魔法都市日記(26

1999年1月頃


「マジェイアのカフェ&魔法都市案内」の表紙は、オープンしてからずっと同じものを使っている。正月くらい、ホームページの表紙も模様替えしようかと思ったが、遊びほうけているうちにすっかり忘れていた。いまさら表紙を変えるのも面倒なので、家人が玄関に活けていた正月用の若松を張り付け、安直に正月らしい雰囲気でも出しておこう。(笑)

某月某日

暮れから正月休みにかけて12連休もあったので、連日遊び回っていた。よほど遊びに体質があっているのか、遊んでいるときはピンピンしていたのに、仕事始の夜から、突然喉が痛くなってきた。インフルエンザにかかったようで、喉、鼻ときて、頭痛までしてきた。特に最初の1週間はひどかった。

かかりつけの近所の病院に行っても、いつもなら待ち時間10分以内の病院なのに(笑)、1時間以上も待たされた。インフルエンザがどれだけ流行っているのか、よくわかった。また、今年のは強烈だと聞いていたが、実際、私も完全に治るまでに3週間近くかかってしまった。こんなに長引いたのは初めての経験である。そのため、1月上旬から下旬まで、なるべく外には出ないようにしていた。出かけたのは2,3回しかない。こんなとき、職住接近はありがたい。(徒歩十数歩)そのかわり、マジックは年頭に数回やっただけで、後半はほとんどできなかった。

某月某日

新年早々、オフ・ミーティングのためわざわざ遠方から来てくださった方々や、知人の家でマジックを見せる機会が何度かあった。

このとき、「今年はウサギ年ですから、それにふさわしいマジックをお見せします」と一言付け加えて、例の「スポンジのウサギ」を取り出すと、いかにもそれらしい雰囲気になる。 (笑)

スポンジのウサギ

知らない人は、卯年だから、本当に私がわざわざウサギのマジックを用意してきたのかと思ってくれる。実際は干支に関係なく、これは年中やっている。(笑)実演回数で言えば、もっとも多いマジックの一つである。小学生の頃....、ということは40年近く前になるが、デパートのマジックコーナーで、「スポンジの犬」を見せられ、そのとき以来気に入ってやっているのだから、究極のレパートリーのひとつである。

私が実際にやっている「スポンジのウサギ」には2,3のヴァリエーションがあり、見せる相手によって変えている。最近はもっぱら根本氏の「究極のウサギ」を使わせてもらっている。これは演出がおもしろく、本当によくできている。黒いウサギが一匹生まれるところや(不倫ギャグ)、ピルを使って避妊させるところなど、爆笑ネタがふんだんに入っている。根本氏が数十年かけて積み重ねてきたエッセンスがふんだんに取り込まれていて、一つのマジックを細かいところまで神経を使って磨き込むと、ここまで楽しくなる。

今回、女の子に見せたら、本気でこれをやりたいと言い出す子がいたのには弱った。ぜひ、覚えたいから教えて欲しいとせがまれてしまった。マジックなんかやったこともない子なのに、なんだかひどく気に入ってくれたようで、本気でマスターしたいらしい。

「このウサギは外国製だから日本では手に入らない」と言っているのに、スポンジを切って、自分で作るとまで言い出す始末で、そこまで気に入ってくれたのなら、見せた私もうれしくなってしまい、即席のレクチャーをしてしまった。(笑)幸い、うちには予備のウサギが数組あったので、このウサギもプレゼントしてしまった。「黒いウサギ」までついたフルセットであるが、これはゴッシュマンが売り出したもので、今でも10ドル程度で販売されているはずである。こんな安いものでこれほど喜んでもらえるのだから、マジックはありがたい。(笑)

