのEPコレクションとかなりダブってしまったが、そんなことは聴けば全くOK。やっぱりミッシェルはいい。今一番ロックらしいロックは?と問われれば迷わず彼らを挙げるだろう。「何がロックだよ、今はR&Bだよ、ヒップホップだよ」なんて訳知り顔に言われても鼻で笑い返すことが出来る。確かに「ダサい」ロックは多い事は確かだ。しかし彼らは「ロックはどうすればカッコ良くなるのか」を知り抜いている。海外ではジョンスペがいるが、日本にもミッシェルがいる! 


THE FLAMING LIPS
 The Soft Bulletin
 前から名前は知っていたけど、聴くのはこれが初めて。それにしても一曲目を聴いて感動の嵐に早速襲われてしまった。若干調子の外れたその声は、その音楽は間違いなく信用できるものだと悟ったのだ。一歩間違えると「なんだこの下手な歌は」で終わってしまいそうだが、この「魂」を聴き取れないのは大変勿体無い。今度は歌詞もちゃんと見ながら聴こう、分からなければ辞書を引こう。でも分からなくても「魂」ってやつは伝わるのだ。


SHARBETS
 Siberia
 シャーベッツ。敬愛するブランキー、ベンジーのソロプロジェクトなのだが、これまた恰好良いバンド名ではないか。もちろん音の方も文句無し。ベンジーの高音が聞こえるだけですっかり満足。荒涼として気分を心地よく荒ませてくれます。でも最近はブランキーの方が実験性が強くなってきたな。こちらの方がよりストレート。歌詞はブランキーほど突き刺さっては来ない。それだけに「音としてのベンジーの声」といった要素が強い。


DRAGON ASH
 Viva La Revolution
 まさに「こんな時代に満を持して登場」なこのアルバム。雑誌でもレヴューでも絶賛の嵐なのでここで褒めても仕方のないところなのだが、「もの凄くよくできている」としか言い様のない出来だ。こういう作品が20歳の手になるということがただもう素晴らしい。
 古い順から聴いて行くと分かるが、どんどん粗削りな部分が研ぎ澄まされていき、本当に純度が高いものになっていっているのだ。思えばビートルズは作品を追うごとにどんどん変化し、クオリティの高い作品を作っていったが、その作品ごとのインターバルの短さは考えてみると恐ろしいものがある。しかしドラゴンアッシュはまさにそれを感じさせる数少ないアーティストと言えるのだ。
 正直「Buzz Songs」に脳天を打ち抜かれた思いがした自分としてはこのアルバムを聴くのが少し恐い気がした。「あれほど深い感動は得られないだろうな」という。しかしこれはそんな懸念を見事に吹っ飛ばしてくれた。一般的にはヒップホップの人としてのイメージしか無いかもしれないが、パンク、ハードコア、ロック、スカ、レゲエとかなり幅広い要素を取り入れて「ドラゴンアッシュ」というジャンルを確立している。「ミクスチャー」というジャンルがアメリカであったが、彼らは日本でしかきっと出来ないミクスチャーをやってのけた。
 最後に歌詞的な部分はタイトル曲で見事に表現している。もう何も言うことはない。ただ聴け。


LIMP BISKET
 Significant Other
 小林克也さんありがとう、と言いたいです。もしラジオでかからなかったら買わなかっただろう。KORNに「?」な感想を持った私としては、その一番弟子らしい彼らに対しても同じようなもの、しかもフォロワーじゃねえ…という気分だったのだ。いやあ、ごめんなさい、いいわこれ。ロックにこれほどまでにターンテーブルがうまく絡んだ作品はないスね。ドラゴンアッシュのアルバムにも期待がかかるけど、「ヒップホップ」と「ロック」にはっきり分かれているような気がするし…まあ、単純により分かりやすいし、どちらかというと暗いイメージのKORNに比べてリンプはジャケット同様かなり明るい。この夏、ガンガン車でもかけましょう!…女の子を乗せて、と言うのはあまり勧めませんが。


トライセラトップス
 ゴーイング・トゥ・ザ・ムーン(シングル)
 ポカリのCFですぐに「あ、トライセラだ!」とわかった「らしい」曲。しかも全開と言っていい。結果初のヒットとなったが、もう驚かないね。決定打がいつ出るか出るかという状態だったのは間違いないことで、テレビで流れれば当然ヒットする。それだけのことだ。「上に上に突き進んで、どこまで行けるか確かめてみたくもなるのさ」という歌詞も前向きな、ヒット性を持ったものだ。ただ、これまでの歌詞が「ささやかな君と僕」の物語だったのが、一般的なものになってきたと言うこともできる。ここが大きな違いだろう。


BLANKEY JET CITY
 Peppin(シングル)
 先日初めて彼らがテレビで演奏するのを見た。司会者の質問にも「…」とほとんど黙ったままで、一緒に出ていたフミヤがフォローしていたのが笑えたが、演奏に入り、ベンジーがあの高い声で「愛してた…」と歌いだすと、もう身震いを禁じえなかった。一気に辺りが荒涼とした大地に変わった。今まで散々聴いてきて慣れているはずのベンジーの声とこの新曲。しかしテレビという媒体でうたわれるベンジーは明らかにその他の出演者とは別格だった。とにかくあまりにも存在感がありすぎたのだ。改めてこの人の凄さを思い知らされた。その時の衝撃をうまく表せない自分の文章力の拙さが情けないが。
 この新曲は「ロメオの心臓」でも展開されていたようにかなりブレイクビーツを導入して、実験性が強い作品だが、前述したようにベンジーの声。ブランキーは何をしようとブランキーである。歌詞は「誰だ、ぺピンって?」という文学性の強いもので、メッセージ性はあまりないが、「水色の夕焼け」とか「でもそれは…でもそれは」と繰り返すところにやはりソングライターとして卓越したところを見せている。エンディングも最高。


