「梅雨を待つ」

つかの間の安らぎの季節が
近づいている
湿った空気と渦巻く憂鬱の中でこそ
私は鮮やかに
笑い放つことができる
そして雨の夜の
ノスタルジー

あの街行く人々の
暗い顔が好きだ
あの腐臭を伴った
重い風が好きだ
そう、
空間を満たすものが
重ければ重いほどに
私の魂の比重は
相対的に軽くなるのだから
そして彼ら彼女らが
自身を保存することに追われている間
私は
安らかに煙草をくゆらすことができる

ゆっくりと湿度は増して行く
雲の色がくすんで行く
あの、
つかのまの梅雨が
我が安らぎの季節が
もうそこまで
来ているのだ

私は一人で壁に向かいながら
鮮やかに笑い放つ練習をしている
そしてよみがえる
ノスタルジー

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