<鋭い指摘>の巻

タケちゃん(以下T)「こんばんは。」

あき(以下A)「あら、遅いじゃないの、タケちゃん。いらっしゃ〜い。はいオシボリ。」

T「有難うございます。ビールください。」

A「あいよっ!はい、ビール。お待たせしました。でも、今日は随分遅くない?もう10時半よ。明日仕事休みなの?」

T「いえ、仕事ですよ、当然。いや〜、今日新国立劇場に行ってきたんですよ。」

A「あっ、そうなんだ。<イントゥー・ザ・ウッズ>観に行ってきたわけね。」

T「そうなんですよ。それでこんなに遅くなっちゃって。」

ひー君(以下H)「面白かった?まあ、僕は面白かったんですけどね。」

A「あら、ひー君も観に行ったんだ。」

H「アキちゃんは行ってないの?」

A「勿論、行ったわよ。」

T「面白くなかったですか?アキさんにとっては。」

A「そんな事ないわよ。良く出来てたと思うけどね。」

H「けどね、って言う事は、何かひっかかるものがあったんでしょ、ねぇ。」

T「何なのですか?その引っかかる物って。」

A「まだ引っかかってるとか言ってないじゃないのよ。」

H「でも、何時ものアキちゃんの言い方だと何かあるよ、これは。」

T「オイラは面白かったですよ。何だか訳が解らなくなりそうだったけど。」

H「グリム童話の怖い所かも絡めていてね。ナレーターが出てきたんで、 ちょっと解らなくなりそうだと軌道修正してくれるじゃないですか。それでまた解るようになる。 良く出来ている脚本ですよね。」

A「それはそうよ。難解だけど解り易くできているわよね。ソンドハイムの作品の中でも、 メロディーとともに脚本も解り易いわよね、この作品は。」

T「舞台美術も良かったじゃないですか。森の中の木が動いちゃって、もう不思議な気分でした。」

H「あらら、タケちゃん、それはさ、あの木が動いてるのはね、道ですよ、道。」

T「道?何ですか、それ。」

A「あれね、木が動いてるでしょ。それで、違う道を表しているのよ。別の道に来てますよ、 っていう。まあ、場面転換よね。」

T「あ〜、そうだったんですか。ぜんぜん気が付きませんでした、ははは・・・。」

A「でもね、アッシさ、今回の舞台美術なんだけど、森というより、雑木林みたいに思っちゃったのよね。 動かす都合もあったんでしょうけど、枝が切られていたじゃない。もうちょっと森らしく出来たら良かったのに、 って思ったのよ。」

H「そうか、あれじゃ陽が当り過ぎちゃうよね。」

T「へ〜、良く観てますね。でも、やっぱり森だから、鬱蒼〜うっそう〜とした感じですものね。でも、 枝が伸びていたら木が動けなくなっちゃいますよ。」

A「だから、動かす都合があったんだろうけど、って言ったのよ。」

H「英語では、森と雑木林じゃ違うのかな?」

A「違うんじゃないのぉ。雑木林は、人の手が入っている林の事でしょ。森とは全然違うわよね。」

T「あ〜、ありましたよ。雑木林はです。違いましたね。」

H「アキちゃんはブロードウェイで観たの?」

A「もう17年くらい前よ、確か。初演だったから。とっても楽しくて、考える所もあって。帰る時には、 <into the woods,into the woods〜〜〜>って鼻唄うたちゃったりしてね。」

H「その時の美術とか覚えてますかね。」

A「そうね、大体は。森に関して言えば、ステージの後ろに鬱蒼とした森の絵があって、 前の方の木は横に枝は伸びていなかったけど、上の方にちゃんと伸びていたわね。」

T「へ〜。何か写真とかないんですかね。観てみたいです。」

A「部屋にレコードがあると思うわよ。確認して持って来るわね。森もそうなんだけど、今回の美術はさ、 新国立劇場の奥行きの深さを利用していたのが最後の所だけだったのが一寸残念なのよね。あの最後、 みんなが奥の方へ去って行くのはとっても良い演出だったと思うんだけどね。もっと、 あの奥行きを利用した演出だったら良かったと思うわね。」

