動詞の相(アスペクト)

----
線動詞, 点動詞

アスペクトと g^is

アスペクトと esti -anta(j)

アスペクトと期間を表す前置詞 dum, por

アスペクトと -as

現在の状態を表す -is


動詞の示す動作の様態は, その動詞が表す意味によって, 瞬間的, 継続的, 反復的などに分けることができますが, これを(アスペクト)といいます。
アスペクトの分類やその名前は文法家によって違うので, 瞬間相, 継続相, 反復相のほかに, 起動相, 完了相などのような名前を見ることもあります。

英語では副詞(句)や文脈によってアスペクトによって示されることが多く, 高校英文法ではアスペクトはほとんど取り上げられません。

例えば, He goes to school every day.の goes は習慣的動作を表しており, アスペクトでいえば反復相ということができますが, 動詞 go反復のアスペクトを持っているのではないことは, いうまでもありません。

では, 英文を書くときアスペクトについての知識がまったく不要かといえば, そうではありません。
I slept until noon. とはいえますが, I slept by noon. とはいえませんし, I'll start by noon. とはいえますが, I'll start until noon. とはいえません。
つまり, until といっしょに使える動詞は継続相でなければならないし, by といっしょに使える動詞は瞬間相でなければならないのです。

否定文では by, until とも継続相の動詞, 瞬間相の動詞のどちらににも使うことができるので, I will not start until noon. のようにいうこともできます。ただし by を使ったときと, until を使ったときとでは暗示される意味が違います。


線動詞, 点動詞

エスペラントで正しい文を書くには, アスペクトについての知識が必要ですが,アスペクトをいくつもの種類に分けて, それぞれについて学ぶことは, 作文する上では必要ありません。

そこで, わたしは動詞をアスペクトによって二つに大別し, それぞれを線動詞, 点動詞と名付けました。

線動詞は動作や状態の継続を表す動詞で, 点動詞は動作や状態の始まり, または終りの瞬間を表したり, frapi(hit)のように始まりと終りが同時である瞬間的な動作を表す動詞です。ただし, frapiに継続, 反復を示す接尾辞 -ad を付けた frapadi(keep on hitting)は線動詞になります。

例えば, surmeti c^apon(put a cap on)の surmetidemeti la c^apon(take the cap off)の demeti点動詞で, porti c^apon(wear a cap)の porti線動詞です。

英語と同じように, エスペラントでも動詞の大部分は点動詞, 線動詞を形で見分けることはできないので, それぞれの語について意味の上から判断しなければなりません。

知っておきたいエスペラントの動詞100」(JEI, 1995), 「エスペラント日本語辞典」(JEI, 2006)では, すべての動詞に点動詞, 線動詞の区別が付けられています。
週刊やさしい作文に戻る。
戻る。

アスペクトと g^is

上に述べたように英語では until継続相の動詞(ここでいう線動詞)とともに使われ, by瞬間相の動詞(ここでいう点動詞)とともに使われるという区別がありますが, エスペラントでは until, by の両方の意味を g^is という1語で表します。

Mi studis g^is la deka. (I studied until ten.)
Mi finos mian hejmtaskon g^is la oka. (I'll finish my homework by eight.)

つまり, g^is線動詞とともに使われるときは「〜まで」という意味を表し, 点動詞とともに使われるときは「〜までに」という意味を表すのです。

戻る。

アスペクトと esti -anta(j)

英語の He is playing the guitar. はエスペラントでは Li estas ludanta gitaron. と訳すことができますが, ふつうは Li ludas gitaron. といいます。この Li ludas gitaron. は He plays the guitar. の意味も表すので, どちらの意味を表すかは文脈によりますが, 現在進行形であることを明示したいときには nun(now)を入れて Li nun ludas gitaron. のようにいうこともできます。esti -anta(j)の形を複合時制といいますが, この形は重い感じがするので, なるべく使わないのが普通です。 (-antaj と -j が付くのは主語が複数の場合)。
現在形現在進行形を区別しないのはおかしいように感じられるかもしれませんが, これは何もエスペラント特有のことではなく, ほかの言語でも見られます。進行形を多用するのは英語の特徴のひとつです。

ludas = estas ludanta(j) (am, are, is playing)
ludis = estis ludanta(j) (was, were playing)
ludos= estos ludanta(j) (will be playing)

では, すべての動詞が esti -anta(j) のかわりに -as, -is, -os を使うことができるのかというと, そうではありません。
例えば, Li estis mortanta. (He was dying.) と Li mortis. (He died.) とは意味が違います。それは morti(die) という動詞が点動詞であるからです。estis ludanta(j) が ludis といい換えられるのは, ludi が線動詞であるからです。

戻る。
アスペクトと期間を表す前置詞 dum, por

「5分」を英語では for five minutes といいますが, エスペラントでは for five minutes に当たる表現が dum kvin minutoj と por kvin minutoj の二通りあります。

dum動作, 状態の継続時間を表し, por動作によって生じた結果の継続時間を表します。要約すれば, dum は線動詞とともに, por は点動詞とともに使われるということができます。

比較: Li ekvojag^is por du semajnoj. (He set out on a trip for two weeks.)
----- Li vojag^is dum du semajnoj. (He traveled for two weeks.)

