「モスクワ」
寒い朝に辟易しながら
私は急いでストーブを点け
インスタントコーヒーに湯を注ぎ
時報代わりのテレビのスイッチを入れる
ちょうどテレビのニュースが
遠い国の大寒波をしらせていた
私は昔なじみの街に思いをはせる
モスクワ川は
凍り付いているのだろうか
クレムリンは
相変わらずのたたずまいであろうか
久しぶりに見る
街角の光景に
何か酸っぱい想いが
こみ上げてくる
止まったトロリーバス
雪に埋もれた地下鉄の入り口
凍りついた赤の広場
それこそ意味の無いことなのだが
なんとは無い罪の意識に
私はおもわず部屋のストーブを消した
-そういえば
アナスターシャ
おまえはどうしているのだろうか-
思いがけないニュースの映像が
一瞬
遠く忘れていた記憶を
呼び起こして通り過ぎた。