「海のように日々は遠く」

海も、山も、街も、そしておまえすら
私を抱いてはくれぬ
さみしいとつぶやいてみたが
石の転げたような響きでしかなく
涙すらさそうこともない。
八月の夜だというのに
海の記憶は遠くかすんでしまって
昼間、私の身を焦がしていたのは
日差しなのか、それとも焦りなのか。
いつか見た夢のように
叫んでも声は届かない
夕暮れの街角の花とか
夜の街灯の下の子猫とか
それでなければ波の音とか
そんな日々があったはずで
しかし夏の暑さは
真昼の工場街のサイレンのように
己の存在のみを誇張する。

なのにまだおまえは
私に何を言わせようというのだ
このしわがれたのどで。

目次へ