* * * 本業がらみのエピソード * * *

光 の 邦


本業がらみで、、お気に入りの噺をひとつふたつ!

私の本業は分光計測といわれる光学計測で、
そのなかでもNIR(近赤外線)分光分析と言われる分野が専門です。
これでもCPUがV30や286、OSも MS-DOS のころからやっているので、
コノ分野の専門家としてはそこそこ長いキャリアを持っているほうだと思います。

その長い間に(無駄に長い!?)見聞したチョット面白い話をご紹介します!
(仕事じゃないから主観全開で書いてますので、、念のため!!!)




 #1 ”スポックも使ってる!?NIR 

 面白エピソードの前にNIRについて簡単に説明しなければなりません。

 NIRとは、Nire Infra Red の略で近赤外光線のことですが、業界では近赤外分光分析ことをさします
 NIRは、近赤外波長域の光と物質分子の干渉作用(吸光現象)に基づいて物質の組成(定性と定量)を調べる技術です。
 簡単に言うと、”光(近赤外光)”を”対象”に照射して、対象から反射(または透過)してきた光の変化を調べることで
 ”対象”の成分組成に関する情報が得られるのです。

 この計測手法は光を使うので計測対象と直接接触する必要がありません。
 宇宙探査などで遠く離れた惑星上の大気の組成を計測できるのも分光計測のお陰です。

 光による計測は応答時間が極めて速いのでとても迅速な計測が可能です
 また、基本的には計測対象に物理的な影響を与えないので、計測対象にダメージを残しません。

 これらをNIRの3大利点として、牛丼の吉野家よろしく速い!触れない!壊さない!の三拍子と言ったりします!

 有名なSFドラマのスタートレックで、科学主任のスポックがよく使用している
 非接触式の探査装置:トライコーダーはおそらく携帯型のNIR装置だと言われています。

 ”ピコピコッ”と装置を数秒かざしただけで、対象の組成などが判ってしまう様子は
 NIRだと考えると納得できます



 #2 ”キャングも使ってる!?NIR 

 さて前章で、スタートレックのスポックがNIRを使っている!?と書きましたが、、
 それはSFドラマ世界の話ですから、本章では現実世界の珍例を紹介します

 これは、某東南アジアで、ドラッグを生産している方たちのお話、、

 いわゆるギャングといわれる人たちですが、、
、  彼らは、品質管理(QC)を非常に熱心にやっているそうなのです
 (どこぞの食品会社などよりシビアな品質管理をしているらしい)

 それは、、ドラッグ業界でもいろいろ厳しい競争があるようで、、
 粗悪品を作っているとマーケットでの信用がなくなり、、安定した商売ができなくなるのだそうです
 違法な活動であるが故に、高いリスクを踏んでまで行うビジネスでは、、
 薄利多売よりも、高級品を高値で裁くほうが効率がよく安全なのだそうです

 そこで、、彼らは自分たちの作るドラッグの品質向上に注力するのですが、、
 彼らの商売では品質検査に時間を掛けるわけには行きません → 通常、アルカロイド類の分析には数日を要します
 また、いくら品質管理のためとはいえ高価な商品を分析の為に消費してしまうわけにもいきません、、

 そこで、、ギャングの皆さんが考え付いたのがNIRの利用なのです!
 計測は数秒でOK!、、サンプルの損失もゼロ!、、繰り返し何度でも確認できる!
 NIRはまさにギャングのみなさんにとっては理想の品質検査手段だったのです!

 一般的にNIRでは、計測機材が高額であることが導入のネックになるのですが、、
 彼らにとってはNIR装置の値段(1千万〜2千万)など安い物のようです、、

 だって、、一旦、品質の悪い粗悪品を出荷してしまい、、トラブルが起こったら、、
 担当者は、、海の底に沈んじゃったりするわけですから、、



 #3 ”刑事さんも使う?NIR 

 こんどは前章と逆の立場での話です
 ドラッグを取り締まる側もNIRを利用する(?)お話を紹介します

 よく刑事ドラマで、刑事”白い粉”を発見して、それをペロっと舐めてみて、、
 ”ヘロインだ!、逮捕しろ!”などと言うシーンがあるのですが、、
 これは、、現実的には有り得ないことのようです

 というのも、通常は容疑者を逮捕するには裁判所の交付した逮捕状があるか、、
 あるいは現行犯である場合の緊急逮捕か、、のいずれかになるのですが、、

 ドラッグの場合、、”白い粉”が発見されても、、、
 それが違法な薬物であることが確認できないと容疑事態が成立しないのだそうです

 ”刑事の味覚”は法的な証拠になるはずもなく、、通常は別件か、任意同行で引っ張り、、
 その間に所持していた白い粉の分析を行って、麻薬の不法所持容疑が成立するのだそうです
 つまり、、本来は”麻薬不法所持の現行犯逮捕”は有り得ないのです。
 (↑最近は、指向性の高い反応試薬などを使って容疑を成立させているケースもある)

 そこで、、お回りさんもハイテクの導入を検討しているのだそうです!

 NIRにより、その場で”白い粉”の正体が判明すれば、、!
 いままでの面倒な手順を省略して、その場で”現行犯逮捕”ができてしまうのです!

 身近な事例では、、”飲酒運転”の検挙がこれに似ています
 酒を飲んでいるか否かは、警察官の感覚で判断できますが、、
 検挙するのは、”フウセン(反応管)”とかアルコール検知器などの客観結果が必要です

 NIRにとって、アルカロイドの類であるドラッグの正体を判別することは容易なことです
 後は、、法的な整備>NIRの観測結果を法的証拠として承認する、、だけです

 近い将来、、おまわりさんの装備に小型のNIR装置が加わる日が来るかもしれません!



