魔法都市日記(46

2000年9月頃


ランプ博物館

9月は、マジック関係で出かけたのはダロー氏のレクチャーと、I.B.M.の例会くらいのものであった。美術館や博物館、デパート等でやっているイベントも今は端境期なのか、めぼしいものもなかった。この機会に、最近感じているマジック界のことやマジックにまつわることを中心に書いておくことにした。


某月某日

"SWEET SWEET GHOST"を映画館で見た。 (制作・配給 日活、監督・脚本 芳田秀明 2000年)

SWEET SWEET GHOST映画館で日本映画を見るのは久しぶりである。「久しぶり」と言ったが、前回映画館で邦画を見たのはいつのことなのか、さっぱり思い出せない。10年さかのぼっても1本も思い出せないところをみると、10年以上見ていないのだろう。さらにずっと昔、暑いときに雪の『八甲田山』を見たのは覚えている。あれはもう20年以上前になるはずである。それよりさらに前となると、40年くらい前の『月光仮面』、『ゴジラ』あたりまで戻ってしまう。

"SWEET SWEET GHOST"は「青春ラブストーリー」といった範疇に分類されるのだろうか。私が絶対見ることのない映画なのだが、この映画が制作されるとき、関係者の方からメールをいただき、マジックのことで相談を受けた。アドバイスといっても私には無理なので、プロマジシャンの前田知洋さんをご紹介した。そのようなご縁もあり、今回、大阪でも封切られたのを機会に見に行ってきた。

映画の中では古風なマジシャンがステージマジックを見せる場面が何度かあった。時間にすれば短いものであるが、前田さんの協力もあり、よく雰囲気が出ていた。私としては、このステージの場面よりも、「悪魔」と呼ばれるマジシャンが見せた即席マジックに興味をひかれた。財布の中を「透視」するマジックである。これは使える。これを知っただけで、この映画の入場料くらい元が取れてしまった(笑)。どのようなことをやったのかはここでは書かない。あれが監督のアイディアなのか、前田さんのアドバイスなのか大変気になる。機会があれば前田さんにうかがってみよう。

今のマジックとも多少関係することなのだが、「大切なものほど壊れやすい」というセリフがあった。これも私には様々なことを連想させた。確かに「大切なものは壊れやすい」と思うことはよくあるが、実際には大切でないものでも、同じくらい壊れやすいに違いない。しかし大切でないものは、たとえ壊れても、気にかけていないから気がつかないだけだろう。大切なものは、なくしてからその「価値」に気がつく。映画の中で、ある人が亡くなるが、実際には人は何もなくしはしない。なくしたと感じるのは、それが自分の所有物であると思っているから、それが自分の周りから消えたとき、なくしたと思うだけである。この世には「自分のもの」など何もない。自分のものではないのだから、失うものなどはじめから何もなかったのだ。 ひょっとしたら、これがこの映画で言いたいことなのだろうか。

某月某日

大阪の朝日放送で制作しているTV番組に「探偵ナイトスクープ」がある。

地球ゴマ

半年ほど前、この番組で「地球ゴマ」が取り上げられていた。「地球ゴマ」というのは上の写真のようなものである。これは大変古い歴史があり、昭和初期から昭和30年代までは、子供のおもちゃの人気ではいつも上位に入っていた。

台湾製の「地球ゴマ」を購入した視聴者からの投書によると、添付されていた解説書に2個のコマを重ねて使うものが掲載されていた。しかしその図にあるようなことは到底不可能としか思えず、本当にそのようなことができるのか、調べて欲しいという依頼であった。

テレビ局が、日本で「地球ゴマ」を作っているところを探すと、名古屋に「タイガー商会」という「地球ゴマ」の元祖のようなメーカーがあることがわかった。実際、「地球ゴマ」という名称はこのタイガー商会の登録商標であり、他のメーカーは使えない。「地球ゴマ」を作って約80年になるそうだ。

