「人形」

少女に出会った

静かなスタジオの隅の
うす暗い空間で

腹話術師のように
胸元に
人形をかかえ持った
十代の少女

少年の顔の人形は
その表情を
めまぐるしく変化させ
少女は
男言葉で語る

強気な言葉は
人形の代弁
彼女もしくは彼は
乱暴に僕を攻める

でもわかるのだ
少女は
人形が無ければ
無口で内気

ひとしきりの
悪態をならべながら
時折曇る
少女の顔
一回も僕と目は合わさず
そしてそしらぬように
ころころと
人形の顔

しばらくの男言葉のあと
突然少女は
「こいつ、
なんかむかつく」と
人形を放り捨てる
なにかが切れたように
あいかわらず
僕には目もくれず

少女は僕の詩の
タイトルだけを読みはじめる
なにかをぶつぶつと
つぶやきながら

そして少女は
鉛筆で勝手な感想を書き込む
何を書いているのかは
僕からは見えないが

人形は置き去られ
表情も無く
ただ床の上に転がって
その視線は僕を見ている

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