(線動詞, 点動詞について詳しく知りたい方は, 「エスペラント初級・中級の作文」[日本エスペラント学会発行, 980円]の第6章をご参照ください。)
戻る。

アスペクトと -as

-as については「
時制」の中で詳述しますが, ここではアスペクト-as の関係を取り上げます。

-is, -os と違って -as は1回きりの動作を表す点動詞に付くことは, 後述するひとつの場合を除いてはできません。

線動詞 dormi(sleep) と点動詞 ellitig^i(get up) を例にとって比べてみましょう。

dormi が1回きりの動作を表す場合
Li dormas ekde la oka. (He has been sleeping from eight o'clock.)
Li dormis ok horojn lastnokte. (He slept for eight hours last night.)
Li dormos la tutan tagon morgau~. (He'll sleep all day tomorrow.)

ellitig^i が1回きりの動作を表す場合
Li ellitig^is je la sepa c^i-matene. (He got up at seven this morning.)
Li ellitig^os frue morgau~ matene. (He'll get up early tomorrow morning.)

Li ellitig^as ... という形は1回きりの動作を表すときには使えないので, c^i-matene(this morning) のような副詞(句)といっしょに使うことはできません。

下のように習慣を表すときには -as の形が可能です。

Li ellitig^as je la sepa c^iumatene. (He gets up at seven every morning.)

もうひとつの例について考察してみましょう。
線動詞 serc^i(look for) と点動詞 trovi(find) を例に取ります。

ある人が何かを紛失して, それを探して見つける場面をイメージしてください。
その人に独り言をいわせてみましょう。

探し始める前: Mi serc^os g^in.(I'll look for it.) Mi trovos g^in.(I'll find it)
探しているとき: Mi serc^as g^in.(I'm looking for it.) Mi trovos g^in.
見つけたとき: Mi serc^is g^in.(I looked for it.) Mi trovis g^in.(I've found it.)

上の文に見るように, serc^i が serc^os, serc^as, serc^is と形を変えているのに対して, trovi は trovos と trovis の形があるだけで, trovas の形がありません。

このように1回きりの動作を表す点動詞には -is か -os しかなく, -as の形はありません。

ただし, 次のような反復を表すときは trovas の形が使われます。
Mi trovas ion novan en mia c^iutaga vivo. (I find something new in my daily life.)

1回きりの動作を示す点動詞が -as の形で使われるのは, 言葉とその言葉が表す動作が同時に行われる場合です。

例えば, マジシャンが観客の前でいう台詞(せりふ)
Mi prenas c^i tiun moneron, enmetas g^in en la glason kaj kovras la glason per c^i tiu naztuko. (I take this coin, put it in the glass, and cover the glass with this handkerchief.)

戻る。

現在の状態を表す -is

「現在の状態を表す動詞の形」というと -as を思い浮かべるでしょうが, -is の形で「〜しています」という現在の状態を表すことがあります。

ここでは, 「現在の状態を表す -is」について考察してみましょう。

「時制」の中の「-is が使われるのは次のことを表す場合」のところに「現在までに完了した動作の結果が現在に及んでいる状態」というのがありますが, これが「現在の状態を表す -is」のことです。

「時制」の中の上の個所には例文として

La pluvo c^esis. (= La pluvo estas c^esinta.) (The rain has stopped.)

が挙げてありますが, このように英語ではたいてい現在完了形の形を取ります。

Antau~ ol ni ekiris, la pluvo c^esis. (Before we started, the rain had stopped.)という文のように la pluvo c^esis は「雨は止んだ」という過去のできごとを表す場合もありますが, La pluvo estas c^esinta.(雨は止んでいる)という現在の状態を表す表現の代用として La pluvo c^esis. が使われることがあります。どちらの意味に取るかは文脈によります。

"C^u pluvas?" (Is it raining?) (雨降っていますか。)
"Ne. La pluvo c^esis." (No. The rain has stopped.) (いや, 止んでいます。)

以下, 「-is が現在の状態を表している場合」のいくつかの例文を見てみましょう。

Li perdis la memfidon pri sia kapablo. (He has lost confidence in his ability.)
(彼は自分の能力に自信をなくしています。)

La farbo ankorau~ ne sekig^is. (The paint hasn't dried yet.)
(ペンキはまだ乾いていません。)

'Vidvino' estas virino kiu ne edzinig^is post la morto de sia edzo. ('Widow' is a woman who hasn't married after her husband's death.)
(「未亡人」とは夫の死後, 結婚していない女性のことです。)

Mi ankorau~ ne ricevis respondon de s^i. (I haven't received a reply from her yet.)
(わたしはまだ彼女から返事を受け取っていません。)

Li tute ne s^ang^ig^is. (He hasn't changed a bit.)
(彼は少しも変っていません。)

エスペラントで文を書くとき, 「〜しています」, 「〜していません」という「日本語の現在形」にひかれて, -as や ne -as を使っていうと誤りになる場合があることが分かっていただけたでしょうか。

特に否定文の場合は「要注意」です。

「宿題を終わりました」という肯定文を Mi finas mian hejmtaskon. と書く人はいませんが, 「まだ宿題を終わっていません」という否定文になると, 「終わっていません」という日本語の形にひかれて Mi ankorau~ ne finas mian hejmtaskon. と訳す人があります。もちろん, この文は Mi ankorau~ ne finis mian hejmtaskon.(I haven't finished my homework yet.)と訳さなければなりません。

fini は点動詞ですから1回きりの動作についていうときには -as の形をとることはありません。(「aspekto と -as」参照)

「〜していません」という現在の状態を表すとき, 点動詞はすべて -is の形を取りますが, 線動詞の場合でも -is の形を取ることがあります。

Li ne amas s^in. (He doesn't love her.)
Mi ne legis la libron. (I haven't read the book .)

ami(love), legi(read) はどちらも線動詞です。上の文は「愛していません」, 下の文は「読んでいません」と, どちらも「いません」という日本語になるのに, ne amas, ne legis となるのはなぜでしょうか。

このことについては, 項を改めて述べることにします。


動詞の相の目次に戻る。

トップページに戻る。時制に戻る。 - 週刊やさしい作文に戻る。




=========================