My Favorite Tricks

The Rising Card

1998/4/27

最初に

観客に選んでもらったトランプが、一組のトランプの中から自動的にせり上がってくる、いわゆる「ライジング・カード」(Rising Card)と呼ばれる現象のマジックです。

大変ビジュアルな現象なので、チャーリー・ミラーも自分のレパートリーとして残していた、数少ないカードマジックのひとつです。ミラー以外にも、長い間、クロースアップマジックのプロとして活躍していたアルバート・ゴッシュマン(Albert Goshman 1920-1991年)も、いつも演じていました。他にも、これを自分のレパートリーに入れているクロース・アップ・マジック専門のマジシャンは大勢います。

現象

アルバート・ゴッシュマンがやっている方法を紹介します。

3名の観客にトランプを取ってもらい、覚えてもらいます。それを一組の中にもどし、トランプ全体を透明なグラスに入れテーブルの上に置きます。

1番目の観客に覚えたトランプの名前を言ってもらいます。すると、写真のように観客のトランプだけが手も触れないのに勝手にせり上がってきます。2番目の観客にも同じようにします。トランプ全体をケースに入れて、ふたをしてグラスに立てかけておくと、3番目の観客のトランプはケースのふたを押し上げ、上がってきます。

最後に一言

ゴッシュマンはこれを演じるとき、観客が取ったトランプを忘れないように、しっかり覚えるよう念を押すことが大事だと言っています。実際、カードマジックをやるとよくあることですが、取ってもらったトランプを観客が忘れることは珍しくありません。

また、ゴッシュマンの場合、このマジックを演じるときは、『ペルシャの市場にて』"In a Persian Market"という曲をテープで流しながらやっています。この曲に合わせて、ハンカチをトランプの上で振る姿が、彼の風貌とミスマッチで、何ともおかしいのです。 「踊り子を雇うより、このほうが安上がりだから」というジョークを入れています。(笑)

とにかくこれは大変わかりやすい現象であると同時に、不思議さも十分あります。そのため、彼はこれを自分のマジックショーの最後に演じるネタ、「トリネタ」にしていたくらいです。

ゴッシュマンがやっている演出は彼には合っていますが、あれをそのままコピーするのは無理です。箴言集でも紹介しましたように、トリック自体が観客にウケるのではありません。それをどのように自分なりの工夫、演出で見せるのかが大切だと彼は強調しています。「あなた自身を見せる」ための手段として、トリックがあることを忘れないでください。

もっともこのトリック自体は大変優秀ですので、自分の雰囲気にあった演出を見つけるのはさほど難しくないはずです。コメディタッチでもやっても、超魔術的演出でも、ごく普通に演じても十分楽しく、不思議なマジックになると思います。

ゴッシュマンが使っているのは、一般に「デヴァノ・タイプ」"Devano style Rising Card Deck"と呼ばれているものです。アメリカでは大抵のマジックショップで扱っています。値段も20ドルから30ドル程度のものです。

デヴァノタイプ以外にも、スプリングやオルゴールを仕込んだもの、電動のもの、さらにはリモコンを組み込んだものなどもあります。特殊なメカは一切なしで、ジャリだけで行うもの。また、メカもジャリもなしでテクニックを使って即席にせり上げるものもあります。それぞれに一長一短があり、どれがベストとは言えませんが、上がり方が最もきれいでスムーズなのはオルゴールのメカを仕込んだものでしょう。しかし、ゴッシュマンのように、毎日、それも一晩に数回演じるのであれば、リセットのことなどを考慮すると、「デヴァノ・タイプ」が一番実用的だと思います。

余談になりますが、このトリックの原案者であるMitch Devanoは、当初、自分で作ってそれをマジックショップなどに販売していました。ところがあるときから、アダルトフィルムの制作販売が忙しくなり、そっちのほうが儲かるので、ゴッシュマンにこのトリックの製造・販売権を譲りました。そのため、ゴッシュマンはレクチャーのたびに、これを大量に持ってきては売っていました。

不思議なことに、このデヴァノタイプは日本では随分昔から販売されていました。マジックショップではなく、任天堂が販売していたのです。「ファミコン」で有名なあの任天堂です。30数年前の任天堂というのは、ファミコンもゲームウォッチも出る前です。当時、任天堂と言えば、トランプや花札の販売を中心に扱っていた京都にある、小さな会社にすぎなかったのです。それがなぜか、このデヴァノタイプのライジングカードを売っていました。私も小学生の頃、ごく普通の、町の文房具屋で見つけ、購入しました。他にはマジックの製品など扱っていなかったのに、なぜ、当時、任天堂がこれだけを販売していたのか、今では謎です。

当時から基本的な原理は今と同じですが、昔はネタの一部に「針」を使っていましたので、演じるたびにトランプに小さな穴が開き、それが欠点だったのです。そのため、これを購入した人には、添付されているはがきか何かを送れば、トランプだけ安く販売してくれるサービスもやっていました。

現在販売されているデヴァノ・タイプは、「針」など使っていませんので、トランプに穴が空いたりする心配はありません。

なお、 現在任天堂はマジックのタネは一切販売していませんので、問い合わせても手に入りませんが、海外のマジックショップであれば、大抵、扱っていますので興味のある方は問い合わせてみてください。値段は今なら40ドル前後だと思います。

魔法都市の住人 マジェイア

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