ROUND TABLE

 

「リング・フライト」について

Key Case

追加更新(1999/6/22)
1999/6/21

デビッド・カッパーフィールドが演じた「消失現象」といえば、「自由の女神」を消したものや、「ジャンボジェット機」、「オリエント急行」を消したものを思い浮かべるでしょう。しかし、彼はこのような大きなものばかりでなく、小さなものも鮮やかに消しています。

カッパーフィールド彼が昔からよくやっているクロース・アップ・マジックで、観客から借りた指輪を目の前で消し、消えた指輪が「キーホルダー」「バラの花弁」の中から出てきたり、「赤ちゃんの靴」などから現れるものがありました。

観客から借りた指輪を消し、両手が完全に空であることを確認したあと、ポケットからキーホルダーを取り出し、中を見ると、そこに観客の指輪がぶら下がっているという現象、このようなものをマジックの世界では「リング・フライト」"Ring Flight"と呼んでいます。「指輪の飛行」という意味です。

マジックをやっていない人からすれば、消えた指輪がキーホルダーから出てこようが、バラの花やベビーシューズから出てこようが、どちらも同じように思うでしょう。しかし、正規の「リング・フライト」と呼ばれるものはキーホルダーから出現した場合に限っています。キーホルダーから出てくる場合の原理が、その他のものとは根本的に違うので、区別しています。詳しくは書けませんが、消すための道具が、出現させるための道具でもあるという、大変ダイレクトな方法を使っています。この場合に限り、「リング・フライト」と呼んでいます。

キーホルダーから観客の指輪が出現する場合、これまでは上の写真にあるような、日本でもお馴染みのものを使うのが普通でした。ファスナーが付いており、キーが5,6個、フックで引っかかるようになっているものです。

ゲータン・ブルームところが、フランスのマジシャン、ゲータン・ブルームが開発した方法は、キーホルダーを使っても、今までとはまったく原理が違います。こうなってくると、これを「リング・フライト」と呼んでよいものかどうか、判断に迷います。

ゲータン・ブルームの方法は、ヨーロッパでよく使われているタイプのキーホルダーを使います。これは日本ではあまり馴染みがないかも知れません。左の写真のようなもので、一見すると小銭入れのように見えます。左右から挟むように押さえると口が開き、中から鎖につながれたキーが1個出てきます。このタイプでは、普通、キーは1個しか入りません。

これをはじめに観客に渡して調べてもらい、キーホルダーの中には鎖だけがあり、キーもついていないことを確認してもらいます。それをテーブルの上の、終始観客から見えるところに置いておきます。

観客から指輪を借り、それを消してからキーホルダーを取り上げ、中を見ると今消えたばかりの観客の指輪が鎖につながれた状態で現れます。 キーホルダーがずっと見えるところにあっただけに、うまく演じると強烈な現象になります。

ゲータンが解説している方法は、彼のキャラクターであるコメディタッチで演じれば何とかなるのですが、普通のマジシャンが真似するには、あまりよい方法ではありません。借りた指輪を背中に廻し、そこであることを行います。確かにこのようにすれば、ゲータンの方法で生じる技術的な欠点をカバーすることはできますが、肝心の現象に説得力がなくなってしまいます。いくら演出でカバーするとは言え、背中の後で秘密の動作を行うのは気分のよいものではありません。

実は、このゲータンのネタは日本でもテンヨーから発売されています。(6,000円)その解説では背中ではなく、拳の中に入れて消すことになっていますが、その分、難しくなっています。それにテンヨーの素材では、消すとき「嫌な音」がします。このため、ほとんどの人は購入しても使えないままだと思います。

この辺りをうまく解決した方法を、「魔法都市案内」の読者で、よくメールをくださる神奈川のO氏から教えてもらいました。それをここで紹介することはできませんが、工夫しだいで見違えるようなマジックになる良い例でした。

話が逸れますが、このO氏は市販のネタなどに独自のアイディアを加え、こだわりを持って改良なさっているネタが数点あります。これはマジックの楽しみ方のひとつですね。買ってきたネタの場合、そのままで使えることはほとんどありません。大抵はボツにするか、1,2回誰かに見せておしまいということになると思います。しかし、長い年月を掛けて、盆栽に少しずつはさみを入れ、手を加えて改良して行くように、ひとつのネタに自分の工夫を重ねて満足できるものに仕上げたものは愛着もひとしおです。そのようなものは生涯のレパートリーになります。

