「檻」

私と言う檻の中に
私の言葉は閉じ込められ
君という檻の中に
君の言葉は閉じ込められ
それぞれが退屈した熊のように
狭い檻の中をぐるぐると回り続ける

言葉は私の分身だから
言葉は君の分身だから
ぐるぐると廻るのは
本当は私自身で
本当の君自身で

私と言う檻の中に
私の怒りは閉じ込められ
君という檻の中に
君の悲しみは閉じ込められ
本能に近い衝動を
ふたりは
涙にしかできず

檻の荒い鉄格子でも
怒りはせき止められ
悲しみはフィルターされ
ふたりの
こころぶつかることはなく

私と言う檻の中に
私の情念は閉じ込められ
君という檻の中に
君のやさしさは閉じ込められ
共感とあきらめが
ただたよりなく
ふたりをつなぐだけで

ふたりの檻は
隣り合っているのに
鉄格子越しにもなお
わかり合える物と
消すことのできない
永遠の断絶と


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