「赤提灯」

仕事帰り
通りすがった街は
もう十年も前
女が住んでいた町

良い記憶も無いのだが
悪い記憶も薄れかけ
女の事より
その時代への追憶

道端の赤提灯は
あのころと同じ
何度も通った
昔なじみの店

油ですすけた窓から
のぞいた店内には
懐かしいマスターとママの顔
ヒマそうにテレビを見ながら

覚えてはいないだろうが
それでもお久しぶりと
たずねてみたい気もして
店の前を三往復

でも、入らなかった
なんか、入れなかった
思い出は思い出で
そっとしておこう
あの時代はあの時代
二度と戻らないからこそ
今の現実なんかと
結び付けちゃいけない

バスに乗って
今住む町へ急ぐ
いつもの店で
一杯やろう

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