魔法都市日記(29

1999年4月頃


某月某日

今月は東京、大阪などで統一地方選挙があった。選挙の少し前、テレビのスイッチを入れると、偶然、政見放送が流れていた。政見放送では、大政党推薦の、いかにもプロの政治家といった人や学者なども数多く出ているが、あやしい雰囲気の人も時々見かける。今回私が偶然見た人も、風貌からして普通でなかった。あまりにも奇妙な雰囲気なのでしばらく見ていると、マジックをやっている人間が聞いたら、腰を抜かすようなことを選挙公約にしていた。

なんでもこの人はインドで修行をしてきたそうだが、当選したら、ヨガを日本に普及させることと、マジシャンが舞台でよくやっている「人体切断」、これは人道上よくないので、当選したらこの「人体切断」を全面禁止にしたいと言っている。何、これ?このオヤジは正気か?(汗)

いくら政見放送では何を言ってもよいとはいえ、「人体切断の禁止」を公約にして票が集まるのか?それともよほどマジシャンに個人的恨みでもあるのだろうか……。

衆議院や参議院の選挙でも、「UFO党」や「ゲイ党」など、普段見かけることのない政党もよく出ているので、この候補者もそのような人かと思った。言っていることがあまりにもおかしいので、ビデオのスイッチを入れて録画しようかと思ったくらいである。しばらくすると、この人は両手を上に伸ばし、万歳をするような格好をした。手の先は画面からはみだして見えないが、手を伸ばした辺りには棒でもあるのか、突然懸垂をするような格好で、体を持ち上げた。首から上が画面から消えた。これもヨガのパフォーマンスか?!

ここで画面は急に切り替わり、政見放送は唐突に終わった。普通は最後に候補者の略歴や政党名などのアナウンスが流れてから終わるのに、懸垂で顔が画面から消えた瞬間にこの番組も終わった。テレビ局が、あまりにもまずいと思い、切ったのだろうか。

わけが分からないので、新聞のテレビ欄を確認すると、この時間帯にはどのチャンネルでも政見放送などやっていない。今のはいったい何だったのだろう。8チャンネル(関西TV:フジ系)であることはわかったので、テレビ局に電話を入れた。

「今、そちらの局で政見放送のようなものが流れていたのですが、あれは何ですか?」

「政見放送?いつですか?5分くらい前?うちの局では政見放送などやっていませんが」

「でも、確かに8チャンネルで、政見放送のようなことをやっていましたよ。へんな人が出てきて、人体切断の禁止を公約していました」

「はあ? ジンタイセツダン?ジンタイセツダンって何ですか?」

「ほら、マジシャンが舞台でよくやっているので、人間をノコギリで切るのがあるでしょう、あれですよ」

「はあ....、とにかくうちでは政見放送なんかやっていませんが」

「じゃ、5分くらい前、何をやっていました?」

「えーと、XXXというワイドショーですが」

どうらやらあれは、番組の中で、ギャグのようなことをやるコーナーがあり、それが流れていたらしい。関テレも、ややこしい時期にややこしい番組をやるなよ。やるんだったら画面の角にでも、「ギャグ」とでも入れておいて欲しい。

某月某日

トトメス3世像JR京都駅ビルの中にある美術館「えき」でやっている、「ウィーン美術史美術館所蔵 古代エジプト展」(4月10日から5月16日)を見に行く。

今回の展示品は18世紀から19世紀のウィーンで、ハプスブルク家の皇帝のなかでも特にエジプト好きのマクシリミアンが集めたものである。現在、ウィーンの美術館が工事中のため、その期間、日本に来ているらしい。ファラオの彫像、石棺、2体のミイラなど、130点が展示されている。

紀元前二千数百年前の出土品を眺めていると、マジック関係の絵や文書として残っている最古のものも、その時代であったことを思い出した。

ベニハッサン村の壁画中部エジプトのベニハッサン村にある洞窟に、今でいう「カップ・アンド・ボール」を演じているものと思われる壁画が残っている。また同じ頃のもので、「ウェストカー・パピルス」に呼ばれる文書には数名のマジシャンが登場する。

ウェバー・アナーは、蝋(ロウ)で作った15センチほどのワニを本物のワニに変え、自分の妻を誘惑したある大金持ちを池に引きずり込んで復讐した。 デディはピラミッドを作ったクフ王の前で、生きたガチョウやカモの首をはね、それをまたもとに戻すという術を披露したと記されているそうである。

Gold Finger

そういえば、昔、ツタンカーメンの金のマスクが日本に来たとき、スコッティ・ヨークの手順にヒントを得て作った私自身のルーティンがある。金色のサムチップを使い、ハーフダラーを擦ると金貨に変わって行くマジックである。「スペルバウンド」の一種であるが、最後は財布まで上の写真のように金色に変わってしまう。今回、売店で見かけた箱に、この金色のサムチップなどを入れておくとそれなりの雰囲気になりそうなので買ってきた。 (上の写真の箱)

某月某日

最近は大阪奇術愛好会の例会に、まめに出席している。長い間マニアの前では全然マジックをやっていなかったので、昔やっていたようなものは99%、私の頭から消えてしまっていた。ところが不思議なもので、マニア同士で話をしていると、何かの拍子に昔よくやっていたマジックを思い出したりする。そのようなものの中でも、ロジャー・スミスの"Revolutionary Card Composition"のシリーズに入っている"SLOW-MOTION ACE SWITCH-A-ROO"は、昔、本当によくやっていた。これは一般の人に見せてもよいが、マニアに見せると、当時はこの種のプロットがまったくなかった時代なので、たいてい驚いてくれた。