T「あれは良かったですね、本当に。」

A「でしょ。だからもったいなくて。宮本亜門の演出って、この前の<ユーリンタウン>の時もそうだったんだけど、 客席のエリアまで使うでしょ。」

H「それがお客には楽しみのひとつなんじゃないですか。」

A「でもさ、1階だけが客席じゃないのよね。特に今回みたいに、舞台の奥行きがすごく深い場合、 前よりももっと後ろを使うべきなんじゃないかな、って思うのね。何か、舞台を舞台だと思っていないんじゃないかと思っちゃって。 アッシは、客席と舞台って、一体感があるのも大切だけど、ちゃんと分かれている、 というのも大切なんじゃないかと思っているからね。」

H「観る側と演じる側の間にある何かも大切だ、って言う事ですね。」

A「まあ、そういう事かな。そんなに悪くはないんだけどね。今回は、奥があるのに、何故?ってね。」

T「やっぱりアキさんは、何か引っかかるものがあったんですね。それじゃ、役者たちはどうでした? オイラはみんな上手いな、って感激しちゃったんですけど。」

H「確かに、えっ!この人もこんなに歌えるの?って思いましたよね。藤田弓子なんか、本当に驚いちゃいましたよ。」

A「みんな良く歌ってたとおもうけど、アッシは惜しいな、って思ったのよ。」

T「どんな所ですか?みんなしっかり歌ってたと思うけどなぁ〜。」

A「ソンドハイムの曲って難曲が多いんだけど、この<イントゥー・ザ・ウッズ>は、比較的易しい方だと思うのね。 みんな頑張っているんだけど、所々不安定な所があるのよね。ちゃんと歌えていたのは、シンデレラの シルビア・グラブとラプンツェルンの吉岡小鼓音、シンデレラの母、おばあちゃん、巨人の荒井こう子くらいだったかな。 諏訪マリーさんは、上手いんだけど、上の音が辛くなって来ているし。勿論、パン屋の小堺君も、 その妻の高畑淳子もジャックの上山竜司も、藤田さんも、赤頭巾ちゃんのSAYAKAも、みんな一所懸命で、 無難にこなしているんだけどね。もう一息なのよね。う〜む、残念。」

H「僕は良くやってるな、と思いましたけどね。」

A「良くやってるからこそ、あと一息頑張ってほしかったのね、アッシは。」

T「なるほどね。で、今日、遅くなってもペンギンに寄ったのはですね、 この芝居に託されたメッセージをアキさんに聞こうかと思って。」

A「メッセージね。タケちゃんは気が付いたのね、あのメッセージに。」

T「やっぱり!それでいいんですね。」

A「そうでしょ、やっぱり。」

H「何々?メッセージですか?僕も気が付きましたよ。復讐が復讐を呼んで、また復讐を生む。そして、 また復讐が・・・、って事ですよ、ね。」

A「そうよね。そう言えば、この前観た、劇団桟敷童子の<可愛い千里眼>ていう芝居も、千里眼を持つ少女を通して、 争い事の愚かさを訴えていたと思ったけどね。」

T「今、この時代にピッタリな指摘ですね。」

H「鋭い目を持った芝居人がいるっていう事は、喜ばしい事ですよ。」

T「桟敷童子のお芝居も観てみたくなりました。今度連れてって下さいね、アキさん。」

A「えっ?・・・・いいわ・・よ。」

H「アキちゃん、もしかして、結構眠いんじゃないんですか?」

A「あら、判っちゃった?むむ、鋭い指摘だわ。」

H「それじゃ、僕はこの辺りで帰りますかね。」

T「それじゃ、オイラも。」

A「そう?悪いわね。それじゃ、二人とも、1200円ずつね。ありがとう!」

H&T「それじゃ、おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね。」

A「ありがとうございます。それじゃ、お休みなさ〜い。ありがとね。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回登場したお芝居は、
1)INTO THE WOODS 公演終了
2)桟敷童子<可愛い千里眼> 公演終了

以上です。次の機会に是非いらして下さい。


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