ここに先のコマと解説書を持って行き、実際にそのようなことが可能かどうか相談に行った。すると、その絵に描いてあるようなことは、力学的な面からでも無理だとわかった。

それはできないのだが、この一見単純そうに見える「地球ゴマ」は精度が命であり、現在トイザラスをはじめ、比較的安い値段で出ている「地球ゴマ」もどきのコマでは精度が悪く、本来ならばできなくてはならないこともできない。タイガー商会のものは精度が5/1000ミリ単位まで出してあり、これでやってみると、様々な「曲芸」ができる。

私も子供の頃、これでよく遊んでいたので懐かしくなり、タイガー商会の「地球ゴマ」を手に入れたくなった。デパートのおもちゃ売り場にでも行けば簡単に買えると思っていたのに、どこのおもちゃ屋に行っても見つからなかった。

それから数ヶ月が過ぎ、半ば諦めていたとき、神戸のポートアイランドにある神戸市立青少年科学館に行った。すると、偶然、そこの売店に「地球ゴマ」があった。箱を見ると「タイガー商会」となっている。思わぬところで巡り会えて、3種類ほどあったコマのうち、一番大きいAサイズのものを購入した。(1,500円)

この日の夜、M氏からメールをいただいた。はじめての方である。メールを読んでいくと、数ヶ月前から「マジェイアのカフェ」に来てくださっており、特に「煩悩即涅槃」を愛読してくださっていることがわかった。さらに、M氏は「探偵ナイトスクープ」の番組制作に関わっておられることがわかり、あまりのタイミングのよさに驚いてしまった。

早速返事のメール書き、数ヶ月前に「探偵ナイトスクープ」で見た「地球ゴマ」を今日偶然見つけたことをお知らせした。これだけでも十分不思議なのに、なんとこのM氏がタイガー商会を取材し、番組を制作されたそうだ。話をうかがうと、現在関西では私が購入した神戸市立青少年科学館の売店でしかタイガー商会の「地球ゴマ」は販売されていないことがわかった……。

それにしてもこのような偶然があるだろうか。私がこの日初めて行った青少年科学館に、関西ではここにしかないタイガー商会の地球ゴマがあり、しかもその日の夜、私がこの「地球ゴマ」を購入するきっかけになった番組をお作りになったM氏からのメールが届く……。シンクロニシティの存在を感じてしまうのに十分な出来事であった。

その後,M氏とは現在もメールの交換が続いており、コマ以外にも色々と興味深い話をうかがっている。「地球ゴマ」については、その後M氏より教えていただいた『子供の大科学』(串間努、光文社文庫、1997年、ISBN4-334-72489-2)にも取り上げられており、これを読むと戦前から戦中、戦後にかけて、どれほど子供達のあいだに普及していたかがわかる。

話がそれるが、40年くらい前、祖父が「鉱石ラジオ」と呼ばれる不思議なものを持っていた。マッチ箱くらいの大きさの箱からイヤホーンが出ている奇妙な箱である。イヤホーンを耳に当てると、ニュースや音楽が流れてくる。当時、家には真空管を何本も組み込んだ巨大なラジオがあった。蓄音機にもなっていたので、ラジオにしては大きかったのだろう。トランジスターのラジオなど、まだ普及する前のことであるため、祖父の持っているマッチ箱のようなものから聞こえてくるものと、うちにある大きなラジオから聞こえてくるものが同じものであることを知ったとき、いったいどのような仕掛けになっているのか不思議で仕方がなかった。おまけに、「マッチ箱」には電気のコードもなく、電池も入っていないため、どのような原理で動いているのか、さっぱりわからなかった。魔法の箱としか思えなかった。

空中には電波が充満しており、放送局から出ている電波を箱から出ている1メートルほどの線で受信していると言われても、何が何だかさっぱりわからなかった。とにかく、目には見えないが、空中にはニュースを読む声や音楽などが一日中飛び交っていることだけは実感できた。

