DNAからみた氏族の系譜
はじめに
オックスフォード大学の Bryan Sykes教授が、世界の人類の系統などについて、二冊ばかり本を書いておりまして、それなりに、かなりベストセラーになっているようです。一冊目が、「イブの七人の娘たち "The Seven Daughters of Eve"」で、いわゆるミトコンドリアイブという、ミトコンドリアDNAからもとめた全人類の祖先である女性から、人類がどのように世界に広がっていったのか、を女系で伝わるミトコンドリアDNAの系統に基づいて、とくにヨーロッパ人の祖先となった七系統について扱っているものです。で、次に、「アダムの呪い "Adam's Curse"」というのでは、今度は、男性に伝わるY染色体の系統から、同じように全人類の系譜をもとめ、ということをしているのですが、こっちはミトコンドリアDNAの場合ほどうまくはいかず、逆にこのうまくいかない理由として、実は男はいま大変な危機で、もうすぐ人類から男が消えるぞ、みたいなちょっと怖い話に持っていっています。
でもって、Sykes教授の二冊では、一応、ヨーロッパ人の系統はわかるんですが、それ以外については、なかなかわからないなぁ、と思っていたら、
http://www.oxfordancestors.com/
というページに、そのあたりの詳細もありました。詳細はこのページにお願いするとして、ざくっと、系統を表にまとめてみました。
ミトコンドリアDNAからみた氏族の系譜
女系でつながる系譜である。
#左は、ヨーロッパ系の系統樹で、イブと七人の娘たちに対応、中は、全世界の系統樹。
右は全世界へどのように分岐していったかを表す図。
- Neanderthal ネアンデルタール人の祖先(現生人類とは60万年前に分離)
- Eve ミトコンドリアイブ。およそ15万年前
- Layla 南アフリカ系(Lをとったら、Ayla の祖先というわけではない)
- Latifa 南アフリカ系
- Lungile 南アフリカ系
- * 南アフリカ系と中部、北部アフリカ系の祖先
- Lila 西アフリカ系
- *
- Limber 西アフリカ系
- Lubaya 西アフリカ系
- * 出アフリカ系
- Lingaire 東アフリカ系
- Lara 非アフリカ系の祖先(アフリカを出たのはこの系統の子孫のみ)
- Lalamika 西アフリカ系
- Lamia 西アフリカ系
- Latasha 西アフリカ系
- * 南回りのアジア、南アジア、オセアニア系
- Makeda アラビア半島
- Malaxshmi 南アジア(含アラビア半島)オーストラリア大陸系
- Gaia 東アジア系(中国東北部)
- Emiko 東アジア系(中国華中)
- Sachi 北東アジア(日本)アメリカ大陸系
- Chie 北東アジア(日本)アメリカ大陸系
- * 北回りのアジア系、およびヨーロッパ系の祖先
- Nene 東南アジア系(中国江南)
- Yumi 東アジア系(朝鮮半島、日本)
- Ai 北東アジア(日本)アメリカ大陸系
- Xenia ヨーロッパ系(2万5千年前)、アメリカ大陸系(大西洋横断か?)
- Naomi 中近東、中央アジア系
- * アジア系、ヨーロッパ系の祖先
- Ina 東アジア系、北アメリカ大陸
- Fufei 東アジア系(中国江南)
- * ヨーロッパ系(後期旧石器時代ヨーロッパ系)
- Helena 西ヨーロッパ系 ヨーロッパでもっとも栄えた氏族(2万年前)
- Velda 西ヨーロッパ系、とくにスペイン(1万7千年前)
- * 中近東の農耕民族の祖先
- Jasmine 中近東系、東部ヨーロッパ系(1万年前)
- Tara 南ヨーロッパ系(1万7千年)
- * インド・ヨーロッパ語との関係ありか?
