★ジョン・ラムゼイ氏の御言葉

もし、観客にある部分を見てもらいたいのなら、まずあなたがそこを見なさい。


もし、観客にあなたを見てもらいたいのなら、あなたが観客を見なさい。

John Ramsay(1877-1962)

"The Ramsay Legend"


マジェイアの蛇足

ラムゼイの手は見た目にも決して器用そうなものではなく、指も太く、短いものでした。しかし、彼の手にかかると、コインであれカードであれ、魔法のように消えたり、現れたりします。これはラムゼイがミスディレクションを巧みに使っていたからです。ミスディレクションというのは、観客にじっと見られていると都合の悪い部分から、観客の視線や集中力を他の部分に向ける技術のことです。

「私は一人で仕事をしています。しかし、私には見えないアシスタントがいるのです。彼女の名前はミス・ディレクションです」

ジョン・ラムゼイには"Master of Misdirection"という称号が与えられていました。これは、ラムゼイが好んでよく言っていたジョークです。

古いマジシャンでは、マックス・マリニもミスディレクションの効果を知り尽くしていた人です。ダイ・ヴァーノンは実際にマリニの演技を見ている「生き証人」ですが、マリニの行う技法は、もし観客がじっと彼の手元を見ているなら、何をやったのかわかるそうです。特にマジシャンであれば、大抵はわかってしまうそうです。しかし、実際にマリニにマジックを見せてもらうと、どこにもあやしげなところはなく、本物の魔法としか見えなかったのです。これもミスディレクションのためです。

マリニもラムゼイも、使っているミスディレクションの基本的な原理は同じです。最初に紹介した二つに集約できます。

1.「もし、観客にある部分を見てもらいたいのなら、まずあなたがそこを見なさい」
2.「もし、観客にあなたを見てもらいたいのなら、あなたが観客を見なさい」

1と2は同じことですが、2は特に重要です。もし手元を見られたくないのであれば、観客のほうに視線を移し、観客の顔を見たり、観客の顔を見たまま何かを話しかけることによって観客もマジシャンの顔を見ます。この瞬間に、技法を行うのです。

ラムゼイが強調していることですが、この1も2も、大抵のマジシャンは理屈としては知っています。しかし、実際にこれを意識して、実践しているマジシャンはほとんどいません。大抵のマジシャンは何かの技法を行うとき、自分の手元を見ながら行っています。そのため、観客の視線もそこへ注目します。つまり、観客が最も集中して、注目しているときに技法を行うため、バレやすいのです。カードマジックであれば「パス」を行う瞬間は観客に何かを話しかけ、観客の視線を上にあげたときに行えば少々ヘタにやってもばれることはありません。

マリニなど、観客の誰かが自分の手元をじっと見ているときは絶対に技法を行わなかったそうです。その人に話しかけ、視線が手元から逸れた一瞬をとらえて技法を行っていました。そのため、彼の演じるマジックは、まさに魔法のようにしか見えなかったのです。

ミスディレクションというと、何か大げさな動作をするように誤解しているマジシャンも大勢いますが、けっしてそのようなことはありません。ごく自然な動作、ゆっくりした動作でよいのです。ミスディレクションで有名なスライディーニは大きな動作をしていましたが、あれはあれで彼の動きにあっていました。しかし、一般には、あれほど大きな動作をする必要はありません。技法を行う瞬間、観客の顔を見るということを意識的に実践するだけでも、その効果のほどはわかるはずです。

ミスディレクションについては、「これからマジックを始める人のために」の中にもあります。


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