課題文n-ro491 最近,土地の価格が下がっていますね。
解説
最近: en la nuna tempo または nuntempe といいます。日本語では「最近」の後にコンマか読点を付けることがありますが,エスペラントで Nuntempe, のようにコンマを付けるのはよくありません。

土地の価格: la prezo de terenoj というのがよいでしょう。ここでいう「土地」は「用地,敷地」などと呼ばれる「一定の用途のための土地」を指しているので,tero でなく tereno を使っていいます。どこかの用地ひとつを指していっているのではないので,tereno は複数形を使いますが,ひとつの用地の「価格」は,ひとつですから la prezo と単数形を使います。このような単数と複数の使い分けを,ザメンホフの文で見てみましょう。

Dekdu belaj junulinoj, c^iuj en blankaj silkaj vestoj kaj tenante en la mano oran tulipon(Fabeloj de Andersen 1)
(若い女性がそれぞれの手に金のチューリップを持っているのですが,mano と tulipo が単数になっていることに注意してください。)

ただ,ザメンホフは必ずしもこの規則に忠実であったわけではなく,次のような用例もありますが,エスペラント文を書くときは,上に挙げた用例のように書くのがよいでしょう。(今回の採点では la prezoj とした訳も減点の対象にはしていません。)

La laboristinoj levis la kapojn kaj rigardis la venintinon(Marta)
この文の kapojn は Plena analiza gramatiko de Esperanto(PAG)では kapon となっていて単数の用例として挙げられていますが,わたしの手もとにある Marta(第3版,1928)では複数形になっています。

下がっていますね: malaltig^as, c^u ne? のようにいえばよいでしょう。malaltig^as は falas にしても同じです。malkarig^as は誤りです。『日本語エスペラント辞典』の「下がる」の項にある La prezo de la ovo malkarig^as の malkarig^as は誤りです。

訳例
Nuntempe la prezo de terenoj malaltig^as, c^u ne?


課題文n-ro492 生徒たちはみんな右手をあげました。

解説
生徒たちはみんな: La lernantoj c^iuj とするのがよいでしょう。C^iuj lernantoj ということもできます。Lernantoj c^iuj は文法的には可能な表現ですが,この課題文の場合には不自然な感じを与えます。例えば,授業中に教師が C^u vi komprenis mian klarigon? Se jes, levu la monon.(わたしの説明はわかりましたか。分かった人は手をあげてください)と問いかけた状況で La lernantoj c^iuj ...(生徒たちはみんな...)といえば自然な文脈の流れになりますが,これを Lernantoj c^iuj ...(生徒たちがみんな...)というと,この「生徒たちが」という表現が文脈の中で浮いてしまう感じを与えます。なお,c^iuj lernantoj の c^iuj は形容詞ですが,lernantoj c^iuj の c^iuj は代名詞です。
「生徒たち」に studentoj を使うのは,よくありません。「生徒」という日本語は「中学校・高等学校で教育を受ける者」を指しますが,それをエスペラントでは lernanto といいます。studento は大学の「学生」を指す語です。日本の英語教育で教えているアメリカ英語では小学,中学,高校生に対しても student を使うので,その影響で中学生や高校生に対して studento を使うと,「大学生」を指していると誤解されるので注意が必要です。

右手をあげました: levis la dekstran manon のようにいえばよいでしょう。前回の解説で述べたように,こういう場合には複数形の la dekstrajn manojn を使っていうこともできます。体の一部を表すときには,mia, via, sia などの代わりに冠詞を使うことができるので,ここでは la dekstra(j)n mano(j)n としましたが,もちろん sian, siajn を使うこともできます。levis sian brakon の brakon は manon にしましょう。mano をあげると brako もあがりますが,「手をあげる」は levi la manon のようにいうのが普通です。日本では「手をあげる」というのは,肩から指先まで上にあげるという動作を思い浮かべますが,国によっては肘を机につけたままで肘から先をあげるという動作が普通であるところもあります。

訳例
La lernantoj c^iuj levis la dekstran manon.


