「嘘雪」

今夜この町にも
雪が降ると
いつも通り
しゃべり過ぎの
テレビジョンに
聞いた

雪は
積もる
そんな信仰にも似た
想いで
午前1時の
玄関先の
石段

ほんの1ミリ
ほんの一瞬
地上を隠す雪が
たとえ何も
変えることが
ないのだとしても

今の
私には
天国の降臨のようで

私は待つ
夜の路地を見つめ
死には遠い
ゆるい寒さの中

思わせぶりな空は
女給のように
意地悪く
ただ待たせるだけで
ひとひらの潤いも
わが手のひらにはなく

私が死を我慢してまで
ここで待っていることを
嘲笑うように
12月の夜風
私はただ
はやく覆って欲しいだけなのに

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