「あとがき」

たくさんの物語を
後にしてしまった
いつだって終わりなど
美しくはなかった
夢をいくつ壊したのだろう
おそらくは抱いた数と同じだけ

犬を何匹か見かけたが
みんな腹をすかせていた
俺と目が合うと必ず
寂しそうに笑ったものだった

花の名をいくつぐらい忘れたのだろう

言葉はついに何も伝えなかった
愛はついに何も動かさなかった
ただ俺は絶望を語るほどには
理想主義者ではなかっただけで
俗物なのだよね、きっと

懐かしむ思い出なんて
ただ悲しいだけだから
過ぎた春の数を数えることも
いつかやめてしまった
せめて今まで流れていったはずの
時間の流量でも計算してみようか

君の名を呼ばなくなったのはいつだったろう

終わったあとから飾るつもりは無い
切り口は切り口として残しておこう
どうせ流れ出るべき血などは
残ってなどいないのだから
あとは埋もれるだけの
物語の終わりなんて
ただそこに転がしておこう

悔やもうとすれば
悔やむべきことの多さに
圧殺されてしまいそうだから
呆けたようにただ
そこにある景色の上に
視線をすべらせよう

たとえば恋の終わりは
いつだってそんなものだと言って
赤い砂でもふりかけておこう


そこに時折
虹が立つのだと聞いたが
見たことは
ない。

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