「忘れ物」

また、あの家に、
忘れ物を捜しに行く夢を見た。
十数年前に後にしたあの家は
もはや取り壊されて、
あるはずもないのに。

特に長い時間を
そこですごしたわけでもなく、
ほんの二、三年
そこに居ただけなのに。

思い出の品々は
持ち出してきたはずで、
置きざりにしてきたのは
捨て去るものだけだったはずで。

なのに夢の中で、
私は何度も繰り返し
忘れ物を捜しに行く。

何を探しているのかもわからず、
ただ思い出のページを
無作為に開く様に
次々と現れる
有った物、無かった物。

そこを流れていた時間の
重さのせいなのか、
きしむ歴史は
誰のものだったのか。
何が残っているのだろう
いや、
何を残してきてしまったのだろう
あの古ぼけた一軒家に。

あのガラクタの山の中で
まだそれは残っているのだろうか、
それとも
取り返しのつかない
心の傷なのだろうか。

何かがまだ
私を呼んでいるのだ。
何かがまだ
私の心を離さないのだ。

そしてその忘れ物が何だったのか
今でも思い出せない。

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