「たとえば俺は海からやってきたのかもしれない」

海に向かって投げかけた愛の言葉は
決して投げ返さえれることもなく
ただ波だけが俺の足許で
からかうように繰り返していく

海からの風が少し冷たいので
俺はタバコの火でほのかな抵抗を試みる
けれど潮風に不似合いなその煙にまゆをひそめ
俺は立ち去るよりほかはない

海から街へ続く道で俺は考えようとする
俺は今、故郷を離れて行くのか
それとも故郷へと帰っていくのか
決して答えの見つからないうちに
目の前に見慣れた町並みが流れ始める

「結局なにも見つからなかったよ」とつぶやいた後で
街だって何の言葉を投げ返してはくれないことを想い出し
俺は無為に苦笑をする

「笑ってしまったね君」と言って去っていった黒い男がだれなのか
俺は結局知らないままだ

俺は街を歩いて横切り
公園で待つ君に会う

君はまたいつものように下を向いたりしながら
ただ俺の言葉を飲み込むだけで
君に向かって投げかけた愛の言葉は
出口を開けない君の中を駆けめぐり続ける
その中で時間だけが
からかうように通り過ぎていく

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