n-ro91 「あなたは何を盗まれたのですか。」「2万円くらい入った財布です。」

解説
「あなたは何を盗まれたのですか」を Kion vi estis s^telita? とするのは誤りです。estis s^telita という構文は,例えば mia monujo estis s^telita (わたしの財布が盗まれました)のように,盗まれたものが主語で表されるのですから,vi estis s^telita とすると,「あなた(という人間)が盗まれた(!)」という意味になってしまいますし,Kion が文法的に役割のない誤った形の語になってしまいます。
Kion estas s^telita de vi? は Kion estas s^telita ...? を Kio estis s^telita ...(なにが盗まれましたか) とすれば文法上の問題はなくなりますが,受け身(受動態)の行為者が de 〜で表されるので,estis s^telita de vi とすると,「あなたによって盗まれた」という意味に取られてしまいます。そのようなことを避けるために,「あなたから」を de vi としないで disde vi という言い方を使って,Kio estis s^telita disde vi? とすれば,誤りのない文になります。「盗まれた」という過去の動作は estis s^telita という形で表します。「盗まれている(あったものがなくなっている)」という,現在の状態を表すのは estas s^telita ですが,ここでは「盗まれた」という動作を表す estis s^telita を使いましょう。
受け身の構文にしないで,Kion oni s^telis de vi? という言い方もできます。エスペラントでは受け身の代わりに oni を使っていうことがよくあります。この場合は de vi が「あなたから」という意味にしか取れないので,disde vi とする必要はありません。

「2万円くらい入った財布です」は Kio estis s^telita disde vi? と尋ねられたときは, Monujo kun c^irkau~ dudek mil enoj でよいのですが,Kion oni s^telis de vi? と尋ねられたときは,質問の Kion に合わせて Monujon kun c^irkau~ dudek enoj と答えましょう。これは Oni s^telis monujon kun ... の Oni s^telis を省略した形です。
monujo entenanta c^irkau~ ..., monujo enhavanta c^irkau~ ... という言い方もありますが,kun を使っていうほうが簡潔な表現になります。

「2万」は du dekmi でなく,dudek mil と書きます。「円」は jenoj も使われますが,いまは enoj のほうが一般的です。
la monujo と冠詞をつけると,聞き手が知っている財布を指すことになるので,ここでは無冠詞でいいましょう。

訳例
"Kion oni s^telis de vi?" "Monujon kun c^irkau~ dudek mil enoj."


n-ro92 マサオは自分のアイディアを盗まれたといって憤慨しています。

解説
「自分のアイディアを盗まれたといって」は pro tio(,) ke iu s^telis lian ideon または pro tio(,) ke lia ideo estis s^telita。pro は kontrau~, pri とすることもできますし,iu は oni としてもここでは意味はほとんど同じです。「いって」は plendante や asertante を使っていうこともできますが,dirinte を使うと,言い終わってからという意味になって,話しているときは憤慨していなかったことになるので不自然です。

「盗む」は,この課題文のように対象がアイディアなどの場合には,plagiati を使っていうこともできます。
lia ideo estis s^telita の lia を sia とするのは誤りです。再帰代名詞の si や,その所有格 sia が付いた語は主語にならない,と覚えておきましょう。
ただし,使われる頻度は多くありませんが,普通の形容詞の sia という語もあって,その sia で修飾される語が主語として使われることはあります。

参考:
En c^iu kranio estas sia opinio.
それぞれの頭にはその人の考えがある。
(日本語の「十人十色」と同じような意味のことわざ。kranio は kapo と同じ意味で使われています。kapo でなく kranio を使ったのは,文末の opinio と韻を踏むためです。)

pro oni s^telis lian ideon や kontrau~ lia ideo estis s^telita のようにいうことはできません。pro も kontrau~ も前置詞なので,名詞か代名詞の前にしか置くことができず,oni s^telis lian ideon や lia ideo estis s^telita という文(propozicio)の前には置くことはできません。

「憤慨しています」は indignas, ege koleras, estas kolera がよせられましたが,いずれもここで使うことができます。「〜のことで憤慨しています」というのは,これらの語のあとに pro(pri, kontrau~) tio ke を付けて,その憤慨の原因を述べます。

訳例
Masao indignas pro tio ke iu s^teis lian ideon.