課題文n-ro493 わたしはマサオより二つ年上です。

解説
マサオより二つ年上: du jarojn pli ag^a ol Masao のようにいいます。pli ag^a は pli maljuna としても同じです。du jarojn と対格にするのは,前置詞省略の対格ですが,前置詞を使って je du jaroj または per du jaroj ということもできます。ただし,ここでは je を使っても per を使ってもよいのですが,このふたつの前置詞に互換性がある訳ではないので,下に上げる例文のようにまったく違う意味になることがあるので,注意してください。

参考:
Mi kaptis lin per la mano.(=per mia mano)
わたしは彼を手でつかまえました。
Mi kaptis lin je la mano.(=per lia mano)
わたしは彼の手をとらえて彼をつかまえました。

訳例
Mi estas du jarojn pli ag^a ol Masao.


課題文n-ro494 「アキオって誰ですか」 「わたしのふたつ年上の兄です」

解説
アキオって誰ですか: Kiu estas Akio? といいます。Kio を使った訳が数例ありましたが,ここではよくありません。身分や職業を尋ねるときは Kio を使って尋ねますが,素性,血縁関係を尋ねるときには Kiu を使います。Kiu Akio estas? という語順にしても誤りではありませんが,Kiu Akio は「どのアキオ」という意味にも取れるので,聞き手が一瞬のとまどいを感じるかもしれません。

わたしのふたつ年上の兄: mia frato, kiu estas du jarojn pli ag^a ol mi あるいは mia frato pli ag^a ol mi je du jaroj などのようにいえばよいでしょう。「ふたつ年上」というのは「わたしよりふたつ年上」であることを表していますが,ol mi が欠けている訳がありました。日本語では「わたしよりふたつ年上のわたしの兄」のようにはいいませんが,エスペラントでは ol mi が欠けていると誰と比べてふたつ年上なのかが分からない不完全な文になります。Kiu estas Akio? という質問に対して Mia frato pli ag^a ol mi je du jaroj と答えるのは,ぶっきらぼうな感じを与えるので,Li estas mia frato ... と答えるのがよいでしょう。Estas mia frato ... は Li estas ... としましょう。pliag^a ol mi の pliag^a は,Li estas mia pliag^a frato のようにいうときには使えますが,ol を付けていうときは pli ag^a と2語に書きます。答えの主語には tiu でなく,li を使いましょう。li は話題になっている男性を指す人称代名詞であり,tiu は人を指し示しながら使う指示代名詞であるという違いがあります。ただ,この区別はヨーロッパでは,かなりあいまいになっていて,例えば日本では自分の知人を人に紹介するときは,C^i tiu estas s-ro Aoki(こちらは青木さんです)というのがよいとされていますが,ヨーロッパでは Li estas s-ro Aoki というようないい方も聞かれますし,Kio estas tio? の代わりに Kio estas g^i? も聞かれます。このように指示代名詞(tio, tiu など)の代わりに人称代名詞(li, s^i, ili など)が使われることは珍しくありませんが,話したり,書いたりするときは,指示代名詞と人称代名詞とを区別することをお勧めします。

訳例
"Kiu estas Akio?" "Li estas mia frato pli ag^a ol mi je du jaroj."
"Kiu estas Akio?" "Li estas mia frato, kiu estas du jarojn pli ag^a ol mi."


課題文n-ro495 あなたは弟さんといくつ違うのですか。

解説
あなたは弟さんといくつ違うのですか: この文は直訳しないで「あなたは弟さんより何歳年上ですか」という文にしたほうが分かりやすくて,すっきりしたエスペラント文になりますから,Je kiom da jaroj vi estas pli ag^a ol via frato? のようにいうのがよいでしょう。Je kiom da jaroj は Je を省略して Kiom da jaroj vi estas pli ag^a ol via frato? ということもできます。この Kiom は前置詞省略の対格なのですが,kiom は主格も対格も同じ形をしているのです。主格,対格の形が同じ副詞には, kiom のほか c^iom, iom, neniom, tiom や kelke, multe などがあります。
「何歳年上ですか」と尋ねるときは比べる相手は年下に決まっているのですから,「弟」にこだわって plijuna frato を使うと pli ag^a ol via plijuna frato(あなたの年下のきょうだいより(何歳)年上ですか)という,いささかこっけいな表現になります。pli juna frato と書くのはよくありません。名詞に付けるときは plijuna と1語にしなければなりません。ただし,ol の前では pli juna, pli ag^a と2語に書きますから,estas pliag^a ol via frato の pliag^a は pli ag^a と2語に書きましょう。C^u vi estas kiom da jarojn のようにいうのは誤りです。kiam, kiom, kie, kiel, kiu などの疑問詞を使って尋ねる疑問文では c^u を使いません。da は前置詞ですから対格(-n)の名詞の前に置かれることはありません。

訳例
Je kiom da jaroj vi estas pli ag^a ol via frato?


