「蜘蛛」

眼底に蜘蛛が一匹居る
昼夜を閉ざした地下鉄の車内で
そいつは這う

現実の視界の中に
黒い影のように
蜘蛛が一匹居る

体長数ミリの
灰褐色の

そいつは
夜になると
閉ざした目の中に
巣を張りはじめる

血の色のまぶたの裏に
細く黒い線で
巣を張りはじめる

張り巡らされた糸は
眠りの中から逃げ出そうとする
夢を捕まえ
蜘蛛はそれを喰らうのだ

おかげで眼窩には
食べ残された
夢の手足がたまり
たまにちくりと
眼球に刺さるのだが

朝の光の
あくびの中で
蜘蛛はジャンプをする
決して目玉の中から
飛び出せはしないのに

蜘蛛は昼、巣を張らない
たぶんえさも食べない
大体寝ているようだが
たまに這い回る
しばらく視界を這い回った後
また眠る

眼底に蜘蛛が一匹居る

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