- Katrine ヨーロッパアルプス山岳民(1万5千年前)
- Ursula 元祖ヨーロッパ系クロマニョン人(4万5千年前)
- Una 北東ヨーロッパ系
- Uta 中央アジア系
- Ulrike 中央アジア系、北東ヨーロッパ系(1万8千年前)
- Uma 中近東系
- Ulla 北アフリカ東部、アラビア半島系
- Ulaana インド北部系
概略
上の樹形図をもう少しわかりやすく書いてみよう。
- アフリカ系
- 上の樹形図をみると、まず、祖先である Eve からおおむね、南アフリカ系と中部、西部アフリカ系などにわかれていることがわかる。南アフリカ系は、Layla の系統がおそらく、コイサン系(ブッシュマンなど)の祖先であろう。例外はあろうが、アフリカ系は、ほぼ閉じており、その意味では、Lila の系統などがいわゆるバンツー系に属するように思えるが、農耕民族といえども、特に、中近東の初期農耕民との関係はなさそうな感じだ。
- 非アフリカ系
- 非アフリカ系は、Lara に始まる。もちろん、Lamia,Lalamika, Latasha などアフリカ系との関係も深いので、Lara はアフリカ起源であろう。この系統から大きく、南回り系と、北回り系が生まれる。
- 出アフリカ南回り系
- 南回り系は、インド洋沿岸部を通って、最終的には、オーストラリア大陸に至る。おそらく、アジアにおける非常に肌の色が黒い、南インド系や、オーストラリアのアボリジンなどの系統、及び、一部はメラネシアなどの系統とつながると思われる。
ただし、一部(Sachi,Chieの系統)は、下の出アフリカ北回り系と合流し、東アジア、アメリカ大陸へといたる。
- 出アフリカ北回り系
- 北回り系は、アジア、ヨーロッパ系のかなりをしめる。ヨーロッパ系はほぼこの系統とみてよい。日本人の祖先は、上記南回り系のSachi,Chie などの南方系と、Yumi,Ai の系統の北方系が混ざる。そして、どちらも、アメリカ大陸と深い関係がある。
この中で不思議な立場なのが、Xenia である。ヨーロッパとアメリカ大陸に子孫が住むということは、これが、歴史時代のものではないとするならば、Xenia の子孫が、ヨーロッパから直接大西洋航路で、アメリカ大陸にわたったということになるかもしれない。この系統は、まだ、アジア経由での経路上ではあまり発見されていない様子だ。
- アジア、ヨーロッパ系
- 一部、Ina の系統がアメリカ大陸にわたっているが、これは、アメリカ大陸にわたった比較的遅い部族のものであろう。それ以外は、おおむね中国とヨーロッパの系統になる。どうやら、これが、中近東農耕民族の起源であり、また、インド・ヨーロッパ語族とも関係のある系統らしい。インド・ヨーロッパ語族と深い関係にありそうなのは、U のつく系統である。ただし、Ursula は起源が古く、元祖クロマニョン人と考えられる。
補足
なお、Sachi,Chie,Emiko,Nene,Yumi,Ai,Ina などは、「イブの七人の娘たち」が日本で発売される段階で、日本の出版社や翻訳者と、Sykes 氏との交流の中で、日本人の名前としてつけたもので、どれも日本人と関わりが深い系統なので、そのようになったとされている。重要なのは、これらの名前の頭文字で、アフリカ系はすべてLで始まり、それ以外については、同じ頭文字で始まるものは、基本的に同じ系統である。
Y染色体からみた氏族の系譜
#左は男性の系統樹、右は男性の系統樹を世界地図に当てはめたもの
男性の系統でつながる系譜である。
- Neanderthals
- Adam
- Amadlozi 南アフリカ系
- *
- Baatsi 中央アフリカ系
- *
- *
- Maui 中央アジア、インド、太平洋、北アメリカ大陸系
- *
- *
- Thang-la 東南アジア、日本系
- Eshu 西アフリカ系
- *
- Himalaya ヒマラヤ、チベット系
- Gilgamesh 東ヨーロッパ系
- Re アナトリア、南ヨーロッパ系
- Wodan 中央ヨーロッパバルト海沿岸系、中央アジア系
- *
- Mandala パプア・ニューギニア系
- Yi 東南アジア、インドネシア系
- Lhotse インド系
- Nentsi バルト海、北海系、シベリア系
- *
- Quetzalcoatl カナダ、グリーンランド系
- Oisin 西ヨーロッパ、スカンジナビア系、中央アジア系
概略
ミトコンドリアDNAの系統に比べると、かなり単純である。しかも、歴史的にみて、Y染色体系では、5万年か6万年程度の古さしか持っていない。にも関わらず、やはり、アフリカ系がもっとも古い系譜をもつ。
- アフリカ系
- アフリカ系は3系統であるが、おおむね、南アフリカのコイサン系などの系譜と、中央アフリカ系、そしてバンツー系などに対応する西アフリカ方面とがある。
- 出アフリカ系
- Maui,Eshu,Tang-laの系統がそれに属し、Eshu は西アフリカへということであるから、これは、バンツー系が、若干、非アフリカ系と関係があったことを表しているのだろう。
- 南方系
- Maui は、非常に広い分布をもつが、南アジア、東アジア、オセアニア、アメリカ大陸とくるから、基本的には、海洋民族であろう。Thang-la は日本人の男性の祖先らしい。
- 北方系
- 北方系といっても、Mandala,Yi の系統は、南方系とともに行動している。しかし、それ以外は、ヨーロッパと、アジア、アメリカということになる。どれもかなり広い分布なので、征服王のようなものがいたのかもしれない。
Last modified: Thu Sep 23 22:33:57 JST 2004