5月2日(土)晴れ 今回の春山は、自分にとってレベル的な不安要素があり、山行前から緊張状態が続 き、日常生活でもピリピリして山行のことを考えると胃が痛くなるくらいだった。しかし 現地に来ればいつもと変わりないスタートとなった。 七倉駐車場は広々していてトイレもある。高瀬ダムまでタクシーで上がるつもりで念の ため予約を入れておいた。6時半にゲートが開き、歩いて登る人を尻目にタクシーは スイスイとダムの上へ登っていく。この先の行程を考えれば2,000円の価値はある。 ダムの上までタクシーで来た人は、自分たちを入れて4組。会話を聞いていると男女 2人組と男女4人組が硫黄尾根で、男性2人組が北鎌尾根の様子。他の3組は何だ かんだで男性同士、声を掛け合っていたが、同じ場所にいても自分たちは疎外感。 この場において女性2人組というのはキワモノなのだろうか…と卑屈になったりする。 他のチームが出発した最後に高瀬ダムを出発する。最初のトンネルを歩いているうち は先行チームの声が響いたりしていたがその後は姿を捉えることもなくマイペースで 先へ進む。林道終点で休憩していると単独の人が追いついてきた。この先の登山道 では崩壊地に渡した桟道が損傷している旨の注意書きがあった。 進んで行くと確かに所どころで桟道がベキッと折れたように落ちている。でも難なく脇 を通れたので先へ進む。 しかしそろそろ湯俣かと思う頃、わりと流れのある支流にかかる桟道が見事なまでに バキッていた。付近でうまく渡渉できないか探したがあきらめ、湯俣川まで下りて流れ の緩やかなところを裸足で渡渉する。もたもたしているともう限界というくらいの冷たさ だった。 渡渉をこなして程なく竹村新道分岐。橋を渡らずそのまま水俣川の出合へ。そこに架 かる吊り橋は、片側が落ちて傾いていた。 ワィルドだなぁ〜…渡っていいの、これ?って感じだったけど、自己責任で一人ずつ、 残っている方のワイヤーに掴まりながら恐る恐る渡る。この吊り橋、完全に落ちてしまっ たら架け直しってするのかな〜と、将来の北鎌や硫黄尾根へのアプローチを心配した。 橋を渡ってしばらく水俣川沿いに付けられた巻き道を進み、2回ほどザレ場のトラバース を越えた後、松野さんが先陣を切って踏み跡脇の藪に突入し、1時間弱の藪漕ぎで尾根 に上がる。 尾根上には踏み跡があり、1700mくらいから雪も見え始め、雪の残る部分では先行者 のトレースを辿るように進んでいく。展望が開けると北鎌尾根の独標と槍ヶ岳が見えて きた。あわよくば小次郎のコルまでと思っていたが、とても至りそうになく、2100m付近 で一日目の行動終了。 (タイム) 6:52 高瀬ダム〜7:57 林道終点〜10:08 竹村新道分岐〜11:32 尾根上〜15:27 テント場 5月3日(日)晴れ 昨夜の作戦会議。入山前の天気予報は明日は雨。1日目に小次郎のコルまで行けてれ ば問題なかったが案外進みが遅い。4日の崩れが行動できる程度か停滞せざるを得な いものか分からないが、とにかく本日の午前中までに硫黄岳に至れなければ撤退という ことで合意する。 朝、外に出るとP3と思われる、案外近いところにヘッドライトの灯りが見えた。先行チーム とは絶望的に差を付けられていると、自分の力のなさを悲観していたが、そんなに嘆く程 でもなかったと安心する。 テント場から下って登り返してP3。P3からは懸垂を2ピッチ。岩が詰まった凹角を下る ので落石に気を遣った。 P6に登り切って休憩。正面に硫黄岳が大きくそびえる。松野さんが、先行チームが登って いるのを確認。視力のあまり良くない自分はよく分からず、景色を見ながら行動食を食べて いると、松野さんが「あ、落ちた!」という声と、きゃぁ!という女性の悲鳴とがほぼ同時に 耳に入る(事故者は男性)。続いてザーーッという雪面を滑るような音が聞こえるが、怖くて その方を見ることができない。(後日遭対委員長に、ちゃんと見届けなくてはダメだとダメ出 しされる) 滑落した人は途中でシュルントか何かにはまって止まったらしく、事故があったのは4人組 のようだ。メンバーが斜面を下りている様子が見えた。多少動揺している自分を自覚し、そ こから慎重に小次郎のコルまで下る。 コルから硫黄岳に登り返していくと事故現場に至る。リーダーらしき人に声をかけると事故 者は膝を骨折したらしい。命にかかわらなくてよかったと思う。携帯が圏外なので、無線機 で呼びかけてみたが応答はなく、上に行きながらまた試してみますということで、山岳会名、 事故者名、緊急対応者の連絡先などを聞いて先へ進む。(この日数回無線機で呼びかけ てみるが結局応答はなく、携帯が通じるところに出たのは最終日だった。) 事故現場は、雪がなくなったあとのザレで、事故者はこのザレで滑って下の雪渓まで滑落 したらしい。確かに足場が取りづらく、緊張しながら越える。そこからは藪混じりの雪稜を登 高し、硫黄岳の山頂に現れたのは壮絶な藪だった。下る先の尾根もよく見渡せないような 藪にすっかり戦意喪失。先行する松野さんの姿も見えなくなり、藪の中を孤独にもがき進む。 何とか藪を抜けた先には硫黄台地が延び、しばし快適な雪稜歩きとなる。 台地末端で藪に突き当たり、ここから「雷鳥ルンゼ」に入るはずだが下り口がよくわからず、 偵察の末に湯俣側の斜面に下りる。藪から雪の斜面に出てバックステップで下って行くと やがて残置支点などのあるルンゼに下り、2ピッチ懸垂する。足場は崩れまくり自分の落と した石が大きな落石を呼び谷に音が響く。 コルへと登りかえしてホッとする。2459mの南峰まで来ると、核心部の赤岳前衛峰群が 一望できた。中山沢のコルが顕著。 南峰の下りで、岩を避ける際に横着したことでバランスを崩し転倒する。頭が斜面の下に 向いてしまい起き上がれず、松野さんにザックのベルトを外してもらう。危ない所でなくて よかった。(危ない場所では横着しないので、気を抜く場所が却って危険かも) 本日、中山沢のコルは無理。見たところこの先の尾根上にほとんど雪がないことから、 雪があってテント設営できそうならそこで行動終了することにする。P1かな、P2かなと、 湯俣側から巻きながら歩き、ぎりぎりテントを張れそうなスペースを見つけ行動終了。 (タイム) 4:44 テント場〜6:36 6峰〜10:39 硫黄岳〜13:20 雷鳥ルンゼ〜15:14 南峰〜16:19 テント場 |