<やっぱり映画は映画館>の巻

トントンとドアが叩かれる。

あき(以下A)「はい?どうぞ。」

スターちゃん(以下S)「今晩はぁ〜。さむくなりましたねぇ。」

A「あら、スターちゃん、いらっしゃい。」

グリ子(以下G)「いやだ〜っ、スターちゃんだったんじゃないのよ。この季節だから、 熊手でも売りに来たのかと思っちゃったわよぉ。」

S「すみませんねぇ〜。」

A「はい、スターちゃん、おしぼり。」

G「でも、スターちゃんって、とっても厳しい家庭に育ったのね。ちゃんとドアをノックしてから入ってくるんだもん。」

A「あら、そう言えばそうかもね。どうなの?スターちゃん。」

S「いえ、そんな事はないんですけど。まあ、ドアがあると自然にノックしちゃうんですよねぇ。」

G「やっぱ、躾(しつけ)がいいんだわ。うちとは大違い。」

A「はははは・・・。ところで、スターちゃんは内にしましょう?」

S「それじゃ、今日はワインを頂きましょうか。」

A「白と赤、どっちにしましょう?」

S「それじゃ、白、シャブリでお願いしてもよろしいでしょうか。」

A「勿論ですよ。・・・・はい、どうぞ。」

S「やっぱり危ないですね、このワイン。」

G「危ないって、何が?」

S「いや〜、美味し過ぎて危ないなぁ〜。アキちゃんもいかがですか?」

A「あら、どうも。それじゃ、遠慮なく頂きますね。それはそうと、 今日はやけに早いんじゃないの?スターちゃん。」

S「そうなんですよ。映画に行ってたんですけど、丁度9時に終わったものですから、 たまには早い時間でもと思って。」

G「あら、映画ねぇ。アタシ随分と映画館でなんか見てないわよ。」

A「それじゃ、グリ子はDVDかなんかで見てるの?」

G「そうなのよ。大体がそうかな?映画館て行くの面倒くさいじゃない?それに高いし。 レンタルで見ればいいかなってさぁ。」

A「アッシは映画館派だから、まず映画は映画館。だけど、最近単館ロードショーが多いじゃない。 行くのはやっぱり少し面倒かもね。近くにあればいいけどさ。」

S「それは言えてますねぇ。僕なんかも遠いものですからね。単館のものは、気合入れて見に行きますもんね。」

G「DVDが一番よ。」

A「でもさ、画面は小さいし、音がね。いくら5.1chだって言っても、 映画館の迫力には遠く及ばないじゃない。やっぱり映画館よね。」

G「ところでさぁ、スターちゃん、今日は何を見て来たのよ。」

S「あ〜、今日ですか?<コラテラル>です、トム・クルーズの。」

G「あれね、トム・クルーズが悪役やってるっていうう。」

A「はいはい、見たわよ、アッシも。」

G「で、どうだったのよ。でも、アタシも見たいから言わないでよ、絶対。」

A「何言ってんのよ。アンタDVDで見るんでしょ。それだったら半年も先じゃない。 それまで言わないなんて出来ません。ねえ、スターちゃん。」

S「それもそうですよね。半年先だから、グリ子さんも、今聞いたからって忘れてますよ、その頃には。」

G「それも、そうかもねぇ。じゃあ、いいわ、話して。」

S「僕は、まあまあ面白かったかな。アキちゃんはどうだった?」

A「そうね、アッシも、まあまあ面白かったわよ。寝なかったし。ははは・・・。」

G「ちょとぉ〜、二人ともただ面白かっただけじゃ何も分からないじゃないのよぉ。 もうちょっと教えて頂戴よぉ。」

S「いいんですか?ホントに言っちゃって。」

G「んもうぉ〜。じらさないでよぉ。早く早く。」

S「まあ、トム・クルーズが殺し屋なんですね、プロの。その彼を乗せてしまったタクシー運転手の運命や如何に! ってなところでしょうかね、アキちゃん。」

A「まあ、そんな所かな?アッシさ、トム・クルーズとタクシー運転手を演ってたジェイミー・フォックスと、 どっちが主役だか分からないと思ったんだけど、やっぱ、タイトルの先にトムの名前があるから、トムが主役なのかしらね〜。」

S「そりゃ、そうでしょう。やっぱり主役はトム・クルーズじゃないんですかね。」

G「って言う事は、二人が丁丁発止渡り合うって事ね。あの、彼、誰だっけ?その相手の人。」

S「ジェイミー・フォックスですか?」

G「そうそう、彼ってさ、ウィル・スミスの<アリ>に出てた人かしらん。」

A「そうよ、アリのセコンドの役だったかな?確か。」

G「やっぱりねぇ。何か聞いた事あるなって思ったのよぉ。この前、<アリ>レンタルで借りてきて見たばっかりだったから。 あら、いい男よねぇ。デンゼル・ワシントンが若くなったみたいよね、彼って。」