「地球ゴマ」を実際に回してみるとわかるが、これも目には見えない力を感じる。方向を変えようとすると、指先に強い力を感じる。誰かに引っ張られているような感覚があり、このような力は、他のものを動かしても感じることはない。これも不思議な感覚であった。

地球ゴマ2先日地球ゴマを回していると、昔読んだ本に、「地球ゴマ」の原理を力学的な面から解説しているものがあったことを思い出した。もしあるのなら、それはノーベル物理学賞を受賞したファインマン博士が書いた『ファインマン物理学1 力学』(岩波書店)だと思い、本棚から引っ張り出してきた。ページをくってみると、やはり「地球ゴマ」の原理、つまりジャイロスコープ(gyroscope)についての記述があった。好奇心の権化のような、あのファインマン博士がこれについて触れていないはずはないと思ったが、やぱり大変興味を持っていたことがわかった。

特に右の写真のように、コマを真横にしたまま台の上に置いても下に落ちないで回転する様子は、重力を無視して浮かんでいるように見える。「邯鄲夢枕」というステージマジックを見ているような気分になってくる。「邯鄲夢枕」というのは、まっすぐに立った一本の棒の先に、女の人が棒の先端を枕にして、空中に寝そべるマジックである。ちょうどそのような形になる。なぜこのようなことができるのか、ファインマン博士は数式を並べて説明してくれているのだが、理屈ではわかっても、このような鉄のコマが一点を支点にして横に回転しても落ちないのをみると、感動すらしてしまう。

理屈としてはなんとなくわかったような気になるが、実感として、本当にジャイロの原理を理解するのは相当深くわかっていないと無理のようだ。見かけ以上に奥の深い玩具であった。

このジャイロスコープの原理は、船の横揺れ防止や、飛行機のオートパイロットにも重要な働きをしており、実際に客船などには巨大なジャイロスコープが組み込まれているそうだ。これをシミュレーションするセットもタイガー商会では販売されている。神戸市立青少年科学館でも、台の上に立って、大きなジャイロスコープを回転させて手に持つと、持ち方によって自分自身が回転したり、動かなかったりする様子が体験できる。

タイガー商会の2代目社長である加藤武氏は80歳を越えておられる高齢であり、「地球ゴマ」を継承する人はいないそうなので、今のような精度の高いものは消えてしまうかも知れない。

私はタイガー商会の全製品を購入してしまった。ざっと紹介すると、地球ゴマはサイズ別にAからEまでの5種類がある。ただし、D,Eは小さいため、これの単品だけの通販はできないそうだ。馬にコマを組み込んで、レールの上を走らせるもの、その他のものとしては、模型の船や飛行機に組み込んでジャイロスコープの原理を教える教材用のセット等もある。全製品を購入しても、送料込みで2万円弱であった。

株式会社 タイガー商會
〒464-0076  名古屋市千種区豊年町17番15号  
TEL:052-711-7111(代)  FAX:052-711-7121

某月某日

朝起きたら、「オンラインマジック教室」で公開している「スプーン曲げ」を教えて欲しいというメールが20通ほど届いていた。普段は「スプーン曲げ」に限れば2、3通程度である。それが一度に10倍になった理由はわかっていた。昨夜、テレビで「スプーン曲げ」が放送されたからである。出演していたのはMr.マリックでも清田氏でもない。「スプーン曲げ」としては初めて見るA氏であった。このA氏は、何年か前、ガスライターを曲げるマジックをMr.マリックの番組で見せていた方だと思う。

スプーン曲げ

私も番組を見たが、確かにA氏の「スプーン曲げ」はうまい。特殊なギミックなしで、あの硬いステンレスのスプーンを飴のように曲げるのには驚いた。ネタを使わずに曲げるタイプのものとしては、これまで現れた人の中では一番うまい。超能力肯定派の人たちは、「超能力で曲げている」とA氏に言って欲しいようであったが、A氏は自分の「スプーン曲げ」を超能力ともマジックとも言わなかった。これは賢明である。実際、あれは「超能力」でもマジックでもない。しかしあそこまでできれば立派に芸になっている。