作家が推敲に推敲を重ねて、自分の作品を磨き込んで行くようなものでしょう。ダイ・ヴァーノンが、あの「カップ・アンド・ボール」を作るまでには大変な年月を掛けています。

話を戻します。

ゲータン・ブルームの方法は、原理としてもこれまでの「リング・フライト」とはまったく違いますから、現象も少し変わってきます。しかし、一般の人から見れば、マジシャンが感じるほどには差を感じないと思います。オリジナルの方法を知っているマジシャンからすれば、まったく違う現象に見えるでしょうが、タネを知らない一般の人にすると、同じように見えるかも知れません。

デビッド・カッパーフィールドに話を戻しますと、1979年に放送された番組の中では、昔からある「リング・フライト」を演じています。

このときは観客から指輪を借りるだけでなく、キーホルダーまで別の男性から借りて、それをズボンの後ポケットに入れ、借りた指輪が消えた後、そこから出現するという演出で行っています。観客からキーホルダーまで借りる必要もないと思うのですが、ズボンの左の後ポケットに入れて、ネタをセットをするまでのハンドリングは、これを知っている人にとっては参考になるでしょう。古いビデオですから、入手するのは困難かもしれません。

また、1981年に飛行機を消したとき、そのオープングで、三角形の小さなペンダントを手のひらに置いて、もう一方の手で軽く上からおまじないをかける動作をすると、ペンダントが消えていました。

これとまったく同じ消し方で、"Ring Flight to Rose"のとき、観客の指輪も消していました。これは指輪が現れるときも幻想的です。指輪を貸してくれた人が手に持っていたバラの花が静かに開きはじめ、花の中心から消えた指輪が出てきます。

テレビではやっていませんが、今から数年前、日本に来たとき、借りた指輪がベビーシューズから出てくるときも、ペンダントを消したときと同じ方法を使っているのだと思います。

デビッド・カッパーフィールドは、舞台なら舞台という場所を最大限に利用します。クロース・アップ・マジックでも、現象のためなら手段を選びません。マジックをやっている人ならわかると思いますが、バラの花を使ったあの現象は、普通は不可能です。ちょっとずるい方法を使っています。(笑)しかし、それは観客にはまったく関係のないことなので、そのような手段を使うことにも抵抗はないのでしょう。

ざっとですが、いくつかの方法や現象を見てきました。出現させる場所がキーホルダーにこだわらないのであれば、いくらでもバリエーションは考えられます。

思いつくまま、いくつかあげてみましょう。借りた指輪を消す手段は後回しにして、現れる場所による分類です。


1.テーブルの上にある塩の瓶を開け、中の塩をお皿の上に出すと、塩の中から指輪が出てくる。(これは市販された、これ専用の塩の瓶があります。下の写真参照。

塩の入れ物

.マジシャンの履いている靴に注目してもらうと、靴ひもに観客の指輪が通っています。靴ひもをほどいて、指輪をはずしてから返します。(On Foot)

3.カクテルグラスの脚を見ると、指輪が通っています。はずにはグラスを割るしかありません。(フレッド・カップスがやっていました。)

砂時計の中央、くぼんだところに指輪が引っかかって現れます。これもはずには砂時計を割るしかありません。これはポール・ガートナーがやっています。(ビデオ、Paul Gertner's Steel And Silver,Vol.2)

5.何重にも重なった箱の中から出現する。箱を開けると、また中に少し小さい箱が入っていて、それが5重くらいになっている箱があります。一番中にある小さい箱を開けると、そこから指輪が出てきます。

これ以外にも、コインを出現させることができるものであれば、指輪でもできるはずです。最近すっかりお馴染みになった携帯電話を使う方法もマニアの間では話題になっています。携帯のストラップに指輪が通って出現させようというのです。これは市販されているのでなく、このようなことができたらおもしろそうだという段階です。それほど難しくもなさそうですから、そのうち、誰かが売り出すと思われます。また、レモンや玉子のようなものから出現させることもできるでしょう。

次に、指輪を消す方法を考えてみます。

最初に言いましたように、従来の「リング・フライト」であれば、消すための道具がそのまま出現させるための道具でもあるので便利なのですが、その部分を分けるのであれば、条件や状況で、色々なものが使えそうです。

小さいものを消すだけで、その後、消したものを取り出す必要があるのか、デュプリケイトの指輪を使用することで、消したものは消しっぱなしでもよいのといったことで条件が大きく変わってきますが、後のことは別にして、「消す」という目的のためだけに使えそうなものを挙げてみます。

