金曜日の割にはお客さん少なかったなぁと、新橋駅までの重い足取り。そろそろ電車がやって来ようかという時に一本の着信。知らない電話番号。
「はい」
「もしもし下川さんですか?」
「はい」
「わたくし、野村の弟です。兄のことで今少しお話してよろしいでしょうか。」
だっ誰?お客様の肉親の方?不幸でもあったか?そういえばお店の損保のお兄ちゃんが野村だったっけ。電車がガーッとホームに入って来て。
「あっ、はいっ!」
「兄がゲンバで皆さんに大変ご迷惑をお掛けしているそうで。」
ゲンバ?って現場?
「あのう電話お間違いになられてると思います、確かにわたし下川と申しますが。」
「えっ!シティガードの下川さんではありませんか?すみません失礼しました。」
あたふたと電車に乗り込んで、電話も切れて。それでよくよく考えてみると、名指しで掛けて来て間違い電話ってなんだろう?悪質な詐欺電話か?着信は非通知ではないし、話しぶりも落ち着いた50代か60代を思わせる渋い声。それにしても名前と電話番号を誰か知らない他人に知られているという不安。このまま放っておけばいいのか。迷いに迷って、どうせ知られているならいっそ聞いてみようと、思い切ってショートメールを打ちました。(以下のやりとり、原文のまま。名前は仮名)
「つい先ほどお電話頂いた下川です。人間違いだと思いますが、お尋ねになられた名前は合っておりました。どのようにされて小生の電話番号を知られたのでしょうか。差し支えなければ教えて下さい。よろしくお願いします。」
ほどなく返信が来て、
「先ほどは大変申し訳ありません。私、丸山と申します。兄の上司に電話をせねばならなかったのですが、兄から送られてきた番号が間違いでした。本来かける番号はxxxxで末尾も同じです。お名前も同じで驚いております。本当に失礼しました。」
たった一桁の番号違い!さらに名前まで一緒!そんなことあり得るだろうか?それでも気を取り直して、
「そうですか、了解致しました。安心致しました。いろいろとご心配ですね、うまく解決されることを祈っています。失礼します。」
それからしばらく時間が経って更に返信が来て、
「本来の下川様と電話しており返信が遅れました事、重ねてお詫び申し上げます。ご迷惑おかけしてご心配まで頂きありがとうございます。世の中にこんな偶然があるとは正直驚きました。失礼します。」
シティガード、調べてみると地方の警備会社が出てきました、工事現場にも派遣しているようです。
そうか、不肖の兄が不始末を弟に仲裁を頼んだという話だろうか。いま思えば冷静な話しぶりも声のトーンも成熟した大人の男を思い起こさせました。首にならんばかりの状況なのに謝罪に行く度胸もなく、出来た弟に泣きついたに違いありません。頼もしい!お会いしてみたいーっ!だんだんと妄想が膨らんできます。「世の中にこんな偶然があるとは驚きました」ついでにどうでしょうか、なーんてね。成り行きを相方さんに話したら、「ひと安心だね、相手はカッコいい貴方好みのお爺さんだったりして!」だって。シツレイね!でもそうだったらますますお逢いしてみたい。。
それにしてもホントにこんな偶然ありますかね。いまだに一抹の不安を拭いきれません。なにかの時の為にしばらくの間この電話番号は住所録に登録しておきましょう。逢って見たいようなだけど犯罪への不安な気持ちもない交ぜになって、何とも言えない妙な心境です。
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