今から十数年前、マリックブームが頂点であった頃、神戸のホテルでMr.マリックのライブショーがあった。これを見に行っていた知人は前に出されて、「スプーン曲げ」をやらされたそうだ。無事「スプーン曲げ」が成功した後、客席に戻る前、Mr.マリックと握手をした。そのとき、Mr.マリックの、力の強さに悲鳴を上げそうになったと言っていた。むちゃくちゃ握力が強く、鍛えているのがわかったそうだ。

今回テレビに出ていたA氏も、昔から「超能力」ということで「スプーン曲げ」をやっている清田氏も、腕がたいへん太い。「スプーン曲げ」には握力の強いことが絶対条件なのだろうか(笑)。ネタを使えばもっと簡単に曲がるが、ネタなしで曲げるのであれば、かなりの握力が必要なのは当然のことだろう。

余談になるが、この番組が放送された日、別のテレビ局でギネスブックに挑戦する番組をやっていた。そこでは腕相撲で世界一になった人が出演して、フライパンを手で曲げていた。柄の部分ではなく、丸い鉄板の部分である。スプーンでもフライパンでも好きなものを曲げてくれ。

某月某日

花博淡路島で開催されていた「花博」(ジャパンフローラ2000)に、終了間際になって行ってきた。今年の7月、8月は35度を超える日が何日もあり、花博会場の大部分は屋根もない炎天下のため、日中はとても歩けたものではないと聞いていた。9月になってもまだ暑かったが、夕方から入場できるチケットがあったので、それを利用することにした。

夏休み開けのせいか、今までなら1時間以上待たないと入れなかった人気会場でも、まったく待たずに入ることができた。

当初想像していた以上に、全体の作りも各会場もよくできており、たっぷり楽しめた。中でも私が興味を持ったのは「マイハギ」という中国・雲南省から特別出展された野生植物である。これは音に反応して葉が動く、大変めずらしい植物である。特に、女性が美しいソプラノで歌うと、歌に合わせるように葉が動くらしい。

会場ではベルがそばに置いてあり、ベルを鳴らすと葉が動くのだが、朝から晩までベルを鳴らされると、マイハギだっていやになるだろう。夕方にはぐったりして、しおれていた。それでもみんな少しでも動かさないと気が済まないのか、うるさいくらいにベルを鳴らしていた。私も鳴らそうかと思ったが、ぐったりしているマイハギを見るとかわいそうで、「よしよし」と声をかけたら、それだけで先端の小さな葉を動かしてくれた。大きな声で怒鳴らなくても、意志は通じるものだ。

某月某日

1954年に出た岡本太郎の『今日の芸術』が光文社から復刻されていた。(知恵の森文庫、ISBN4-334-72789-1)

この中で、岡本太郎は芸術と芸の違いについて語っている。詳しくは読んでもらうしかないが、端的に言えば「芸術は過去のものを壊した上で自分独自のものを作り出せるかどうかにかかっており、芸は古い形を受けつぎ、それをみがきにみがいて達するもの」と言っている。確かにこのような一面もあると思う。

一口に芸の分野と言っても様々である。落語の場合、師匠から噺を習い、元の形を壊すことなくそれを真似するところから始まる。その上に自分なりの色をつけることができれば、その噺は自分のものになる。同じような寄席の芸でも、漫才の場合、師匠からネタを受け継ぐことはない。継承して行くだけの価値がないからではなく、時代の先端の話題が中心になるため、師匠が昔やっていたものをそのままでは使えないのだろう。また、二人で演じるため師匠と同じような息や間(ま)で喋ることには無理がある。