1.一切、特殊な道具を使わず、スライハンド(技術)で消す。
例:「スリービング」、「ラッピング」、胸ポケットや上着のサイドポケットを使う。

2.サムチップ(Thumb Tip)
マジシャンの必需品。

3.トピット(Toppit)
コイン、指輪、一組のトランプ、コップくらいまで消すことができます。最近ではマイケル・アマーが得意にしており、これ専用のレクチャービデオもあります。

4.引きネタ(Pull)
一般に「引きネタ」「プル」と呼ばれるものにはいくつかあります。コインのようなものを消すのであれば、"The Raven"という名前で販売されているものは大変ビジュアルでよいのですが、これがすべての指輪に使えるとは限りません。普通の指輪ではまず使えません。ただ、これを使った消失は大変ビジュアルで、消した後も後に何も残りませんから、もしエクストラ・リングを使用するのであれば十分使えるでしょう。

5."Now-U-C-IT,Now-U-Don't"という名前で発売されているギミック。
デビッド・カッパーフィールドがペンダントを消したり、バラから出てくるときに使用していたのがこれだと思います。普通は消すだけで、その後、別の場所から出現させるという使い方はしませんが、やってやれないことはないでしょう。

6.アップサイド・ダウン・トピット(The Upside Down Toppit)
これはほとんど知られていないでしょう。マニアでもこれを知っているのは限られていると思います。1978年にDanny Koremが売り出したギミックです。 「トピット」という名前が付いていますが、3番の「トピット」とは何の関係もありません。構造もまったく違います。これで何が出来るかと言いますと、例えば手にピンポン玉くらいの大きさのボールを持っているとき、ボールを消すことができます。そして両手を完全にあらためた後、また空中から取り出すことができます。慣れると小物を消したり、また取り出したりするのに便利かもしれません。マニアは、「ホールド・アウト」と同じような原理と思うかも知れませんが、あれともまったく違います。道具としてはこちらのほうがずっと簡単で、上着にすぐにセットできます。

これを使って指輪を消し、そのあと少し離れたところに置いてある何から出現させる。

ホールド・アウト(Hold Out)
「引きネタ」の一種です。消した後、また取り出すことができます。少々準備が面倒ですが、使い慣れると便利かもしれません。

8.ジャリ(Invisible Thread)
ジョン・コーネリアスがやっている"Vanishing Nickel"のネタも使えそうです。左の手のひらに100円硬貨を1枚置いて、ゆっくりと指を閉じます。手を返して、手の甲を上にしてから、もむ動作をします。もう一度手を返してから開くと、コインが消えています。同じ動作を繰り返して、消えたコインを出現させることもできます。

9.普通の指輪のケースに指輪を入れて、ふたを閉めて置いた状態で消す。
これの実用的なものとしては、ポール・ガートナーが「砂時計」から出現させるときに使用している方法が優れています。

また、フレッド・カップスは、一旦ロープに指輪を通した後、中央で指輪を縛ってから、指輪のケースに入れ、外に出ているロープを観客に持ってもらい、それがふたを開けると、ロープの結び目からも指輪が消えているという見せ方をしています。

ロープではなく、布テープに指輪を通して、それを持ってもらうのもやさしく出来て、良い方法です。

指輪のケース

10.紙に包んで、火をつけると、指輪も一緒に燃えてしまう。
フラッシュペーパーなどを使用すれば、一瞬にして燃えてしまいます。


使えそうなアイディアをざっと列挙してみました。今回、このようなことをやってみたくなったのは、あるデビッド・カッパーフィールドのファンの方から、「指輪の消失・出現現象」をリクエストされたからです。この方はデビッド・カッパーフィールドがやっている3種類を全部ごらんになっており、それが素敵だったから私にもやって見せて欲しいという話でした。(汗)

そんなこと言われても、デビッド・カッパーフィールドと同じようにできる自信などありません。確かに普通の「リング・フライト」であればそれほど難しくもないのですが、デビッド・カッパーフィールドがやっているものをごらんになって、そのイメージでリクエストされても、私自身はカッパーフィールドがどのようにやっていたのかまったく覚えていませんので、まずそれを確認してからでないと引き受けられないと思いました。せっかく素敵なマジックだと思っているのに、私がイメージを壊すようなことをやってしまっては申し訳ないので、ビデオを確認するまで待ってもらいました。幸い、ビデオはその方が全部お持ちでしたので、見せていただき、色々なことがわかってきた次第です。