スポンジのウサギには、普段はめったにやらない別ヴァージョンもある。と言っても、途中までは同じで、最後のクライマックスに、テンヨーから出ている「ラビット・エクスプロージョン」を付け加えるだけである。これは2匹の親ウサギを手の中に握ると、子供が50匹以上、いっぺんに産まれる。テンヨーの加藤英夫氏のアイディアを商品化したもので、今でもディーラーのいる売場では販売されているはずである。とにかくマニアでも、初めて見せられると、産まれてくる子ウサギの数に驚くだろう。演じるには少々準備が必要なので、普段はあまりやらないのだが、ウサギ年の年頭でもあるし、知人の家に行ったとき、昨年の秋に結婚したばかりの新婚のカップルが遊びに来ていたのでこれを見せた。すると、このカップルのおばあちゃんがえらく喜んでくださった。(笑)これだけ子供が産まれるのなら、縁起のよいマジックとして、新婚のカップル用としても役に立つことがわかった。結婚式の2次会でも、これをやることにしよう。

某月某日

風邪が一番ひどかったころ、家で古いマジックの本を引っぱり出してきて読んだり、ビデオを見ていたら、ジョン・ラムゼイのマジックのことが気になりだした。ラムゼイのマジックを紹介しているビデオも久しぶりに見ると、タネが完全にはわからないところが数カ所ある。ラムゼイの弟子であるアンドリュー・ギャロウェイがやっている例のビデオである。ギャロウェイはラムゼイの本を数冊出しており、解説は決して悪くないのだが、演技者としてはアマチュアであり、何ともいただけない。技術的にはほぼ完璧であるが、とにかく雰囲気が暗い。彼の風貌も暗いし、演技も暗すぎる。おまけに助手の女の子がニコリもとしない子で、最近では考えられないようなビデオである。(笑)

マジックのビデオが出始めた十数年前のものだから仕方がないのだろうが、今のレベルからすると、あのままでは売り物にならない。誰かもう少しましなマジシャンを使って撮り直すべきだろう。あのままではラムゼイのマジックまでが単調で、つまらないように思われてしまう。

実際はそのようなことはなく、ラムゼイの原案は大変細かいところまで考えられており、ハンドリングも巧妙に組み立てられている。"Master of Misdirection"という称号まであった人だから、ミスディレクションはよく研究されており、マニアが見ても、一度だけではタネを完全にフォローするのはむずかしい。

ラムゼイのトリックとしては、「シリンダーとコイン」がもっともよく知られているのだろうか。

数年前、ジョン・カーニーが日本に来たとき、レクチャーで講習したしたようで、そのため、一部のマニアの間で流行っていた。ただ、これは猛烈にむずかしいマジックであり、だれでもできるというものではない。おそらくラムゼイのマジックの中でも、最もむずかしいものだろう。これは途中でわざと怪しげな動作が入り、それで観客を二重にひっかけるようになっているのだが、下手な人がやると、この部分がただの怪しい動作にすぎず、それが演出なのか、本当に下手なのか、区別が付かない。そのため、見ている側が余計な気を使わされる。下手な人がやると、見ている側は現象まで混乱してきて、何がなんだかわからなくなる。うまい人がやってはじめて、怪しげな動作が意味を持つ。

ラムゼイの本で有名なものとしては『ラムゼイ・クラシック』(The Ramsay Classic), 『ラムゼイ・レジェンド』(The Ramsay Legend)『ラムゼイ・フィナーレ』(The Ramsay Finale)がある。いずれもギャロウェイの著作になるものである。

先のビデオでは、ギャロウェイの本に載っているものを実演しているのだが、種明かしの部分はない。タネは本を買って読めということなのだろ。

『クラシック』を読み返して、『レジェンド』も読もうとしたら、本棚に見あたらない。絶対あったはずなのに出てこない。ビデオではわからない部分があり、本で確認しようとしたら見あたらないので、だんだん焦ってくる。見つからないとなると余計に気になる。とうとう三田さんにヘルプのFAXを送り、『レジェンド』の中の数ページをお願いすると、10分後くらいに折り返しFAXが入り、速攻で送ってきていただいた。こんなときFAXはありがたい。

それにしても、ある本が友人の書架にあるとわかっていると、ただちにFAXで送ってもらえるという環境は、友人の書斎と自分の書斎がドッキングしたようで、便利なことこの上ない。私の周りには師匠の松田さんや三田さんはじめ、けた外れに博覧強記な友人が大勢いるので本当に助かる。「魔法都市案内」が何とかやって行けるのも、このような方々のバックアップのおかげであり、私だけの力では到底不可能である。

