「無音階ソナタ」

ラズベリージャムの朝食はいかがかね
お嬢さん!
それとも今の君には
すっぱすぎるかね。
時計を持ったウサギって信じるかい
アリスは見たんだそうだ。
おや、
君は信じないのか
可愛いと思ったのだが・・・。
可愛いといえばうちのつぐみだがね、
(このあいだパイを切ったら出てきたやつさ)
どうかね、一度見に来ないか。
君、にこやかに冗談にしないでほしい。
笑ってくれるのはありがたいが
一応私はプロポーズをしているのだよ。
そこで、だ
ラズベリージャムの朝食はいかがかね
お嬢さん!

ラズベリージャムとフランスパンでいかがかね
こいつぁー素敵だって
昨日きたネコどもが言っていたんだが。
そういや、ネコってやつは 熱いものが苦手なんだぁ
ピッヅァトーストなんぞを食べるわけが無いんだ!
こいつぁおもしろい
あなたも一度きたまえよ
ほっかほかのピッヅァトーストごちそうしよう。
いや、べつに君がネコだって、
一向にぼくはかまわないんだがね。
ただし、だ
ネコならしっかりと毛並みをととのえてきておくれ。
ぼくの中で君は
いつでも最高に美しいものなのだから。
お嬢さん!

ラズベリージャムを紅茶に落とすのもいいと思うのだが
君としてはいかがなものかな。
朝の紅茶は素敵だと思わないか
まずあの色がいいじゃないか
一日のはじめにちょうどあっている。
ミントを入れたスパイスティーが
家に居た双子のリスのお気に入りだった。
それを飲みながらパリポリと
くるみなんかをかじるんだ。
目玉をくるっとまわして
とっても可愛かったのだが
おととしの秋に森に帰っちまった。
で、だ。
リスのように可愛い君のことだから
やっぱり紅茶が好きじゃないかと思ったんだよ
お嬢さん!

まあそんなわけで
早い話がうちに来ないかね、
お嬢さん。
どうせラジヲは壊れているし
静かにピアノソナタでもききながら
素敵に晴れた空を
カップの中の紅茶に映したり
素敵に浮かれたぼくを
君の瞳の中に映したりしてみようと思うのだけれど。
そういえば素敵な樫の木のイスが
物置の奥にあった!
もし君が来るのならあれを引っ張り出して
南側の窓際に置こう
そうそう、つぐみのやつも窓際に移してやろう
きっと嬉しがって鳥かごをひどく揺らすにちがいない
で、ラズベリージャムの朝食はいかがかね
お嬢さん!

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