「酔生夢死」

同期の中で出世頭であることを
当然として己に求めてきた
誰から見てもプロフェッショナルであることを
当然として己に課してきた
年収こそが物差しであった
肩書きはすなわち勲章であった
愚かだと笑うがいい
だが意味が欲しかったのだ
私がここで生きていることの
つまずきは取り返せばいい
抜かれたら抜き返せばいい
戦っているつもりなど無かった
ただ勝つのが当然だと思っていた

ある日突然死神は訪れた
頑張ってはいけないと言われた
涙が止まらなかった
泣く理由など見当たらなかった
本当は戦場が必要なのだ
戦えないから気が萎えるのだ
そう考えた
ほら見るがよい
私が今までかけて手に入れた鎧を
私がこの手で奪い取った太刀を
負けるはずが無い
まだまだ先鋒として戦うことができる
なのに立ち上がれない自分がいた

ふと太刀を抜いて眺めてみた
まだ十分に切れそうだ
でもその太刀を振るう気は
私の中に残っていなかった
戦えないとも思えない
だがその戦いに己を賭けられるのか
問うてはいけない問いかけを
己にしてしまった
当然のようにそこに答えなど無く
大切だったものの重さが失せ
存在意義が揺らぎ消えるのを感じた

酒を飲んだ
落ちるに任せて酒を飲んだ
落ちることは快感だった
軽蔑と失望の中で飲み続けた
社会?会社?きれいに切り捨ててくれた
お前は脱落者だとみなが口にした
たぶん痛かったのだろう
私は久しぶりに音楽を聞いた
揺られる心の波の中に
何かが漂っていた
ゴミだと思い拾い上げたそれは
遠い昔に見た覚えがあった

もはやここより落ちろところも無い
ただ笑ってくれればよい
抱え込んだ家族なら
なんとしても食わせてみせる
愚かな私の生き様を
無様と思うが正解であろう
しかし見よ
望むならこの指の先に奇跡の炎
ともして見せようではないか
あの失望と嘲笑の中で私は決めたのだ
あのとき漂っていた物
それこそが夢だったのだ
夢に生きて見せようではないか
夢に死んで見せようではないか

そう
私は敗者だから、もはや落ちはしない

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