グレイプバイン
 ライフタイム
 「空気に溶けるような」といった感じがぴったりの「スロウ」は、あのはっきりしない発音と相まって女性ファンを増やしたのではあるまいか。ちょうどブリリアントグリーンの男版みたいな。その「溶け具合」の程よさを彼らの良さと判断したならば、このアルバムは少し裏切られるかもしれない。もちろん骨太のロックが展開されるというわけではないが、元々演奏力にはかなりのものがあるので、意外とストレートな音になっている。「スロウ」や先行シングル「光について」のような必殺とも言えるメロディが他の曲には見られないのが残念だが、20代前半の音楽好きOLにはかなり受けるのではないか。


CIBO MATTO
 StereotypeA

 最近のヘヴィーローテーションの一枚。少年ナイフと同じで「アメリカで活躍する日本人女性アーティスト」なんだけどそうした日本人うんたらは関係なしに恰好良い。こういうとても自分では考えられないセンスには脱帽せざるを得ないし、ジャンルとかなんかを超えた音を当然と言った顔で鳴らされると、もうこれは聴くしかないとった感じで何度もターンテーブル(CDだけど)に載せてしまうのです。

 ところでショーン・レノンが正式のメンバーとしてクレジットされているのもうれしい。お互いが与えあう影響は計り知れないものがあるだろう。ショーン自身のアルバムは少々難解な(あまりに単純すぎて難解)部分があったけど、チボマットに加入することによって、うまく表現されているような気がする。とにかく言えることは日本人でも「リズム感」が良ければ海外でも受け入れられるということ。以外と無いんだよね、これが日本人には。


SOPHIA
 マテリアル
「黒いブーツ」。これを歌詞が聞き取れるまでになってくると、なぜか泣いてしまいたくなった。そんなに泣かせるような内容ではないし、曲調だってポップではあっても重くはないのに、だ。最近インタヴューでヴォーカルの松岡は、死んでしまった友人のことであることを告白した。逆に軽くポップに歌うことでその悲しみ、というのか気持ちが伝わることもあるのだな、と思った。先行シングル「ビューティフル」はまた、自分のようなサラリーマンには突き刺さるような曲だ。さらには「ロックは詳しいぜ」と来た。これには参ります。「ロックに詳しいサラリーマン」。そんなに多くはないだろうから多くの共感は呼ばないかもしれないが少なくとも自分には来ました。この曲の最後「僕は僕を壊してく」というのはいろいろな解釈があるだろうけど、少なくとも「壊す」のをネガティヴに捉えては決していないと思う。壊さなければ次へ行けない自分があるからだ。アルバムには他にも必殺のフレーズ満載。曲はまだ以前のヴィジュアル系っぽさを残したものもあるけれど減点にはならない。確かに「ビューティフル」のようなグラムっぽい曲調が個人的にはもっとあると良いけど。


Dragon Ash
 「I。HipHop」「Greatful Days」
 どうしてしまったのか、この人気は。とは前から好きだった人が同様に感じていることと思うが、それにしてもこの売れ方は凄い。もっとも昔のようなインディー根性に凝り固まっている時代でもないので、上昇志向の強い彼らにとっては喜ばしいことだろう。それにしても、と何度でも言いたくなるがこの二枚同時にシングル発表。のってますなあ。前者は「もしかしてオリジナルを今の若い連中は知らない…よな、確かに」と思わせるナンバー。どんどんヒップホップ化が著しいのはずいぶん韻を踏むようになったことだ。どんどんカラオケでライムしましょう、って感じ。個人的にはエンディングが最高。後者はゲスト(ACO、ゼブラ)を迎えて「感謝」のナンバー。これも文句なしにかっこいい。売れるでしょう。…しかし、やっぱり「Under Age’s Song」にはどれもかなわない、というのが超個人的な感想。僕にとって彼らはやっぱりロックだし。もちろん今の路線を否定する気は全くないし、彼らに合っていると思うし、しかも表現形態はどうあれ、「ロック」を感じればそれでいいのだ。ただ、最近は「ロック」より「ポップ」に向かっているかな、という気がするのだ。それがセールスには繋がるんだろう。でもこれは「勝つための確実な前進」だろう。実際に「勝って」いるのだから。


BLUR
 13
 カモンカモンカモン、と「テンダー」が頭を巡っています。最初聴いたときは「なんだこりゃ」って感じだったが、今は愛聴盤の一つ。よく書かれていることだけど、これは彼らのターニング・ポイントなんだろうか。次が楽しみ、って声も聞かれますが、僕はこれもかなりいいっスよ。思えばブリットポップなんてものに躍らされて彼らもずいぶん困ったことだろうが、これで「ブラーらしさ」を見いだしたんじゃないか。前にソロを出したグレアムの存在も今回かなり大きい。