S「ふんにゃ、違います。彼はですね、もっと素晴らしくなるかも知れませんよ。僕は何かそう思いましたね。」

G「やだぁ〜、早く見たくなっちゃうわ。」

A「でも、後でもいいかもよ。後には何も残らないし、面白かったけど、だから何?みたいな所もあるしね。」

S「アキちゃんは、実はつまらなかったんじゃないんですか?」

A「そんな事ないわよ。面白かったけど、後でもいいかな?って。最後も、もうひと捻りあるかな?って思ったんだけど、 そのままだったしね。大きな画面じゃなくてもいいかもって。」

S「でも、綺麗じゃなかったですか、ロスの夜景。」

A「そうね、あれは綺麗だった。あれは大きな画面で見るとまた違うかもね。やっぱり映画館か。」

S「それに、殺し屋の話ですからね。戦争映画や、SFXみたいに、派手な画面はまず無いでしょう。」

A「まあ、そう言えばそうだわね。まあ、トムも良かったし、その日の内の出来事だから、スピーディで、 飽きが来なかったのも良かったわね。ただ、アッシ、どうしても気になっちゃってる事があるのよね。」

S「何かありました?」

A「まあ、どうでも良い事なんでしょうけど、最後、電車の中で撃ち合うじゃない。その時、車両と車両の間、 ガラスのはめてあるドアのあっちとこっちで撃ち合うわよね。」

S「そうでしたね。で、トムが、・・・。」

A「ね、それで、その時、そのドアのガラス、割れるわよね。でも、次のシーンで写っていたそのドアのガラス、 ちゃんとはまってたのよ。」

S「え???そうでしたっけ?ありゃま、気が付きませんでしたよ。」

G「それだったら後でDVDで確認すればいいじゃない。」

A「って、半年後よ。もうどうでも良くなっちゃってるわよね、きっとその頃には。ただ、気になっちゃって。 最後だったしね。」

S「しかし、ロス・アンジェルスは広いんですね。僕はまだ一度も行った事がないんですけど、 上空から見る景色は、本当に広さを感じさせましたよ。一度行ってみたいですねぇ。」

G「あら、ロスだったらアタシにお任せよぉん。ウエスト・ハリウッド。とっても素敵な世界が広がってるわぁ〜。 アタシ、あそこで仕事するのが夢なのよ。」

S「仕事って、ニューハーフのショーかなにかに出るんですか?」

G「それもいいかもね。何しろ、本場じゃない。まあ、ニューハーフまでいかなくても、ドラァグくらいだったら、 普段の生活もそう変わらないだろうし。」

A「何、お気楽な事言っているのよ。そうそう、そんなグリ子にピッタリな映画があるわよ。」

G「何々?でも、アタシが見るのは半年後よ、DVDだから。」

A「発売すれば、でしょ。都内での単館ロードショーだし、DVD発売されるかしらん。」

S「アキちゃん、それって、<コニー&カーラ>じゃありませんか?」

A「ビンゴ!スターちゃんもあの手の映画も見るのね。」

S「そうなんですよ。今日、用事で銀座に出たんです。その後で新宿に来て<コラテラル>見ようと思ってたんですけどね、 ちょっと日比谷の方に行ったんですね。芸術座も取り壊される事だし、ちゃんと見ておこうと思って。そしたら、 宝塚劇場の所にある映画館で雑誌に載ってたチラシが目に入ったんですよ。」

A「それが、<コニー&カーラ>だったんだ。」

S「そうなんです。新宿に行くまでは時間もあったし、去年の<シカゴ>っぽいチラシだったから、 これ見てみようかなって思ってね。」

A「どうだったの?スターちゃんには。」

S「いや〜、僕、ミュージカル好きじゃないですか。もう楽しくて楽しくて。」

G「アタシはそんなにミュージカル好きじゃないけど、なんでアタシにピッタリなのよぉん、 ねえ、アキちゃん。」

A「さっきドラァグだったらなんて言ってたからよ。」

G「え?どういう事なの?」

S「この映画はですね、デビー・レイノルズっていうかつてのミュージカルスターに子供の頃から憧れている二人の仲良し女の子が、 大人になってからも夢を捨てきれずに酒場で売れないショーをつづけているんですよ。でも、 そこの経営者は彼女らを認めているわけですね。」