FAXで送ってもらったトリックを読みながら、もう一度ビデオを見て確認していると、その夜、六人部慶彦氏から数年ぶりで電話があった。昨年の11月、愛好会主催で開いたコンベンションのとき会えるかと思っていたら、彼の学会出席のため会えなくて残念であった。

今から20年ほど前、彼がまだ高校生の頃、よく深夜の12時過ぎにうちに電話がかかってきた。受験勉強のため、マジックを禁止されていたので、家族が寝た頃、かかってきていたのだ。毎回、深夜、男二人で2時間くらい喋っていた。(笑)

この電話の直後に、さっきまで見つからなかった『レジェンド』が突然出てきた。この本はハードカバーの本だと思い込んでいたので、目の前を通り過ぎても気がつかなかった。実際にはソフトカバーで、簡易製本のものであった。『レジェンド』を開いて、もう一度驚いた。なんと、この本の中のいくつかのトリックを日本語に翻訳したものがはさまれていた。これは六人部君が高校生くらいのとき、私が『レジェンド』を紹介したら、彼が訳したもののようである。しかし、高校生の訳にしてはうますぎるので、誰かにアドバイスをうけながら訳したものかも知れない。何にせよ、『レジェンド』を探しているときに、六人部君から数年ぶりに電話があり、しかも彼の翻訳したものが出てくるなんてシンクロニシティがあるのかと思ってしまった。(笑)

某月某日

先月の「魔法都市日記」で、Y君の考案したマジックを紹介したら、読者の方、数名から、タネを推測したメールが来た。中にはお一人で5,6種類のタネを推測してくれた人もいたが、いずれもハズレであった。あれはちょっとわからないと思う。正解は、「カードコントロールとピークを利用したものである」と言っておけば、マニアであれば予想がつくだろう。

某月某日

12月の上旬に、「スカーニーの1,000ドルのカードトリック」を紹介したら、約一月ほどの間に60名ほどの方からメールが届いた。それも一段落した頃、1月15日になって、再び突然、このトリックを教えて欲しいというメールが殺到した。それも今回は、わずか1日で、50通を越える申し込みがあり、最初は何が起きたのかわけがわからなかった。

実はマイクロソフトがやっているインターネットのスタートページに、「魔法都市案内」が紹介されたのが原因であった。ここに紹介されると、一日のアクセス数だけで1,000近く行ってしまうらしい。そのときの顛末は、「マイクロソフトの影響力」に書いておいたので、興味のある方はお読みいただきたい。

結局、「スカーニーのトリック」は1ヶ月半ほどの間に、約130名の方に教えたことになる。クリスマスや新年会など、人が集まる場が多い時期でもあったので、そのようなところでやってみたいというメールもかなりあった。

しかし、今回紹介した「スカーニーのトリック」は、そのような場所で見せるマジックとしては適当なものではない。あれはあくまで少人数が対象、具体的には同じテーブルに座っている数名に見せるものであって、大勢の観客がいる場所で演じるには不向きである。特殊な道具なしで、宴会やパーティなどでに向いているマジックもあるので、今度は「オン・ライン・マジック教室」で、そのようなものでも紹介しようと思っている。

このトリックとは直接関係はないが、頂いたメールの中で、「魔法都市案内」や「煩悩即涅槃」を印刷し、ファイルにして保存してくださっている方が何人もいてくださることを知った。私もそのようなものを実際に見せてもらったこともあるが、大変ありがたいことだと思っている。

プリントアウトして、読み返すために保存していだくのは全然問題ないのだが、一言お願いしたいことがある。それは、更新した当日は、絶対にプリントアウトしないで頂きたい、ということである。自慢じゃないが、100%、どこかおかしなところがある。(汗) 私が書いたものは、ほとんど校正もせずに、とりあえずすぐにアップロードして、翌日もう一度ざっと読み直し、おかしなところを見つけるようにしている。毎回、必ずどこかにおかしなところがあり、修正しているので、保存用のプリントアウトは、更新日から2,3日遅らせてやっていただいたほうが、誤字・脱字等も少なくなっているはずである。

マジェイア

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