「今宵、愛を歌わず」

安っぽいドラマたちのあふれる巷では
その裏の虚構を認識しておくのがルールらしい。
むきになるのは格好が悪いと
スマートな彼らの忠告が聞こえる。

情報ばかりがあふれている。
本当の感情はどこに行けばよいのか
「言葉ってなんか厄介でな」
そう、思ったほどは役に立たない。

そして私の思いは路頭に迷う
伝わらない恐怖に言葉が凍る

そんな時代だからこそ、
救われぬほどお前をいとおしく思う
この瞬間だからこそ、
今だけは愛を歌いたくないのだ。

幸せを望んでいるわけでもないが
不幸ぶるのは今時の流行でもないらしい。
自己満足の言葉など聞きたくも無いと
冷たくあしらわれた記憶が戻る。

恋人たちは信じ合っている。
本当を分かちあって疑う必要もない。
「心からあなたを愛している」
そう、今はだれも否定などしまい!

そして私の思いは狂気に変わる
うろたえる気持ちに言葉が凍る

こんな私だからこそ、
信じきれぬほどお前をいとおしく思う
この瞬間だからこそ、
今だけは愛を歌いたくないのだ。

だからせめて
沈黙と、まなざしで、
伝えきれる精一杯を。

目次へ