「焼畑」

記憶の森を焼き払って
畑にした
花や木や虫たちより
今日の糧が必要だったから。

燃え上がる記憶たちは
ただ黒い煙となって
空を覆いつくしたが、
その暗さの意味までは
考えて見ることも無かった。

まだ殺戮の匂いの残る焦土の上で
私は何の感慨もなく
わずかに原形をとどめる灰たちを
突き崩して土と混ぜた。

消え去った記憶が
芋を育ててくれる
それでまたしばらくは
生き延びることもできた。

収穫が終わり
やせ衰えた土に
未練をしても仕方ないことで、
次の糧のために、また火を放つ。

情念の林も焼き払って
畑にした。
思索の密林も焼き払って
畑にした。

来年の畑を探して
荒れ果てた大地を見回していたとき
しばらく前に焼いたはずの夢の跡地に
小さな青い芽を見つけた。

昔ここに生えていた
あの大木たちの子供だろう
明日の飢えを気にかけながらも
私はそれを再びは焼けなかった。

もう一度林を戻してみよう
見届けられないかもしれないが。

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