ROUND TABLE

 

サクラ
(Part2)

「リングフライト」を例にして


1999/8/10


昨日書きました「サクラ(Part1)」の続編です。もしPart1がまだでしたら、先にそちらをお読みください。


「リング・フライト」というマジックがあります。観客から借りた指輪が、マジシャンの手の中から消えて、ズボンの後ろポケットにあるキーホルダーを取り出してみると、他のキーと混ざって、観客の指輪が出現するというものです。

これは大変よくできたマジックです。実際、多くのクロース・アップ・マジックのプロが自分のレパートリーに入れています。バーマジシャンや、レストランなどで各テーブルをまわりながらマジックを見せるテーブルホッピングのプロの人も、よくこれを演じています。

失敗することは滅多にないのですが、それでもゼロと言うわけには行きません。百回か、二百回に一回くらいはトラブルが起きることもあります。トラブルの種類は限られており、本当ならキーホルダーから出てこなくてはならない観客の指輪を、うっかりして床に落としたり、最悪のときは、指輪が数メートルくらい、どこかに飛んでいってしまうこともあります。そのため、このマジックの名前が、「リング・フライト(Ring Flight)」となっているのです……、というのは冗談ですが、でも、本当に、どういうわけか、数メートルも指輪が飛行してしまうことがあるのです。(汗)

そのため、マジシャンはこのマジックを演じるとき、床に落ちても大丈夫かまず確認しておく必要があります。建物によっては、床に隙間があり、うっかり落ちた指輪が、そのような隙間に入り込んで取り出せなくなることもあるのです。数メートルも飛んでしまったら、捜すだけでも大変です。

デビッド・カッパーフィールドもテレビの番組で、昔、このリングフライトを演じていました。ステージでもやってやれないことはないのですが、これをテレビの生番組や、ステージで演じるときは、絶対にミスは許されません。もし観客から借りた指輪が、ステージの上から、どこかに飛んでいってしまったら、事は一大事です。ステージには大小様々な道具があります。また、客席のほうへ飛んでいってしまっても、捜すのは大変なことになります。スタッフが総出で、床をはいずり回って捜さなくてはならないでしょう。このようなことが、生番組や、ライブショーで起こった場合、その間、ショーは中断しなければなりません。さらに悪いことに、いくら捜しても出てこない場合、補償問題も深刻なことになるでしょう。

先にも触れましたように、このマジック自体は、毎晩のように、多くのマジシャンが演じているのですから、借りる指輪など、何の打ち合わせも必要ありません。普通、石のついているものは避けますが、シンプルな結婚指輪などであれば問題なく、演じることができます。しかし、ステージでは、百回に一回のミスも許されないのです。もし借りた指輪が何らかの理由でどこかに飛んでいってしまったときのことを考え、そのような事態が起きたときのバックアップも、プロであれば考えておく必要があります。

たとえば、指輪を借りる女性に前もって頼んでおき、こちらで準備した指輪をつけてもらっておき、その指輪で演じれば、万一、指輪を紛失するようなことになっても気が楽です。また、準備したものと、まったく同じものをもう一つ用意しておき、マジシャンが自分のポケットにでも入れておけば、それを使って、キーホルダーから出現させることは可能ですから、失敗を気づかれることはないでしょう。

今のような状況で、事前に、ある女性に使用する指輪を渡しておき、この女性にステージに出て来もらい、リングフライトを演じたとしたら、これも「サクラ」と言われるのでしょうか。

この女性には、事前に頼むとき、一旦、その人自身の指輪を使って演じて見せて、今のマジックをステージで演じたいのだが、万一、指輪を紛失したら大変なので、こちらで用意した指輪をはめて欲しいと頼んだとき、どう感じるでしょう。インチキマジックの片棒を担がされていると感じるでしょうか。普通は、そうは思わないはずです。実際、今、自分自身の指輪で、そのマジックを見せてもらったわけですから、たとえ頼まれた指輪をつけたとしても、マジック自体は、その人にとっても十分不思議なものであることは変わりないはずです。

サクラとして、事前に打ち合わせ済みの観客に出てきてもらうと言っても、このような場合は、不慮の事故が起きた場合のバックアップとして頼んでいるだけですから、問題はないと思うのです。

デビッド・カッパーフィールドが今回のショーで、何人かの観客に頼んでいたのも、本質的にはこれと同じことです。何もサクラを使わないと、そのマジックそのものができないからというわけではないはずです。ただ、このようなことでも、他の一般の観客には気づかれないようにすることは言うまでもありません。えてして、このようなことをすると、頼まれた観客が余計に緊張してしまったり、逆に馴れ馴れしくなってしまって、不自然になることもあります。今回のデビッド・カッパーフィールドのショーでも、ステージに上がった女性が、大抵、舞台から降りるとき、デビッド・カッパーフィールドとキスをしていました。あれも、外国ならともかく、日本人の場合、普通は、もっとどぎまぎするはずなのに、みんな打ち合わせでもしてあったかのように、さりげなくキスをしていました。国民性の違いや、ちょっとした習慣の差から、ばれることもありますから、事前にお願いする観客には、その辺りまで含めて、不自然にならないように気を配る必要がありそうです。

参考:リングフライト

魔法都市の住人 マジェイア


INDEXindexへ 魔法都市入り口魔法都市入口へ
k-miwa@nisiq.net:Send Mail