n-ro93 Emma は何でもないことにすぐ腹を立てます。

解説
「何でもないこと」は,ここでは「つまらないこと」と同義ですが,triviala を使うのは不適当です。この語は 「ありきたりの,卑俗な」というような意味で,triviala spritaj^o(つまらないしゃれ)などというふうに使われます。ここでは「些細なこと」という意味の bagatelo を使っていうのがよいでしょう。bagatelaj^o を使っても通じますが,bagatelo は malgravaj^o という意味ですから,-aj^o をつける必要はありません。negrava afero や tute ne grava afero も使えますが,motivo sensignifa は適切な表現ではありません。訳例の担当者訳では bagatelo に la plej malgranda を付けて,「何でもないこと」を表しました。

「すぐ」という日本語からは tuj が頭に浮かびますね。それでもよいのですが,ここでは facile が使えます。
「腹を立てます」は kolerig^as, ekkoleras を使っていうことができます。「すぐ腹をたてます」というのは,「腹を立てやすい」という意味ですから, kolerema を使ってもよいでしょう。

訳例
Emma facile kolerig^as pri la plej malgranda bagatelo.


n-ro94 そのときマサオは Petro のすぐそばに座っていました。

解説
「そのとき」は tiam, tiutempe を使っていえばよいでしょう。tiam, tiutempe の位置は,文頭,Masao の次など,かなり自由ですが,下に挙げる tuj apud Petro, tuj apude de Petro などは,ひとつの固まりになっていて,これらの語の間に入り込むことはありません。

「Petro のすぐそばに」は tuj apud Petro または tuj apude de Petro のようにいうことができます。tuj の代わりに tute を使うこともできるので,tute apud de Petro, tute apude de Petro のようにいってもよいでしょう。

「座っていました」は sidis です。sidig^is は「座った」という動作を表す語です。ここでは「座っていた」という状態を表す sidis を使いましょう。
estis sidinta は誤りです。sidi は線動詞で,線動詞は -ata, -anta の形では使われることがあっても,-ita, -inta の形では使われないと覚えておいてよいでしょう。

訳例
Tiam Masao sidis tuj apud Petro.


n-ro95 いま Karlo のすぐ前に座った人をご存知ですか。

解説
「いま」は, ここでは「たったいま(momenton antau~ nun, tuj antau~e)」という意味ですから,j^us を使います。日本語の「いま」には「いまこの瞬間,現在」などのほかに「いまといえるくらい近い過去」という意味もありますが,エスペラントでは前者を nun, 後者を j^us で表すので,ここで nun を使うのはよくありません。j^us nun は英語の just now からの類推でしょうが,エスペラントではこのようにはいいません。
j^us は たいてい -is形の動詞,または -ita, -inta形の分詞形容詞の直前に置かれます。

「Karlo のすぐ前に」は tuj antau~ Karlo。この tuj がないと,「Karlo より前方の席に」という意味になって,Karlo と離れている場合も含むので,「すぐ前に」という感じを伝えることができません。
なお,「Karlo のすぐ前に」というのは,劇場などの座席をイメージさせる表現ですが,会議室の机やレストランのテーブルなどのように向かい合って座るは場合は,kontrau~ Karlo(Karlo の前に), または g^uste kontrau~ Karlo(Karlo の真正面に)などのようにいいます。

「座った人を」は,ここでは「いま」がついているので,j^us を動詞の直前に入れて,la homon kiu j^us sidig^is または la personon kiu j^us sidig^is や tiun kiu j^us sidig^is のようにいえばよいでしょう。kiu の前にコンマを入れて書く人もあります。tiun(,) kiu を使うとき,tiun を省略するのはよくありません。
la homon j^us sidig^intan ということもできますが,会話では la homon kiu j^us sidig^is を使うほうが聞き取りやすいでしょう。ただし,-ata, -ita は-anta, -inta と違ってよく使われます。
sidis は「座っていた(いまはもう座っていない)」という意味ですから,ここで使うのは誤りです。

「ご存知ですか」は,ここでは c^u vi konas を使います。「人を知っている」というときは scii ではなく koni を使っていいます。

比較:
C^u vi konas tiun viron?(あの男の人を知っていますか。)
C^u vi scias la nomon de tiu viro?(あの男の人の名前を知っていますか。)

訳例
C^u vi konas la personon kiu j^us sidig^is tuj antau~ Karlo?


n-ro96 いま聞いた言葉をおぼえていますか。

解説
「いま聞いた言葉」は la vortojn(,) kiujn vi j^us au~dis または la j^us au~ditajn vortojn。
-inta を使った表現,例えば, la j^us sidig^inta viro より la viro kiu j^us sidig^is というほうが一般的でしょうが,逆に -ita を含む表現はよく使われるので,la viro kiu j^us estis vundita より la j^us vundita viro のほうが一般的でしょう。これは -anta, -inta が重い感じを与えるのに対して -ata, -ita はそうでないからです。

