2017.06.24 K.Kotani>
続・「トレス台」について考える
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月刊近メ像インターネット
2017年6月24日
続・「トレス台」について考える
先月号に掲載致しました「 「トレス台」について考える」につき、アニメーション研究家の渡辺泰氏より参考資料を頂戴いたしましたので、ご紹介させていただきます。
まず、1920年初版のE.G.ルッツ氏の「Animated Cartoons」掲載のトレス台。傾斜したガラス面の下に電球を入れる方式ですが、ガラス面の下に鏡を置き、電球をガラス面から少し離した位置に設置して鏡の反射でガラス面を照らす方式です。なるほど、この方式ならば電球とガラス面が離れるので、ガラス面が熱くなる事はかなり防止できるでしょう。また、光源とガラス面がかなり離れるため、ガラス面の明るさが相当平均化される、という効果もあったはずです。
ただし、日本初のアニメーション公開は1917年ですので、この本は間に合わなかったようです。ただし、後年北山清太郎氏がこの説明図を元にしたと思われる絵を著書に用いられており、日本でも一部で知られていた本のようです。
蛍光灯を使った反射光式試作トレス台 復元図
なお、この「光源をガラス面の真下に置かず、奥において反射でガラス面を照らす」という方式については、私も蛍光灯を用いて試作した事があります。ただし、光源が白熱灯ではなく、蛍光灯でしたので、熱対策ではなく、「トレス台の高さを下げる」事を目的としたものでした。また、中に鏡を入れるのではなく、箱の中を白く塗っただけでした。残念ながら、ガラス面(アクリル板でしたが)の上の方は明るくなるが、下の方は暗くて均等な明るさにはならず、また、トレス台全体の大きさも奥行きが大きくなるなどの問題もあり、結局実用にはなりませんでした。
次が、1934年刊の寺内純一氏の「漫画講座第二巻・トーキー漫画の作成法」掲載のトレス台の構造図。座卓の天板を切り抜いてガラス板をはめ、その下にランプハウスを作って電球を入れる、という方式です。もはや「トレス台」というよりは、「動画机」と呼びたいような大きさですが、大きいだけあって放熱の効率も良かったのではないでしょうか。ただし、この机の下に足を入れ、あぐらをかいて作画すると、膝のあたりがかなり暑くなり、ランプハウスに触れたりすると「アチッ」という事になったでしょう。
さらに、「断面図」では、下側がすりガラス、上側が普通のガラスの二枚重ねの構造になっています。前回記事で紹介した三起社製の最新鋭LEDトレス台では、厚さ1センチのすりガラスを用いる事で、光の拡散を広げて、ガラス面をより均一に明るくしようとしていますが、この二層ガラスにもその意図はあったのでしょうか?
最後が、1943年刊の下川凹天氏の「特殊漫画の描き方 トーキー漫画編 実習指導 漫画の描き方」掲載のトレス台の構造図。先の寺内氏の図をなぞったのでは無いかと思われるほどそっくりの図ですが、断面図はなく、天板の説明が「ガラス」ではなく「スリガラス」になっています。一枚か二枚かは不明。
この頃日本にあったトレス台の数は知れたものだったでしょうから、アニメーション関係者の間では、「君は絵の透かしはどうしてるの?」「こんな感じだ。中はこうだ」「ああそうか、僕も作ってみるよ」くらいののんきな雰囲気だったのではないのでしょうか?