My Favorite Tricks

Center Tear

 

センター・テア

2000/1/13


最初に

マジシャンの間で使われている技法には、他の分野から流れ込んできたものが数多くあります。カードマジックで使われている技法であればギャンブラーのものが、メンタルマジックの分野なら職業霊媒師(Medium)の間だけで知られていたものなどが数多く流入してきています。逆にマジシャンの間で使われているタネや技法が、職業霊媒師などに流れて行ったものもあります。

「センター・テア」(Center Tear)というのは、職業霊媒師の間で、長い間、固く秘密が守らていた「技法」であり「演出」です。1920年頃、それがマジシャンの間にも知られるようになったそうです。アンネマンをはじめ、メンタルマジックを専門にしているマジシャン、これをメンタリストと呼ぶのですが、彼らの間ではすぐにこれは必須の技法になりました。

現象

バリエーションは数多くありますので、最も一般的なものを紹介します。

マジシャンはメモ用紙程度の紙を観客の一人に渡し、誰かの名前を書いてもらいます。勿論この間、マジシャンには見えないようにしてもらいます。書き終わったら書いた面が内側になるよう、メモ用紙をいったん4つ折りにしてもらいます。電灯に透かしてもらっても文字が透けて見えないことを確認してもらいます。

マジシャンはその紙を受け取り、小さく破ってしまいます。破った紙を灰皿に入れ、マッチで火をつけ、紙を燃やします。じっと炎を見つめていると、その人が書いた人物が浮かび上がってきます。最後は、紙に書かれた名前を炎の中から読みとり、ずばり当ててしまいます。

コメント

ざっと今のようなことがセンター・テアの基本的な現象です。長年職業霊媒師のトップシークレットであったものですから、演出次第でいくらでも不思議なことができます。あやしげな宗教団体の教祖あたりがやれば、これだけで信者を集められるくらいのインパクトがあります。現在大きくなっている某宗教団体も、初期の頃、これに似たことをやって信者を集めていました。ただし、その教祖はマジックの知識はあまりなかったようで、ほとんど子供だましと言ってよいようなレベルのことしかやっていません。それでも信者獲得には絶大な力がありました。

今回、これを紹介するのも躊躇したほどです。しかし、このようなこともマジックでできると知っていれば、何かのときに「超能力者」や「教祖」から見せられてもだまされることもないだろうと思い、紹介しておくことにしました。

最後に一言

ドイツのメンタリスト、テッド・レズリーが著書『パラミラクルズ』の中で、言っていることは大変重要です。

センター・テアを行う状況として一番よいのは、誰かからマジックを見せて欲しいと頼まれたとき、何も持ち合わせがないのであたりを見渡し、テーブルの上にある適当な紙切れを使い、即席にやってみせることだと言っています。

私自身が何度かセンター・テアをやってみて感じることですが、センター・テア特有の「秘密の技法」を行うとき、技法そのものはあまり重要ではありません。センター・テア用の技法だけでも、数十は開発されています。マニアからみると、「技法」に感心してしまうものもありますが、実際にはそのようなことは、二の次に過ぎません。松田さんが昔出版された『クロースアップマジック』(金沢文庫)に紹介されているものは大変原始的な方法です。しかし、実際にはあれで十分です。1997年に出ました『メンタルマジック事典』(松田道弘著:東京堂出版)にも紹介されています。

センター・テアでは、「読みとった」後の演出が最も大切です。実はこれこそがセンター・テアの最大の秘密です。テッド・レズリーもこの部分を強調していました。

話がそれますが、私が「ブック・テスト」を紹介してから数多くの問い合わせを頂いています。あれの「秘密」もセンター・テアと同じです。ブックテストの原理、やり方を知りたいのであれば、それは本を読めば1分でわかります。しかし、私があれを指導しますと、実際には30分から1時間近くかかります。

「さりげなく」情報を入手する方法と、その後の「当て方」です。原理は単純ですが、この部分を教えるのに1時間くらいかかるのです。それをやっているから、今までマジックなど一度もやったことのない女子高生が演じても、教室中がひっくり返るほど、大きな叫び声が出ます。原理だけを知って、ただ当てたとしてもそれではただの「当てもの」で終わってしまいます。

メールで、「コツ」を教えて欲しいという問い合わせも数多く頂きますが、それはメールでは答えられません。何カ所かポイントがあり、実際にその方が私の前にいれば教えられますが、メールなどでは無理なのです。また、タネの本質に関わるようなことを暴露するようなことなどしておりません。

それと似たことが、このセンター・テアにもあります。どのように「読みとるか」ではなく、「どのように当てるか」が100倍くらい重要なのです。このあたりのことは、海外の占い師が使っている"Cold Reading"の技法なども関係してきます。それを適当に織り交ぜることで、演出に信憑性が増してきます。まるで本物の超能力であるかのように、観客に感じさせることができます。 「ブックテスト」も教えて欲しいという問い合わせが数多くありますので、そのうちレクチャービデオでも作るか、CDで動画入りの相当詳しい解説書でも出そうかと思っています。

このセンター・テアは、元来職業霊媒師が行っていたことですから、一番よいのは観客と一対一で向き合い、その一人だけを相手に行うのが楽です。ショーとして演じるには大勢の観客に見せることも必要になりますから、ミスディレクションもそれ用のものが必要です。

技法は二の次と言いましたが、アル・ベイカーの開発した「アンブレラ・メソッド」が現在では主流になっています。これのよい点は、破る動作の中で「秘密の動作」ができるとこと、「逆さま」にならないことです。 しかし、私はこれすら使っていません。もっと原始的な方法でまにあわせています。

センター・テアが解説されている文献をいくつか紹介します。

『クロースアップマジック』(松田道弘著:金沢文庫)
『松田道弘 あそびの冒険 2:超能力マジックの世界』(松田道弘:筑摩書房)
『メンタルマジック事典』(松田道弘著:東京堂出版)
ザ・マジック4号(東京堂出版)
ザ・マジック29号(東京堂出版)

Mental Magic(Al Backer,1949年)
Center Mental(J.G.Tompson)
Script(T.A.Waters,1981年)
Surrounded Slow Motion Center Tear Method(Richard Osterlind,1986年)
The Purloined Thought(Al Mann,1990)センター・テアの歴史をふまえて、様々な方法を解説しています。
Paramiracles(Ted Lesley,1992)(センターテアの技法の解説ではなく、演出についての論文)

Center Tear Teach-In(Lee Earle)これはビデオです。リー・アールがやっている方法を約1時間かけて、詳しく説明しています。ワン・トリックだけに1時間かけて解説しています。実際に教えようと思えば、これくらいは時間がかかります。初めてみると、感激するほど「あの部分」が一瞬で終わってしまいます。しかし、これほど一瞬で終わると、条件が悪い場所、たとえば照明が暗いと難しくなります。

蛇足の補足"Center Tear"という英語ですが、これは「センター・テア」であり、「センター・ティア」ではありません。tearには「涙」と「破る」があります。「涙」は「ティア」ですが、「破る」は「テア」です。カタカナで表記すると、いずれにしても正確にはできませんが、Center Tearのことを「センター・ティア」と言う人が多いので注意してください。

魔法都市の住人 マジェイア


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