マジックはどうなのだろう。元になるタネは伝承できるが、タネだけでは芸にならない。これはせいぜい楽譜のようなものだろう。楽譜がなければ演奏はできないが、いくらすぐれた楽譜があっても、それだけで名演奏ができるものではない。デューク・エリントンが「ジャズに名曲なく、名演あるのみ」(出典:『ジャズCDの名盤』 文春文庫)と言っているそうだが、これは確かにそうである。マジックも同じである。よくできたネタがあったとしても、それだけではどうにもならない。個々のマジシャンが自分なりにアレンジして、自分の色をつけてはじめて人前で見せられるものになる。そこまで行って、はじめて芸と呼べるレベルになる。先の岡本太郎の話では、芸は伝承するものとなっているが、人が感動するのは、長い年月をかけて磨き抜かれたものか、まったく今までになかったものを見たときだろう。一番つまらないのは、手垢のついた「芸」を何の感動もなく繰り返しているだけの芸人である。実際はこのような人は芸人と呼ぶに値しない。このようなことを何十年と繰り返したところで、芸にはならない。

和妻(わづま)と呼ばれる日本に昔から伝わる奇術がある。これをきちんと演じるには奇術以外の素養が必要になってくる。海外のマジシャンでもステージに立ったとき、立ち姿だけでピシッときまっている人は例外なくバレエやマイムの訓練をしている。和妻をするのなら、当然日本舞踊などを一度は習っておかないと格好がつかない。自己流で、着物だけ着て演じたところで、子供の学芸会になってしまう。


近ごろマジックの世界がかまびすしい。

インターネットや携帯電話の普及で、情報量が増えることは想像できたが、ここまで爆発的に増えるとは予想外であった。マジックのようなマイナーな世界もこの波にのみ込まれている。

近年、マジックの本やビデオの数が増えていたが、マジック関係のサイトもこの1、2年で相当な数になっている。玉石混淆、大小合わせれば百は軽く越えているのだろう。この「魔法都市案内」を始めたのは、私の好きなマジックを一度整理しておきたいと思ったのがサイトを開いた理由の8割くらいである。残りの2割は、世間の人にマジックという芸の実体を少しは知って欲しかったからである。人間を箱に入れて剣で刺すものや、ノコギリで切るだけがマジックではないことを知ってもらいたかった。

それはさておき、いくら情報が増えたところで、一人の人間が吸収できる量には限度がある。選別できるだけの知恵や感性がないと、量だけが増えても何も変わらない。

昔のほうがよかったというわけではないが、今と比べられないほど情報の少なかった40年くらいまえのほうが、むしろ読んだものをしっかりと身につけていたように思う。例えば、1956年に出た『トランプの不思議』(高木重朗著、力書房)には、推薦図書として十数冊の洋書が紹介されていた。

当時は洋書を海外から購入することは、今では想像を絶するくらいの手間と金がかかった。サラリーマンの月給と、一冊の洋書代金が同じくらいかかったこともあった。1ドルが360円で、エド・マーローが出していた専門書など50ドルくらいしていたから、当時で18,000円。大卒の初任給が10,000円程度という時代であったので、これがどれほど大変なものであったか、私でもわかる。紀伊國屋などの洋書取次店に頼めば、1ドルが400円から500円くらいの換算であったため、50ドルの本を買うためには普通のサラリーマンなら2、3ヶ月、飲まず食わずの生活をして、やっと手にできる金額になってしまう。

マジックの古い本は、今でも在庫があるものはそれほど値上がりもしていないため、当時50ドルの本が今でも同じ値段で買えることもある。50ドルなら、今では6,000円で買えてしまう。新卒の初任給だけでも20倍になり、そこへもってきて1ドルが昔の1/3程度であり、自分で直接取り寄せれば書店に払う手数料も不要になるため、実質的には昔の1/80程度の経済的負担で済んでしまう。これならタネンの蔵書リストに載っている本を全部注文したとしても数百万円で買えてしまう。昔はこれの80倍、数億円はかかっているのだから、高木重朗氏や松田道弘氏の蔵書にはそれ相応の迫力がある。

本だけでなく、マジシャンの演技をビデオに撮ったものも数多く発売されているため、マジックのタネだけを知るのが目的であれば何の苦労もなくなった。しかし、今のような状況は、昔と比べて幸せと言えるのだろうか。