また、エド・マーローのビデオで、私がまだ知らなかったものを最近見たら、マーローにもまた興味がわいてきた。

20数年前、松田さんからお借りしたマーローの膨大な作品群を片っ端から読んだ時期がある。食傷気味になって、マーローはもういいと思ったが、マーロー自身がやっているビデオで、A-1 MutiMedeiaから出ている"THE CARDICIAN"などを見ているとると、あらためて練習したくなってきた。

10年ほど前にもマーローの4巻セットになっているビデオを見たが、マジックのビデオが出始めたばかりの頃録画されたもので、画像も悪いし、助手の女の子....、というより、近所のおばさんを二人連れてきて、即席の助手にしているだけといった風で、見るに堪えないものであった。この4本を見るだけで、数ヶ月かかった。夜、布団に入ってから見ていたから、あまりのつまらなさに、見始めて5分もしないうちに眠ってしまう。これを見ると条件反射のように眠くなるものだから、いつも最初の数分間で記憶が消える。夜、布団に入ってからではいつ見終わるか見当もつかないので、昼間、寝られない部屋で無理矢理見た。この経験があったからマーローのビデオは金輪際見ないと決めていたのだが、"THE CARDICIAN"という名前にひかれて見た。同名の本があり、ひょっとしたらその中のマジックを実演しているのかと思ったが、それとは関係なかった。

実際に見ると、これは予想外におもしろかった。マーローは旅行が嫌いなため、シカゴからほとんど動いたことがない。このビデオでは、最初にシカゴのバーや、昔、マット・シュリーンという有名なバーマジシャンが経営したバーなどを紹介している。私など、この部分を見ることができただけで、十分満足であった。シュリーンの店は、今は息子が後を継いでおり、オヤジさんが得意にしていたいくつかのマジックを息子が実演している。

シカゴの町を見ていると、無性に行ってみたくなってきた。シカゴという町は今でもアル・カポネが出入りしているような雰囲気があり、大都市ではあるが、ニューヨークなどとは雰囲気が異なり、ノスタルジーを感じてしまう。

もう1本は"THE LEGEND"。先のビデオもこれも、マーロー自身がやっているマジックもおもしろいので、カードマジックがお好きなら買っておいて損はない。

某月某日

蓮井さんから先月の続きで、ポール・ダニエルズのビデオがまた35巻届く。これで「ポール・ダニエルズ・ショー」の16年間分!、ビデオにして65巻を頂いたことになる。本当にお礼の申し上げようもない。

現在毎晩のように見ているが、全然飽きない。やはりイギリスでこれだけ長い間続いた番組であるので、番組自体がおもしろくないはずがない。1回分が約40分ほどであるが、その中でマジック自体の時間は半分くらいであり、後はいかさまのギャンブルのようなものを紹介したり、パズル、ボードビルのショーとヴァラエティに富んでいる。

それにしても16年間という年月は長い。1979年にこれが始まったとき、ポール・ダニエルズは41歳であった。1995年には57歳になっている。57歳の時のビデオを見ると、始まった頃とは別人かと思うくらい髪の毛も白くなっており、びっくりする。途中をすっ飛ばして、最初と最後だけを見るとその変わり様に驚くが、この間には16年間という月日が流れている。彼は晩婚で、50歳の時に結婚してる。毎月見ていると、歳の取り方はあまり気がつかないのだろうが、ビデオでまとめてみると、年月というのは残酷なくらい人を変えることがわかる。

昔、松田さんがどこかに書いておられたが、ある写真のマニアは、毎朝、自分の顔を一枚写真に撮っているそうだ。それを数十年後につなぎ合わせて映画を作る。すると、自分の顔が数分間のうちにしわが増え、皮膚がたるんでゆく様子がわかる。当人にとっては、どんなホラー映画を見るよりも恐ろしいものが見えるかもしれない。

某月某日

大阪駅前の阪急百貨店、6F美術画廊であった、「西田明夫・加藤裕三 からくり人形展」(4月28日〜5月4日)に行く。

魔女の綱渡り

木製の「からくり人形」で、どれも実際にさわって遊べるようになっている。「からくり人形」というと、日本に昔から『茶運び人形』のようなものや、西洋のオートマタのようなものを思い浮かべるかもしれないが、お二人の作品は外見はもっと素朴なものである。素朴といっても、デザインはどれも作者のセンスが反映され、今までにないようなものになっている。

値段は数千円から数万円程度であり、それほど高いとは思わなかった。私は壁に糸を張って、糸の上を自転車に乗った魔女が走る「魔女の綱渡り」を予約してきた。(9,800円)一ヶ月ほどで作っていただけるらしい。

西田さんの工房は岡山にあり、そこでペンション風のすてきなホテルも経営されている。私もこのような木を削ったりして何かを作るのは好きなので、リタイアしたらそのような生活にあこがれる。

山の中にホテルを作るのは無理だろうから、ログハウスでも建てて、晴耕雨読プラス、マジックの生活でもできればと思っている。山の中と言っても、車で1時間か2時間で大阪や神戸に戻れ、インターネットができる環境であれば、今ではどこにいても不自由はない。

 


補足:先月の日記で、「愛人」とあったがあれは誰だ?という問い合わせがあった。人の「愛人」の心配までしてくれなくてもいいのに、気になって眠れないというメールまで来た。(汗) 「愛人」と言っても、括弧つきの「愛人」だから全然たいしたことはない。近所に住んでいる元教え子で、現在大学生をやっているお姉さんである。(笑)

マジェイア


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