「言葉」は vortoj と複数形でいうのが普通です。1語の言葉なら vorto ですが,何かをいうとき,たいていは複数の語を使っていいますね。
ただし,li rompis sian vorton のような文で使われる vorto は,ひとつの単語ではなく,複数の語からなるひとつ,またはふたつ以上の文を指して使われます。この vorto は「約束」のことで,この文は「彼は約束を破った」という意味です。
vortoj は,ここでは kiujn vi j^us au~dis や j^us au~dita で限定されているので,冠詞を付けていいます。
kiujn のところに kion を使うのは誤りです。kio が修飾する語は io, tio, c^io, nenio だけです。

参考:
Mi komprenis tion kion li volis komuniki al mi, kvankam ne c^iujn vortojn kiujn li diris.(わたしは彼が言った言葉が全部わかったわけではありませんが,彼がわたしに伝えたかったことは分かりました。)

「おぼえていますか」は c^u vi memoras...?

訳例
C^u vi memoras la vortojn, kiujn vi j^us au~dis?


n-ro97 あの出来事の記憶は未だに生々しい。

解説
「あの出来事」は la okazaj^o(okazintaj^o),la evento など。la は tiu ということもできます。その「出来事」が事故を指している場合は akcidento を使っていうことができます。afero は「事件」を含むあらゆることを指していうことができるので,もちろんここでも使うことができます。

「〜の記憶」というときの「の」には,「マサオの記憶によれば」(lau~ la memoro de Masao)というときなどのように「〜(ある人)の」という意味と,「事故についての記憶」(la memoro pri la akcidento)というときなどの「〜(ある出来事など)についての」というふたつの意味があり,前者が la memoro de iu,後者が la memoro pri io の形でであることに注意してください。la memoro de 〜 の「〜」には人が入るので,la memoro de la okazaj^o のようにはいわないのが普通です。mia memoro pri la okazaj^o(その出来事についてのわたしの記憶)のように,記憶している人と記憶の対象をいっしょに表すこともできます。
la eventa memoro というのはよくありません。

「未だに生々しい」は la memoro を主語にして,estas ankorau~ fres^a のようにいってもよいし,「人」を主語にして havas fres^an memoron のようにいったり,klare memoras のようにいうこともできます。kvazau~ g^i okazus hodiau~ も可能な表現です。過去の出来事であることは文脈で分かりますが,okazus は estus okazinta(起きたかのように)の代用ですから,過去であることを明示する hierau~ を使ったほうがよいでしょう。

訳例
Mia memoro pri la okazaj^o estas ankorau~ fres^a.
Ankorau~ fres^a estas la memoro pri la okazaj^o.
Mi ankorau~ memoras tiun eventon, kvazau~ g^i okazus hierau~.


n-ro98 そのことについてのハルオの記憶はあいまいです。

解説
「そのことについてのハルオの記憶」は la memoro de Haruo pri la afero。afero のところには tio, okazaj^o なども使うことができます。
このように動詞からできた名詞が示す行為を行う者は,「de+行為者」の形で,その名詞のすぐ後ろに置き,その後に動詞の目的語などを「前置詞+名詞(代名詞)」の形で付けるのが普通ですが,peti iun pri io(ある人にあることについて頼む)のような形を取る動詞の名詞形の場合は,la peto de Karlo al Elena pri la afero(そのことについて Karlo が Elena へ頼んだこと)のように,「de+行為者」のあとに「前置詞+名詞(代名詞)」が二つ置かれることもあります。(理論的には三つでも四つでも可能ですが,分かりにくい表現は避けるべきでしょう。)
参考:
la kontribuo de Japanio al la rekonstruo de tiu lando per la teknika helpo(その国の復興に向けて技術援助によって行う日本の貢献)
la efiko de c^i tiu medikamento kontrau~ la virusoj(そのウイルスに対するこの薬の効果)
la amo de mia patro al Emi(エミに対するわたしの父の愛情)
(mia patra amo al Emi は「エミに対するわたしの父性愛」)

「あいまいです」は estas nebula。nebula の代わりに necerta, malklara, neklara などを使っていうこともできます。estas ne certa, estas ne klara のように書くのは誤りとはいえませんが,ne estas certa, ne estas klara のように書くほうが普通です。estas ne A の形は,estas ne A, sed B のように,「A ではなく B なのです」のようにいうときに使われると覚えておいてもよいでしょう。ただし,ne estas ... は ne にアクセントを置いて否定文であることをはっきりさせますが,necerta, neklara は ne- にアクセントが置かれないため,会話でつい estas といってしまった後で否定を強調するために,ne certa, ne klara の形で ne にアクセントを置いて発音することはあるでしょう。

