「波音」

ただ波の音の聞こえる夜のように
おまえの寝息を見つめている
遠い時間の堆積だけが
別れの幻想を駆り立てる

   そして
   ふと
おまえが人間に見えるのだ
私の恋人ではなく。

黒い海はそんなに冷たくもない
ほんの少し息を止めていればいい
愚かなおまえよりはるかに
私は愚かなのだから

   そして
   ふと
私は人間であったと

ただ波の音の聞こえる夜のように・・・
本当に波の音だったかもしれない

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