「沼」

原色の入り混じる
沼にいた。
絡みつく液体は
あたたかく、
体中の毛穴が
開くのを感じた。

原色の水面に
映っていたのは
一人の女の顔だった。
女の顔は
「待っていたのだ」と言った

沼の周りでは
獣がほえていたが
ここは安全だった。
その沼の中では
飢えることが無かった。

女はいつもそばにいて
欲しいときには
口付けをくれ、
必要なときには
緊張をくれた。

巡る太陽は
なにも言わずに
沼の水温を保ってくれた。
夜は水面に
ろうそくを浮かべ
火を灯してみたりした。

女がたまに
渦を巻いて沈もうとするので、
そのたびに私は
巻き込まれて泥を飲んだ。

私は気の遠くなるほど長い時間
沼にはまり込んでいたのだが
沼の水面は
刻々と模様を替えるので
私は時間を忘れていた

幸いなことに
そこに鳥はいなかったので、
上から見られることに
おびえる必要も無かった。

この沼には
誰か他にもいるのだろうか?
そんなことも考えたが
探す気にはならなかった。

「沼の外にも
世界はあるのだろうか」と
問いかけると
女はただ笑っていた。

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