★フレッド・カップス氏の御言葉<其の二>

私は新しいトリックなど探していません。いつも古いトリックを改良しようと努めています。古いトリックに、自分なりのアイディアをつけ加えることができたら、人真似ではない、新しいトリックが生まれます。

Fred Kaps (1926-1980)

It's So Simple- Fred Kaps


マジェイアの蛇足

フレッド・カップスのマジックは、「私の好きなマジック・本・ビデオ」のところでも紹介しましたが、彼にはオリジナルと呼べるトリックはそれほど多くありません。

マジックの世界では、「オリジナル」というと、タネに関して「新しい原理」があるかどうかが強調されてしまい、こまかい演出上の改良などは無視されてしまいがちです。カップスの演じるトリックは、原理的には新しいものではありませんが、どれもオリジナルと呼んでもおかしくないものばかりです。たとえ昔からあり、誰でも知っているようなトリックでも、カップスの手にかかれば、ひと味もふた味も違うものに仕上がっています。同じ食材を使って料理をしても、一般の人が作ったものと、その道の名人が作ったものでは同じ料理とは思えないくらいの差がでるのと同じです。

たとえば古くからあるマジックに、”チャイニーズ・ステッキ”と呼ばれるものがあります。2本の棒に、ふさの付いた糸が通っており、それが上がったり下がったりするマジックです。マジックをやっている者であれば、どんな初心者でも知っているマジックです。今、マニアになっている人も、マジックを始めたばかりの頃に買って、今では引き出しの奥に眠ったままになっているはずです。初心者用のトリックという印象が強いため、マニアでこれをやっている人など見たこともありません。大抵のマジシャンは端から無視しているはずです。ところがフレッド・カップスは、一般の観客相手にこれをよく演じていました。それどころか、カップスのこのマジックに対する評価は「最高のトリックであり、強烈にうける」というものです。

信じられますか?信じられないでしょう? 私も、もし実際に彼の実演を見ていなかったら、いくら彼の言葉でも信じられなかったと思います。しかし、幸運にも、オランダで35分間のテレビ番組の中で、カップスがこれをやっているのを見る機会がありました。それを見たら、彼の言葉がウソでも、大げさでもないことがわかりました。確かに一般の観客相手に演じて、大変うけているのです。いったい何が違うのでしょう?ネタは勿論同じものです。何も特殊なことなどやっていません。彼がこれを見せるときは、マジックとしてではなく、中国の古いパズルを紹介するという演出でやっています。

とてもおもしろいのですが、でもこれは、99%彼のキャラクターで成立しています。他の人が、あのセリフをコピーしてやったところで、おそらく全然うけないでしょう。ちょっとはにかみながら、いたずら小僧が観客に対して、「どうなっているのか、わかりますか?」という見せ方をしています。彼ほど自分の魅力をよくわかっている人はいません。

カップスに限らず、一流のマジシャンは、決して誰かの真似をしようとしません。それは、誰かの真似などすることは不可能だとわかっているからです。自分のキャラクターの中で、自分なりの演出を組み立てるしかありません。道具やネタは昔からあるものでよいのです。それに自分なりの演出をつけ加えることができたら、それは立派に「オリジナル・トリック」です。

このようなものがひとつでもふたつでもあれば、それで十分です。マイク・スキナーの言葉で紹介したように、「宝石箱に入れられるようなトリック」を持って、それを末永く磨きをかけることが、結局、レパートリーを増やす、一番の近道です。ガラクタのようなトリックをいくら知っていてもレパートリーは増えませんし、何の魅力もありません。

新しいビデオが出るたびに新ネタを追い求めているだけでは、早晩、飽きてしまいます。もう一度、『ターベル・コース』や『スターズ・オブ・マジック』をしっかり読み込んでください。そして、その中で、あなたの息吹を吹き込めるトリックを見つけてください。これらの本には金やダイヤの鉱脈がつまっています。それを発掘するのは、ひとえにあなたのセンスにかかっているのです。 ただ新ネタを求め続けているだけでは何もおきません。


back index箴言集目次 魔法都市入口魔法都市入口

k-miwa@nisiq.net:Send Mail