A「でもね、その経営者が殺されちゃう所を目撃しちゃうのよ、その二人が。」

S「おまけに、ヤバイと思った経営者が麻薬を彼女らのバッグに入れちゃったからもう大変。 二人は組織に追われる事になっちゃうんです。」

A「で、たどり着いたのがウエスト・ハリウッドっていうわけ。」

G「なんか、アタシと丸っきり関係無いような気がするんだけど。」

A「それからなのよ、グリ子と関係あるのは。」

G「それじゃ、早く聞かせてみてよぉ。」

S「そこで、自分たちが追っ手に気付かれないようにと、ドラァグ・クウィーンんいなりすます事を思いつくわけです。」

A「まず、オーディション。お決まりの<キャバレイ>の曲に観客も最初はブーイングだったんだけど、 曲が進んで行く内に、耳を傾けるようになるのよね。」

S「終わった時は凄い拍手の嵐。一躍、そのドラァグショーは大入り満員。彼女たちの夢の一つである、 レストランシアターでのショーのオープニングを迎えるわけですね。」

A「しかも、彼女らが憧れていたデビー・レイノルズ本人まで飛び入り参加で、大成功!の筈だったんだけど、 そこまで有名になちゃったから、当然、追っ手が嗅ぎ付けて・・・、となるわけよ。」

G「あら、面白そうじゃない。」

S「面白かったですよ、本当に。アキちゃんは、もう当然見てますよね。」

A「勿論で〜す。確かに面白かったんだけど、内容はチープの一言ね。色々な映画からの寄せ集めだし。」

G「例えば、どんな映画なのかしらん。」

A「そうね、まず、ストーリー自体、マリリン・モンロー、ジャック・レモンの<お熱いのがお好き>や、 ウーピー・ゴールドバーグの<天使にラヴソングを>と殆ど一緒でしょ。女が男に化けるというのは、 ジュリー・アンドリュースの<ヴィクター/ヴィクトリア>や、バーブラ・ストレイザンドの<イエントル>と一緒。 ショーの中身は、これは仕方ない事だけど、<キャッツ><ジーザス・クライスト・スパー・スター> <メイム><ロッキー・ホラー・ショー><キャバレイ><ファニー・ガール><エヴィータ><イエントル>などなど。 まあ、二番煎じのオンパレードね。」

S「でも、僕にとってはとっても面白かったですねぇ。やっぱり好きな曲をあれだけ歌われるとね。」

A「分かるわよ。アッシだって、あの映画、チープだとは思うけど、結構好きね。 やっぱりあれだけミュージカルナンバーがあるとウキウキしちゃうわよ。それに、ゲイである故の哀しみや、 心の葛藤、偽っている事の辛さ、などなど、良く表現されていて、三流映画だけど、十分楽しませてくれる映画だったわね。」

S「グリ子さんも、一度映画館でちゃんと見て、これからの方向を考えた方がいいかもしれないですよ。」

G「それじゃぁ、行ってみようかしらぁ〜。」

A「あら、グリ子が映画館へ行くですって。スターちゃんもお上手ね。流石、スターちゃん。」

S「それほどでもないんですけど。それじゃぁ、もう一本ワイン開けて頂けますか?」

G「ワインと言えばさぁ、今日、ボジョレー解禁じゃなかったっけぇ〜?」

A「あら、そうだったわ。忘れてたぁ〜!冷やしておいたのにね。そうそう、スターちゃん、大丈夫でしょ、赤でも。」

S「用意してあるんですか?流石はアキちゃん。僕も忘れてましたよ、今日だったって。 元々は発酵がちゃんと終わらないのに出荷してしまう業者を取り締まる目的もあって禁止してたんですけどね、 まあ、当時はリヨン界隈でしか飲む事ができなくて、1951年に・・・・。」

A「まあ、いいわよ、スターちゃん、早く乾杯しましょうよ、取り合えずね。それじゃ、 ボジョレ・ヌーボー解禁おめでとう!かんぱ〜い!」

G「あら、今年のは美味しいわぁ。去年も美味しかったけど、今年はまた違った美味しさがあるわねぇ。」

S「でですね、1951年に公式に新酒の販売が許可されたんですけどね、 当時は11月15日に決められていたんですよ、で・・・・」

A「本当に美味しいわ。ちょっと、グイグイいっちゃうわね、これ。」

G「ちょっと、スターちゃん、折角のアキちゃんの御ごりなんだからさぁ、能書きたれてないで飲みましょうよぉ〜ん。」

S「そ、そ、そうですね。それじゃ、頂きましょうか。・・・・あれあれ、美味しい!美味しいです。もう一杯頂けますか?」

A「いいわよ、もう一杯。はい、どうぞ。」

S「いや〜、美味しいです。美味しいです。もう一杯大丈夫ですか?いや〜、美味しいですね。」

A「まあ、大丈夫だけど、他のお客様の分もあるんだからさ、ね、スターちゃん。」

S「そうですよね。まあ、映画は映画館、ボジョレ・ヌーボーはペンギンで、という事で。いや〜、本当に美味しいなぁ〜。」

A「じゃあ、もう一杯だけ。みんなで乾杯しましょう!」

一同「かんぱ〜い!・・・美味し〜い!」

おわり



*今回紹介した映画は、
1)コラテラル  
    新宿プラザ他で上映中
2)コニー&カーラ
    日比谷スカラ座2で上映中
  (最終上映開始が今の所14:45なので注意)

以上です。どうぞ、足をお運び下さいね。


Back Number!