課題文n-ro496 Mariaは25歳年上の男性と結婚するのだそうです。

解説
Mariaは結婚するのだそうです: Oni diras や Onidire を使った訳が大部分を占めました。このような表現を使うのは「Mariaは」ではなく「Mariaが」という場合だと思いますが,ここではこの問題は不問にしました。edzig^os を使うのは,ここでは誤りです。女性が結婚するのは edzinig^i を使っていいます。結婚だけでなく離婚するときも,男性は eksedzig^i, 女性は eksedzinig^i と違う語を使っていいます。男性と女性の二人を主語にするときは,Masao kaj Maria geedzig^is.(マサオとMariaは結婚しました)といいますし,離婚したときは Ili eksgeedzig^is といいます。

25歳年上の男性と: al viro, kiu estas pli ag^a ol s^i je dudek kvin jaroj などのようにいいます。al のところに kun を使う人もいます。kiu 以下は estas dudek kvin jarojn pli ag^a(maljuna) ol s^i のようにいうこともできます。この ol s^i を ol si とするのは誤りです。dudek-kvin のようにハイフンでつなぐのはよくありません。ただし,序数詞では dudek-kvina(25番目の)のようにハイフンでつなぎます。「25歳年上の」というのは,彼女より25歳年上ということですから,ol s^i を入れなければなりません。このように日本語では自明のこととしていわないことでも,エスペラントでは明示する必要がある場合が多いことに注意しましょう。viro に冠詞を付けた訳が数例ありましたが,ここでは無冠詞にします。「(彼女より)25歳年上の男性」は数多くいるのですから,そのうちの特定の男性を指す場合以外は,無冠詞にしなければなりません。

訳例
Maria diris al mi, ke s^i edzinig^os al viro, kiu estas pli ag^a ol s^i je dudek kvin jaroj.


課題文n-ro497 わたしたちの会は創立後1年で,会員が倍増しました。


解説
わたしたちの会: nia societo というのが一般的ですが,rondo, klubo なども使えます。

創立後1年で: dum unu jaro post la fondig^o(創立してから1年の間に)または,unu jaron post la fondig^o(創立してから1年後に)のようにいえばよいでしょう。前者が1年という期間を全部視野に入れた表現であるのに対して,後者は1年経った時点に焦点を絞った表現です。dum の代わりに en を使うこともできますが,por を使うのは誤りです。「創立の1年後」を直訳して post unu jaro de la fondig^o のようにいうことはできません。

会員が倍増しました: la membroj duoblig^is でも通じる表現ですが,la nombro de la membroj duoblig^is というのが正確な表現です。日本語では「会員が倍増しました」でも「会員数が倍増しました」でも正しい表現とされますが,エスペラントでは倍増したのは「会員」ではなく「会員数」であると考えるので,la membroj duoblig^is と聞いた人は la membroj の前に la nombro de を補って理解することになります。会話では la membroj duoblig^is といっても,メールや手紙では la nombro de la membroj duoblig^is と書くようにしましょう。ここでは「わたしたちの会の会員数は」とするので la nombro de la membroj de nia societo となります。

訳例
La nombro de la membroj de nia societo duoblig^is dum unu jaro post la fondig^o.