あるマジシャンとの出会いや、本の中で偶然見つけたトリックに、一期一会の喜びを体験することがある。しかし鉄砲水のように押し寄せてくる情報の波の中では、そのようなものにひたっている余裕すらない。


情報量が増えたことによる話はひとまずおくとして、それよりももっと気になることがある。最近、マジックをする人の数自体も増えているのだろうか、そのせいか、よくわからない組織やグループもできている。私自身は実害にあったわけではないので、そのことについての具体的な話は今のところ触れないでおくが、少し胡散臭いと思えば、できるだけ情報を集めて、よくチェックしてから入会するなり、接近したほうがよい。

マジック界の醜悪な部分や嫌な部分について書くことは、身内の恥を外にさらすようで、「魔法都市案内」の中では極力避けてきた。しかし、あまりにも目に余るようなことがあれば、これからははっきりと書くかも知れない。

日本でパソコン通信が始まったのは1980年代後半からである。当時から私はパソコン通信をやっているため、もう10年以上になる。1990年代のはじめから、NIFTYにあるFMAGICというフォーラムで私が商品の紹介をはじめたときも、感想を書くだけで批判のメールが来た。しかしマジックをやっている人間であれば、一番知りたいのは実際にその商品を購入した人の率直な感想である。私が昔始めたときは、このようなことにも一部の人からクレームが来たが、今では商品紹介など、ごく普通のことになっている。そのため、ここ数年は製品の紹介に関しては、とんちんかんな批判メールは来なくなったが、それでもときおり文句を言ってくるメーカーがあるのには呆れてしまう。自分のところの製品をほめてくれるのはよいが、批判は許さないというX社のようなところもある。

よいものはよい、よくないものはよくないと率直に言える環境がやっと整ってきたと喜んでいるのに、相変わらず旧態依然とした思い上がりが抜けないメーカーがあるのは残念なことだ。

また、コンベンション、発表会、レクチャーなどの感想や批評も、パソコン通信やホームページ上で読めるようになってきた。 ところがこのような個人の感想にまでクレームを付けてくる人がいる。掲載された感想や批評の中には、確かにクレームを付けたくなるようなものもあることはあるが、大半はまともな感想であり、紹介記事であった。それなのに、このようなクレームに慣れていない人の場合、自分の書いたレポートに批判的なメールが届くと慌てて消したり、二度と書かなくなってしまった方が何人もおられた。これは大変残念なことである。

当然のことながら書く側にもそれなりの覚悟と責任は必要である。自分が正しいと思うことで、どこに出しても恥ずかしくないと思うのなら、もっと自信をもつことだ。少々クレームがついたくらいで引っ込めるのなら、最初から書かないほうがよい。

とにかくマジックの世界は閉鎖的であり、メーカー側の一方的な情報しかないという状況はフェアーではない。昔は商品についての率直な感想が知りたくても、せいぜいクラブの例会等でたずねるしかなかった。クラブもないようなところに住んでいると、情報も入らず不自由であったが、パソコン通信やインターネットの普及で、日本のどこからでも様々な情報が入手できるようになった。これはメーカーにしてはつらいことかも知れないが、今までこのようなことがなかったのがおかしいのだ。映画、芝居、書籍、音楽、何の分野であっても、すぐに感想や批評を知ることができるようになっている。

映画の配給元が、この映画が終わるまで批判や感想は書かないでくれなんてことを言うか(笑)。マジックの世界では、厚顔にもこのようなことを言ってくるところがあるのだから噴飯ものである。

私のように組織や集団を好まない人間にとっては、周りが変わろうが、これまでなら自分のペースで好きなようにやって来られた。しかしここ数ヶ月は何ともうるさくて仕方がない。私にとっては何の興味も関心もないことまで、勝手に耳に入ってくる。この際、そのような雑音や煩わしいことはカットして、このサイトを開いたときのように、もう一度自分自身のペースでやりたいようにやっていくことに徹しようと思っている。

マジェイア


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