 #4 ”アーミーも使ってる!?NIR 

 世の中でハイテク機材の導入を一番真剣にやっているのは軍隊です
 そして、必要は発明の母であるがごとく、訳あり事情を有する国ほど真剣にやっています

 これは、、中東でもめている裕福な某国の軍隊でのお話!
、  毒ガス攻撃を受ける可能性を持つ彼らは、当然、これに備える装備を開発しています
 マスクや防護服、解毒剤や中和剤を準備する傍ら、毒ガス攻撃を検知するシステムの導入に懸命です

 さて、ここで問題なのですが、、通常のガス検知システムは、、、
 ガスによる酸化皮膜形成などを電気抵抗やインピーダンス変化として読み取る電子タイプと
 (↑家庭用のガス漏れ感知器の高等なモノ)

 ガスと数種類の科学薬品との反応をカーカーとする化学反応タイプと
 (↑セーフTAGや、反応管センサー、など)
 、が主流なのですが、、いかせん、、これらは全て接触検知なのです!!!

 即効性の毒ガスであった場合、、接触検知では間に合わないわけで、、
 神経ガスなどであればアラームが出た時点で既に人間は死んでしまいます!

 そこで、、NIRの出番になります!

 NIRであれば観測対象と物理接触する必要はありませんから、、
 遠隔の対象を検知することが可能です!
 つまり、、前進する前に事前に前方をスキャン(!)して有毒ガスの存在を確認できるのです
 木星や土星の大気が計測できてしまうのですから、、
 数キロ先の大気が”通常と異なる”ことを検知することも可能なわけです!

 結果はその場でリアルタイムに確認できるし!、、当然、繰り返し確認することもOK
 使用方法としては、監視モニターとして警戒運用するのが最も具合がいいと思います
 某国の陸軍では、NIRを利用した警戒システムの開発をかなり前からやっているそうです

 衛星に積んで作戦エリアを常時モニターするのが最も確実と思うけれど、、
 そんなことが可能なのはアメリカだけだろうし、、

 最近は、ほとんどの軍用のドローンはNIRセンサーを搭載しているようです



 #5 ”バリアーも使ってる!?NIR 

 SFには、よく”バリアー”なるものが登場します
 敵のビーム兵器から防御してくれる魔法のシールドのようなものです!?

 ビーム兵器がだんだん現実化してきたのに対して、”バリアー”はまだ空想の域にあるようですが
 本章では、、分光計測にバリアーについて考えてみます

 通常、ビーム兵器といえば、高出力のレーザー光線が最も現実的です
 すでに、医療用のレーザーメスや、鉄板を切削する工業用のレーザーカッターが実用化されていて
 兵器としての開発もかなりのところまで進んでいるようです

 さて、、これら高出力のレーザーで攻撃された場合、、、
 文字どうり光の速度(30万キロ/秒)で到達する熱線を回避することはほぼ不可能ですが、、
 実は理屈上では対抗できる可能性がないわけでもありません(あくまでも理屈上、、)

 レーザー光線は、人工的な励起発振による光の増幅ですから、その波長と位相がそろっています
 このこと(単一波長&同一位相)によって、エネルギーを保ったまま効率よく空間を伝播できるのですが、、
 逆にそのことを利用して、ソレをブロックする手段が構築可能になるのです!

 つまり、、如何に高出力の熱線でも単一波長の波動であるならば、、
 事前にその波長がわかってしまえば、これを”干渉相殺する”、あるいは、
 反射するための対策を講じることは理論的には可能なはずなのです

 この理屈(屁理屈?)を使って強引に”バリアー”を考えてみました!

 防護壁の表層に荷電粒子の皮膜層を形成し、この荷電粒子層を相手のレーザーの波長数と
 干渉する周波数で振動させて相手のレーザー光を干渉相殺する!

 、、ということが可能かもしれません
   実際に、、微細粒子を任意の振動数で振動(駆動)させて、
 その振動数と合致する波長の光にだけに干渉する分光技術が登場しているのです

 また、基本的にビーム兵器の出力はCWではなく時間圧縮型の極短パルス光のはずですから、
 皮膜層の高速振動によってビームのエネルギー密度を時間拡散させることも期待できます!

 というわけで、、相手のレーザーの周波数=波長(できればパルス長も!)が判れば、、
 なんとか対抗手段をとることが可能になるかもしれません!

 十数年前のスパイ小説では、、敵のレーザー兵器の発振周波数(波長)を
 スパイが必死になって探るというようなお話しがありました
 が、、現在では、、可変調レーザーなる物が登場しており、、
 さらに運用しながら発振周波数を連続的に変化させる技術も登場してきました
 これでは、、スパイが事前に入手してきた相手のレーザー周波数はもう当てになりません!

 こうなったらもう、、相手の発射したレーザー光を直接調べるしかありません>分光計測です!
 しかし(!)、、分光計測できるということは、、相手のレーザー光が自分に到達している可能性が高いわけですから、
 致命的なダメージを受ける前に相手のレーザーの周波数を読み取り、即座に対抗措置をとらなければなりません!
 分光計測が速いか、、自分が燃え尽きるのが速いか、、!!!
 これはもう刹那の攻防です!

 少々リアルから乖離してしまいましたが、、
 実際に、軍需で使用されるレーザー機器の発振周波数極秘事項とのことです

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