「効果のためなら手段を選ばない」というのは微妙な問題も含んでおり、必ずしも100%賛成できるわけではありませんが、状況次第では許されることもあります。マニアなら誰でも思いつくことですが、「移動現象」で、ドュプリケイトを使用できるのなら、簡単で鮮やか、しかも無茶苦茶不思議な現象を簡単に作り出せます。たまにはそのようなことをやってもよいかとは思いますが、アマチュア・マジシャンは妙にストイックなところがあり、そのような手段を使うことに抵抗があります。

私の個人的な好みで言えば、消すときはなるべく鮮やかに消したいので、必ずしも昔からの方法にこだわらず、色々と組み合わせを考えていると、新しい発見ができるかもしれません。

追加:デビッド・カッパーフィールドが演じたバラの花びらが勝手に開いて、中から指輪が出てくるものは大変幻想的ですが、あれはどのような仕掛けになっているのか、私は知りません。あそこまでこらないのであれば、指輪のケースで、バラの花の形をしたものがあります。これなら手軽に出来るでしょう。

バラのケース2

例えば、指輪を何らかの方法で消してしまい、お詫びにバラの花をプレゼントします。

花の部分を開いてもらうと、下のようになって、消えた指輪が現れるというような見せ方でも十分ではないでしょうか。

バラのケース1

追加2:(1999/6/22)
デビッド・カッパーフィールドが1979年に演じました一番スタンダードなセットのリングフライトを見ると、いくつかの重要な点に気がつきます。このマジックをこれからやってみたいと思っている方には参考になる部分が色々ありますので紹介します。

女性に指輪を借り、指からはずしてもらったら、一旦、手のひらを広げてもらって、そこに置いてもらいます。この後、キーホルダーを借りて、右手でフックを持ち、左手でジャケットの後を少し上げながら、両手を腰の辺りに回して、右手のキーホルダーを左手に渡します。右手は親指と人差し指で、しっかりフックを持っていrます。左手に渡したら、キーホルダーをズボンの左うしろのポケットに入れますが、2,3のキーはポケットの外に出たままです。この状態を見せた後、左手は観客の指輪を取りに行きます。右手は自然に、前のほうに出してきます。観客の指輪を取り上げ、右手に持ち替えるとき、例の秘密の動作を行うのですが、指輪を取りに行ってから、秘密の動作を行う間、時間にしてほんの2,3秒ですが、指輪の持ち主と視線を合わせて話しかけます。秘密の動作が終わったら、一旦、指輪を右手の人差し指に通します。これはちょっと引っかけるだけです。

左手を開いて、そこに右手の指先に引っかかっている指輪を置いて、右手でおまじないをかける動作をすると、消えます。

ポイントは、観客の指輪を左手で取り上げたら、右手と合って、秘密の動作をする間、指輪を貸してくれた人と視線を合わせておくことです。この辺りでも、デビッド・カッパーフィールドはきちんと、ミスディレクションの基本を守っています。(ここがこのマジック全体を通しての、最大のポイントです)

もう一つ感心したことがあります。観客からキーホルダーを借りるときですが、このとき、キーホルダーを貸して欲しいとは言わずに、「誰かキーを持っている人」と言っています。このように頼めば、必要なのはキーであり、何かキーを使うマジックを見せてくれるのだと思うのでしょう、キーホルダー自体に注目されるのを防ぐことができます。これを最初からキーホルダーを貸して欲しい頼めば、観客も、指輪があのキーホルダーから出てくるのだろうと、現象を予測してしまう恐れがありますが、キーを貸してほしいと頼めば、指輪とキーで何が起きるのか、予想が出来ません。この辺りの細かい演出ができるかどうかが、そのマジックが自分のレパートリーになるかどうかの境目です。

追加3(1999/6/23)携帯のストラップから指輪が出現するのは、荒井晋一さんが自費出版されているシリーズ、『アフェクションズ』(Vol.22)に発表されているようですが、これはまだ試行錯誤の状態のようです。私が考えていますのは、デビッド・カッパーフィールドが演じたバラの花から出てきたようなものか、フレッド・カップスの、グラスの脚から出てくるような感じで、携帯電話のストラップから現れるものです。ストラップは当然のことながら、携帯電話機と付いたままでなければ意味がありません。どなたか、何かよいアイディアを思いついたら教えてください。

魔法都市の住人 マジェイア

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