課題文n-ro498 この本は著者が原稿を完成してからちょうど1年後に出版されました。

解説
この本は出版されました: c^i tiu libro estis eldonita のようにいうのがよでしょう。estis eldonita のかわりに eldonig^is を使っていうこともできます。estas eldonita とした訳が数例寄せられましが,「出版されました」というのは過去の行為ですから,この estas は estis としなければなりません。

比較:
Mia au^to estis riparita hierau^.(わたしの車はきのう修理されました。)
Mia au^to nun estas riparata.(わたしの車はいま修理中です。)
Mia au^to estas riparita.(わたしの車は修理済みです。)

esti -ata, esti -ita については『エスペラント初級・中級の作文』のp.104, 105に詳しい解説があります。

著者が原稿を完成してからちょうど1年後に: g^uste unu jaron post kiam la au^toro kompletigis la manuskripton のようにいうのがよいでしょう。jaron を jaro とした訳がありましたが,これは誤りになります。g^uste post unu jaro de kiam ... も誤りです。post は前置詞ですから,g^uste unu jaron post la au^toro kompletigis ... のようにいうことはできません。post kiam とすると従属接続詞として機能するので,post kiam la au^toro kompletigis ... とつなぐことができます。g^uste のところに j^us を使うのは誤りです。j^us は「たった今」という意味です。manuskripton には冠詞を付けます。いま話題にしている本の原稿を指すからです。無冠詞の manuskripton にすると,この本とは関係のない原稿の話になってしまいます。

訳例
C^i tiu libro estis eldonita g^uste unu jaron post kiam la au^toro kompletigis la manuskripton.


課題文n-ro499 マサオは終戦の一か月前に生まれました。

解説
マサオは生まれました: Masao naskig^is または Masao estis naskita といいます。

終戦の一か月前に: unu monaton antau^ la fino de la milito のようにいうのがよいでしょう。「終戦」は「戦争が終わること」を意味する語ですから,la finig^o de la militoというのがよいのですが,民族語の影響で la fino de la milito のほうが一般的になって finig^o はあまり使われなくなっているようです。ただし,次のような場合には fino と finig^o では意味がまったく違うので注意してください。

比較:
la fino de la mondo(世界の果て)
la finig^o de la mondo(この世の終わり,地球上のすべての生物の滅亡)

「終戦の一か月前に」は上に挙げたようにように fino または finig^o という名詞を使っていうだけでなく,動詞を使って unu monaton antau^ ol la milito finig^is のようにいうこともできます。「の一か月前に」は antau^ unu monato de や antau^ unu monato ol などのようにいわずに,unu monaton antau^ といいます。英語では a month before といいますが,この month も対格です。英語では人称代名詞を除いて主格も対格(目的格)も同じ形をしているので,見かけでは分からないだけなのです。英語の before は前置詞だけでなく接続詞の機能もあるので,before の後に the war ended と続けることができますが,エスペラントの antau^ には接続詞の機能はないので,antau^ la milito finig^is ということはできません。la milito finig^is を使うときは antau^ ol を使わなければなりません。

訳例
Masao naskig^is unu monaton antau^ la fino de la milito.


課題文n-ro500 Maria はその建物が崩壊するわずか数十秒前に,外に出ることができました。

解説
Maria は外に出ることができました: このまま訳すと Maria povis eliri eksteren ですが,ここでは el la konstruaj^o を入れていうほうがよく,寄せられた訳の大部分もそのようになっていました。「外に出る」は,fug^i, eskapi を使っていうこともできますが,deiri はよくありません。elig^i el la domon の -n は誤りです。el の後に対格が置かれることはありません。eliri ekstere や eliri al ekstere とはいわずに eliri eksteren といいます。

その建物が崩壊するわずか数十秒前に: nur kelkdek sekundojn antau^ ol la konstruaj^o disfalis のようにいいますが,「外に出ることができました」の訳に el la konstruaj^o が使われている場合には,konstruaj^o の重複を避けて nur kelkdek sekundojn antau^ ol g^i disfalis といいます。「建物」は konstruo という語も使えますが,konstruaj^o のほうが分かりよいでしょう。konstruado には「建物」という意味はありません。「わずか数十秒前に」は nur dekojn da sekundoj antau^ ol のようにいうこともできます。antau^ nur kelkdek sekundoj ol のようにはいいません。antau^ nur kelkdek sekundoj は話している時点を基準にした表現です。過去のある時点を規準にしていうときは,上に挙げたように antau^ の前に時間の長さを表す語句を対格(-n)にして置きます。この文の「わずか」には nur を使っていいます。「崩壊する」には disfali を使うのが,いちばんぴったりした表現です。この antau^ ol g^i disfalis は antau^ g^ia disfalo といっても同じです。

訳例
Maria povis eliri el la konstruaj^o nur kelkdek sekundojn antau^ ol g^i disfalis.