「古時計」

「うるさい」といって
振り子を止められてしまった
古い時計はもう時を刻まない。

そんな時計がいくつか
今は音も立てずに
部屋の中にある。

電池の切れた新しい時計より
その大きさと、木の温度の分
存在を消しきれぬまま。

それらはまるで
抜け殻かミイラのようで
痛々しいほどの無念を発している。

--そして止められた振り子の怨念が
私に問いかけるのだ。

「おまえはたくさんのことを
選択してきたつもりでも
真実は同じ数のものを
あきらめてきただけではないのか」

まるで新しいおもちゃに
目移りする子供のように
昔の夢は心から消える。

この振り子時計のように
目に見えている過去は
ほんの一部分。

私は生きるためといいながら
いったいいくつの時計の振り子を
今までに止めてしまったのだろう。

気にもかけなかった
数知れぬ諦念の重さが
古時計のガラスの向こうに居る。

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