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「赤き母」

冬の海は
身悶える闇
母はその身をよじり
泡を吐き
低く長い嗚咽を続け

母はその身を
赤く染め
おまえを
産み落としたことを
覚えているか

その声を
その悲しみを
遠く響く叫びを
甲高く泣き
岩に身を打ちつけ
身もだえ
砂を噛み
何を想うのか

幾代もの記憶をたどり
その奥底に
命を抱き
その悲しみは
遠く離れた時間と
距離をつきぬけ
ここまでも聞こえる

重くのしかかる
空の色にを
映し出すことも無く
ひたすら深く沈み
ただいつまでも
繰り返す
揺れるままに
繰り返す

冬の海の
赤いことを
母の心の
赤いことを

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