<2013.01.28 K.Kotani>自主アニメ産業の可能性 3


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月刊近メ像インターネット


2013年1月28日

自主アニメ産業の可能性 3



 前稿では、「映像芸術の商業的成り立ちと、無断複製の横行、インターネット上の状況」について述べて来た。

 ここで、「昔、ものすごく売れた自主アニメ」について述べてみよう。

 まずDAICONのオープニングアニメだが、元々SF大会の開会式にかける為に製作されたものだった。ところが、ものすごいクォリティの高さに、「もう一回観たい」という声がその時から上がり、大会中に再上映・再々上映され、しまいには大会の雰囲気が沈んでくる度に「オープニングアニメかけます」とアナウンス、おーっ、と大会が再び盛り上がったそうである。その後、SFファン(アニメファンとかぶる)の間で「凄いアニメがあるらしい」と噂が広がり、DAICONでは入場料を取って上映会を何回か開いた。会場は毎回満席となり、「一分のアニメを観る為に、千円払って観に来る奴がいっぱい居る。」と評判になった。(実際には、DAICONの他作品も上映したので、「一分の上映会」ではなかった。)その後VHSソフト化され、かなりの数が売れたそうである。その後、この作品のスタッフは「ガイナックス」を作り、プロの制作者となった。

 つぎに「ほしのこえ」である。ゲーム制作会社に勤めていた新海氏が、個人で製作した「彼女と彼女の猫」をCGアニメコンテストに出品、グランプリを獲得した。その後会社を辞めて作品制作に専念、(後のCGアニメコンテストの表彰式で、司会者より「会社辞めて大丈夫ですか」と声をかけられている。)、「ほしのこえ」を発表した。この作品はそのクォリティの高さと、「ほとんど一人で制作した」という点が注目され、メーキングとセットになったDVDはもの凄く売れ、新海氏の手元には億を超える印税が入った。その後、新海氏は個人の映像プロを作り、長編・短編・TVよりの受注、CM制作などを行っている。ごく小規模であるが、東映アニメやジブリのように、商業レベルで勝負する存在になった。

 この2作品であるが、他の自主制作のアートアニメと比較すると、明らかに異質の存在である。一見プロの作る劇場用・テレビ用のセルアニメーションとほとんど変わらず、かつ画面の質がプロの作ったものの水準を超えている。また、その後は個人製作の短編ではなく、スタイルを代える事なく商業アニメの世界にそのまま移行して、プロとしての製作活動を続けている。

 従って、この2作品は、「本来プロに進むべきだった方が、たまたま途中で自主製作アニメの世界を通過した時に作った作品」と観るべきで、アートアニメの商業的可能性の道をこの2作品に直接見いだす事は無理がある。

 同じように、近年、個人製作から商業的成功をおさめた例として、「蛙男商会」のフロッグマンショーがある。こちらは、FLASHを使った個人作品で、アニメとしての動きはほとんどないが、深夜番組とはいえ、30分の帯番組の映像・音声をほとんど一人で制作し、その後、劇場用長編まで個人で制作して公開した。前記2作品とは異質だが、「商業映像指向」という点では共通している。

 このような「初めから商業的成功を指向して制作していた作家」と、「個人の表現を目指す作家」では、明らかに方向性が異なり、「個人の表現を目指す作家が自分の作品を作って食べて行く」という目標の指針とはなりえない。

「4」へ続く。  


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