「瞬夢」
満ちることのない海が
あなたの中にある。
あなたが心を開いたその一瞬
僕の言葉が風になって
その水面を揺らす。
あなたが何かを言おうとしている
僕はそっと指をのばし、あなたの唇に当て
言葉を殺してからうなずく。
言葉をなくしたあなたの瞳が揺れる
花を摘むときの、あのかすかな罪悪感を
僕の指先に残して
あなたの言葉は波の中へと消えた。
その瞬間
つぼみが今開こうとするように
色づくあなたの頬、
言葉が出ないそのことに
波立つあなたの海!
思いがけないあなたの輝きに
思わず息を飲む僕。
音と、時間が止まる。
その中であなたの海だけが
いつまでも波打ち続ける。
満ちることのない海が
あなたの中にある。