The Paul Daniels Magic Show
英国BBC放送(1979年−1994年)
更新2000年5月31日
イギリスで人気、実力とも群を抜いているマジシャンとしてポール・ダニエルズ(Paul Daniels)がいます。
ポールは1938年、イングランドのミドルズブラという、ティーズ川河口の港町で生まれました。マジックは11歳のときに"How to Entertain at Parties"という本に出会ったのがきっかけで、自分でもマジックをするようになったそうです。
最初は地元のナイトクラブなどでマジックを見せていましたが、明るく軽妙なユーモアに包まれたキャラクターがテレビでもうけ、数多くの番組に出演するようになりました。
なかでもイギリスの放送局、BBCで1979年6月から1994年3月まで15年間続いた「ポール・ダニエルズ・マジック・ショー」は特筆すべき番組です。
このシリーズは当初4回分と、クリスマス用の特別番組が作られ、それで完結する予定でした。1回の放送時間も30分です。ところが予想を上回る反響があったため、翌年も続いて制作されることになりました。シーズンごとに2回ずつ、年間計8回の番組が作られ、1回の放送時間も50分と長くなりました。これが予想外に長寿番組になり、1994年の3月まで15年間も続くことになったのです。制作された番組は全部で150本ほどになっています。
マジックを中心にした番組で、これほど長く続いたものはイギリスだけでなく、世界中でも他にはないでしょう。これだけ続いたのですから、イギリスではたいていの人がこの番組のことを知っています。現在20代から40代くらいの英国人にたずねてみると、ほとんどの人が子供のときに見ていたと懐かしそうに語ってくれます。とにかくイギリスではポール・ダニエルズの人気、知名度は群を抜いています。
15年続いたこの番組が1994年3月で終わったあと、同年12月に"Secrets"という新しいシリーズが始まりました。これは今までとはちがい、スタジオにナイトクラブを模したセットを作り、観客も本当のナイトクラブでショーを見ているような雰囲気になっています。このシリーズは1996年まで計8回放送されました。
"The Paul Daniels Magic Show"が、英国でのポール・ダニエルズの地位を不動のものにしたのは間違いありません。何と言っても15年という月日は決して短くありません。ポールはこの番組の中で、アシスタントとして出演していた女性、デビー・マギーと1988年に結婚もしています。
この番組を最初から15年かけて見ていればポールが少しずつ歳を重ねていくのも気にならないかも知れませんが、私はこの15年間分をいっぺんに見てしまいました。それも番組が始まったばかりの1979年のものと、途中を飛ばして15年後に放送されたものを間を開けずに見ました。途中の分はゆっくりあとで見るつもりで、とりあえず最初と最後だけでも確認しておきたかったのです。
このようなヘンな見方をすると、思わぬショックを受けました。ポールがまるで別人なのです。番組が始まった頃は41歳です。彼は童顔なこともあり、大変若く見えます。30代前半といっても通るでしょう。それが15年後は56歳なのに、こちらは一変して髪の毛が白くなり、ひどく老けています。60歳を越えているようにさえ見えました。一人の人間の15年間分を2、3時間に圧縮して見れば、劇的に変わっても無理はないでしょうが、これは恐怖映画なみにぞっとしました。
それはさておき、この番組が15年間も続いたのにはそれなりの理由があります。マジックだけをやっていたのでは、とてもこれほど長くは続きません。この番組に人気があったのは、マジックだけでなく、音楽、ダンス、ジャグリング、ギャンブラーのテクニック、カーニバル等で見かけるいかさまゲーム、超能力風マジックなど、様々な分野のものを紹介し、出演する芸人も世界中からトップレベルの人を呼んでいたからです。マジックの合間に、マジックとは別の芸が入るとマジックそのものも大変リラックスして楽しむことができます。
私自身はイギリスで暮らしたこともなく、ポール・ダニエルズのこともよく知らなかったのに、この番組をまとめて見る機会を持つことができたのは、「魔法都市案内」を開いていたからです。その辺りの経緯をあまり詳細に書くとご迷惑がかかるかもわかりませんので省略させていただきますが、静岡にお住まいの世界的ビデオコレクター、H氏のおかげです。
ある日、突然、何の予告もなしに大きな箱がうちに届きました。段ボール箱ふたつに、ビデオが65本びっしり詰まっていました。これが15年間分の番組です。
早速何本か見せていただき、驚きました。ポール・ダニエルズの選球眼の良さ、演出の軽妙さ、出演する芸人のレベルが高いことなどが相まって、すばらしいエンタテイメント番組になっています。マジックだけを取り出しても、15年間もやっているのですから、たいていの有名なマジックは出てきます。これだけ集まると、量が質に変わります。マジックの百科事典と言ってもよいくらいになっています。マジックだけでなく「コン・ゲーム」、つまりカーニバルなどで見かける「いかさま」のゲームのことですが、これなど日本では文献でしか知ることのできなかったものを実際にやってくれていますから、これも大変貴重なものとなるでしょう。ポール自身が手に負えないものは、本物のコン・マンを連れてきて実演してもらっています。
このような貴重なデーターを私一人が私蔵するより、何らかの形で同好の士に還元できないものかと思案していました。ビデオは将来、DVDなどに取って代わられ、もっとコンパクトになると思います。そうなれば検索も容易で、すぐに参照できるようになります。それは決して遠い将来ではなく、数年後のことではないかと想像しています。いくら検索はできても、これを全部見ようと思えば百数十時間かかります。半端なものではありません。そのとき、少しは詳しい索引があれば、見たいものがすぐに引っ張り出せると思い、私の勝手なコメントですが、つけておくことにしました。これはまた、私自身にとっても役に立つと思うからです。今回改めてもう一度見直してみると、今まで忘れていたり、見落としていたマジックがいくつも出てきました。
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