この課題文は Haruo nebule memoras pri la afero のようにいうこともできます。

訳例
La memoro de Haruo pri la afero estas nebula.


n-ro99 わたしたちの会の改革に関するAndreoの提案は否決されました。

解説
「わたしたちの会の改革に関するAndreoの提案」は la propono de Andreo pri la reformo de nia societo (asocio, grupo, rondo)という形の訳がいちばん多く寄せられました。la propono de Andreo pri ... は,この形でよいのですが,「わたしたちの会の改革」は,いくつかの訳が考えられます。
(1)la reformo de nia societo (asocio, grupo, rondo)
(2)reformo en nia societo (asocio, grupo, rondo)
(3)la reformo en nia societo (asocio, grupo, rondo)
(4)reformoj en nia societo (asocio, grupo, rondo)
(5)la reformoj en nia societo (asocio, grupo, rondo)

(1)はいくつかの部分的改革があっても,それらをまとめてひとつの改革として捉える場合,特に会そのものの改革
(2)は会の内部機構の不特定の一箇所の改革
(3)は会の内部機構の特定の一箇所の改革
(4)は会の内部機構の不特定の何箇所かの改革
(5)は会の内部機構の特定の何箇所かの改革,またはその改革のすべて

reformo は en nia societo (asocio, grupo, rondo)の前では無冠詞でよいのですが,de nia societo (asocio, grupo, rondo)の前に付くときは冠詞を付けて la reformo de nia societo とするほうがよいでしょう。
「わたしたちの会の改革に関するAndreoの提案」は la projekto proponita de Andreo por reformi nian rondon のようにいうこともできます。

「否決されました」は estis malakceptita または oni malakceptis 〜-n のようにいえばよいでしょう。neis は「否定する」という意味で「否決する」という意味ではないので,ここで不適当です。plimulto da membroj malakceptis は la plimulto da membroj malakceptis としましょう。da のところを de にする場合は,la plimulto de la membroj のように membroj にも冠詞を付けていいます。
ここでは「否決された」という行為をいうので,estas malakceptita でなく,estis malakceptita とします。

訳例
La propono de Andreo pri reformoj en nia societo esis malakceptita.
Oni malakceptis la proponon de Andreo pri la reformo de nia societo.


n-ro100 彼が生きているのか死んでいるのか,誰も知りません。

解説
「彼が生きているのか死んでいるのか」の訳としていちばん多かったのは,c^u li vivas au^ ne でした。この表現は「彼が生きているのか,いないのか」という表現で,これでも課題文の意味とほとんど同じですが, 「死んでいるのか」をはっきりと入れるとすれば,c^u li vivas au~ mortis, c^u li estas vivanta au~ mortinta, c^u li estas viva au~ malviva のような表現になるでしょう。日本語では「生きているのか死んでいるのか」と両方とも「いる」という現在形であるのに対して, エスペラントでは vivas au~ mortis, vivanta au~ mortinta のように -as と -is/ -anta と -inta で区別されていることに注意して下さい。 (現在の状態を表す-is についての詳しい説明は,ここをクリックしてください。)

「彼がまだ生きているのか」というように「まだ」を入れても伝える意味の内容は同じなので,c^u li ankorau~ vivas ... と ankorau~ を入れていうこともできます。

c^u のところに se を使うのは誤りです。英語ではこのような文の主節と従属節を if でつなぎますが,エスペラントでは c^u を使います。ke を使うのも誤りです。Neniu scias ke li vivas(彼が生きていることを誰も知らない)という文や,Neniu scias c^u li vivas(彼が生きているかどうか誰も知らない)という文はありますが,Neniu scias ke li vivas au~ neという形はありません。

c^u ... c^u は次のように使われます。

参考:
C^u pro timo, c^u pro honto, li nenion respondis.
おびえているためか,それとも恥じ入っているためか,彼は何も答えませんでした。
C^u pluvos, c^u neg^os, mi ekveturos morgau~.
雨が降ろうが,雪が降ろうが,あした出発します。

「誰も知りません」は neniu scias といえばよいでしょう。Oni ne scias は「誰も知らない」という強調の感じを伝えないので,ここでは neniu scias の形を使っていいましょう。

訳例
Neniu scias c^u li vivas au~ mortis.
Neniu scias c^u li estas vivanta au~ mortinta.