「焼き鳥『しげ』」

作為的な空き地の周りに
張り巡らされた高いフェンス。
荒涼感を誤魔化そうとするように
洒落た街並みを描いた大きな看板。
通りに並ぶスナックやら寿司屋やらは
口を板で打ち付けられ、沈黙する。

十数年をかけて、
街は生まれ変わるのだという
防災のためであり
住環境向上のためだという

この、赤土のむき出した場所には
つい、ほんの数ヶ月前まで
いい具合に枯れた、赤提灯があって
その油焼けしたカウンターには
いつも見かける顔たちと一緒に
置物のように、汚い猫が寝ていた。

都市計画の名の下に、
整然と区画されたオフィスやマンション。
いずれ行き交う見知らぬ顔たちは
ここを故郷と呼んでくれるだろうか。

奥の座敷には子猫たちが遊び、
勢いあまって、足元まで走ってくる。
人の顔を見ては後ろっ飛びに逃げ
すぐにまた追いかけっこだ。
いつも一本多めに焼かれる焼鳥は
猫たちへの、おすそわけの分。

古き良き時などと思うのは
つまらない感傷か。
都会は代謝を必要としているのだという
だれの理想だか知りもしないが。

郷愁に浸るほどの長い歴史を
そこで過ごした訳でもないが
猫らの行方が気がかりで仕方ない。
そんな猫たちの日常を踏みにじってまで
人は何をしようというのだろう。
そうしてまで、街はきれいであるべきなのか。

黄色き安全帽の動かす
重機の音が轟々と・・・
都会は代謝を必要としているのだという
だれの理想だか知りたくもないが。

都市の情念は小利口な思想へと洗脳されていく

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