手は目よりも早く動きません

ミスディレクションのことなど

 

1998/1/12

マジシャンが何かを消したり出現させたりすると、あれはマジシャンが素早く手を動かしてやっているのだろうと思っている人が大勢います。一般の人は大抵そう思っているはずです。しかし、いくら手を早く動かしたところで、目がキャッチできないほど手を早く動かすことなどできません。むしろ人間の目は急激に動くものがあると自然にそちらのほうに視線が移り、注目するのが普通です。

実はマジシャンが何かを消したり出現させたり、変化させるときはきまってある有能な助手に手伝ってもらっているのです。大変魅力的な助手です。決して表に姿を現すことはなく、マジシャンには影のようについているひかえめな美人秘書です。名前は「ミス・ディレクション」(Miss Direction)と言います。

「マジシャンはひとりで演技をしなければならないが、私はミス・ディレクションという助手をつれている」
これはジョン・ラムゼイ(John Ramsay:1877-1962)というミスディレクションの名人の言葉です。

実際は「ミスディレクション」というのは、英語の"misdirection"のことです。観客の注意や視線を、注目されると都合の悪い部分からそらせる技法のことです。

マジシャンが何か「秘密の動作」をするとき、いつもこのミスディレクションのお世話になっています。上手なマジシャンほど、この秘密の助手も有能です。

ここでミスディレクションのレクチャーをするわけには行きませんが、ごく基本的な原理だけを言えば、観客はマジシャンが注目しているほうに注目するということです。つまり、マジシャンが左の方を向けば観客の視線も左に移り、マジシャンが観客の顔を見て話しかければ、観客もマジシャンの顔を見るという具合です。

ミスディレクションには視線だけでなく、「音」、「思考の慣性」、「タイミング」等色々あります。これらを状況に合わせて使いわけているので、上手な人のマジックは、まったく怪しげなことをしていないのに、不思議な現象が目の前で起きるように見えるのです。

ミスディレクションは大変奥の深い技術です。ある意味、マジックの究極のテクニックと言ってもよいかも知れません。

ミスディレクションの名人と言われているマジシャンを数名挙げるなら、先のラムゼイ(John Ramsay),スライディーニ(Tony Slydini)。現役ではタマリッツ(Juan Tamariz)でしょうか。

現在、日本で一般に知られているマジシャンとしては、昼のタモリの番組、『笑っていいとも』の火曜日に出演しているミスター・カラー(Mr.Color)という若いマジシャンが上手です。 あれだけ”つっこみ”の厳しい連中に取り囲まれ、しかもテレビカメラで撮られている状況で、見事にみんなを引っかけているのはミスディレクションの力です。

マジックは決して手先の器用さや、素早い動作で何かをする芸ではないのです。

追加:ミスディレクションに関しては下のページも参照してください。

ジョン・ラムゼイの御言葉

「円の直径を求める」

「The Web」

参考図書

将来、本格的にミスディレションを勉強したいのでしたら以下の本を薦めます。いずれも名著ですが、タマリッツの"The Five Points in Magic"は、タマリッツが現在も現役のプロであり、ビデオも数多く出ていますので、それと併用して読めばわかりやすいと思います。また、元はスペイン語で書かれたものを英語に翻訳されていますので、大変読みやすい英語になっています。

Magic by Misdirection (Dariel Fitzkee)
The Five Points in Magic (Juan Tamariz)
The Ramsay Legend (Andrew Galloway)
The Ramsay Classics (Andrew Galloway)
The Magic of Slydini (Lewis Ganson)


魔法都市の住人 マジェイア


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