<やっぱり凄〜い!>の巻

さっチャン(以下S)「なんか、ちょっとイマイチだったかなぁ。」

ヒロ君(以下H)「前のと比べるとねぇ〜。僕もそう思うんだ。」

あき(以下A)「何よ、何の話なの?」

S「今日さ、行って来たんだよ、NODA MAP の芝居に。」

A「あ〜、<走れメルス>ね。」

H「アキさんは行ったの?もう。」

A「はい、行きましたよ。」

H「でね、僕はイマイチだったんですけどね、アキさんはどうでしたか?」

S「俺もさ、ヒロ君とおんなじ様に、イマイチだったんだよね。何かさぁ、このところの野田とは違うんだよねぇ。 ちょっと違うんだよ。」

A「何、寝ぼけてるのよ。あの芝居、もう30年近くも前の芝居なのよぉ〜。だから、 最近の野田の芝居とは全然違うのあ・た・り・ま・え!」

S「え〜!!!そんな前なんだぁ〜。俺、生まれてないや〜。」

A「あら、ショ〜ック!」

H「僕も幾つだろうな、え〜と30年前だとみっちゅですぅ〜。」

A「あ〜あ、これだからなね、今の子は。アンタね、30年近く前って言ったでしょ、30年近く前って。」

S「で、正確には何年前なの?」

A「そうね、確か、アッシが大学3年の時だったから、もう28年前になるかしらん。」

H「大して変わりませんよね、30年前と。」

A「でも、ヒロ君は5歳よ。アッシが確か誕生日を迎える前の筈だから、まだ20歳ね。」

S「良く覚えてるね、そんな事まで。」

A「まあね。色々あったから、あの頃は。」

S「ダメ駄目、想い出に浸ってちゃ。ボケ早くなるよ。」

A「確か、当時ね、表参道にVAN99ホールってのがあってね、渋谷のジャンジャンが出来て数年後だったかしら、 大学の演劇仲間と東大に凄い芝居やる奴がいるって言うんで観に行ったのよね。」

H「野田って東大だったんですか。」

S「有名じゃん、東大なの。」

A「で、分からないのよ、全く。凄いスピード感。これは、唐十郎の赤テントなんてものじゃなかったのよ。 で、何がなんだか分からないのよね。でさ、何ヶ月後にまた行ったのよ、今度は東大の駒場にある小さなホールまで。」

H「へ〜、本当に観てたんだね、アキさん。でもね、僕は今回の<走れメルス>が最初なんだけど、 アキさんも最初はイマイチだったって事だよねぇ、それじゃ。」

A「ちょっと違うのよ。イマイチじゃなくて、分からなかったのよ。当時は、さっきの唐十郎、寺山修司、 黒テントの佐藤信、とアングラの全盛期じゃない。野田の芝居も、あの頃観た感じでは、アングラだったと思うのよね。 ただ、唐にしても、寺山にしても、佐藤信にしても、彼らのやってる事は分かったのよ、何となくだけど。」

S「野田のは分からなかったんだ、その時は。」

A「そうね、最初に観た時は分からなかったのよ。ただ、凄いな!って思ったのは確かね。当時としてみれば、 過激だったのよね、きっと。」

H「それは何で?」

A「例えば、唐さんなんかは、実際の事件を基に芝居を書いても、実名を書く事はなかったじゃない。 書いたとしても、さほど気にならなかったのよね。だけどさ、野田は気になるのよね、実名が。 出てくる人物が本当に分かっちゃう。オブラートに包んでないのよ。職業とかそのままだったり。」

S「いまだったら大変だよね、分かっちゃうからさ。たとえば、今回だって、桐島洋子とか、かしまし娘だとかさ。」

H「あれ?あれは、かしましブスメじゃなかったっけ?それに、田島陽子でしょ。きっと怒ってるよ、彼女。」

A「まあ、娘でもブスメでもどっちでもいいけどさ、ちょっとドキっとしたのよね、その頃は。」

S「話はちょっと変わるけど、今度の話って、下着泥棒の話じゃない。これって、どうよ?」

H「まあ、今時、下着泥棒なんて、って事ですか?」

S「いや、そうじゃなくってさ、下着泥棒ってのに焦点を当ててるって事。」

A「だからさ、今でも下着泥棒はいるんだろうけど、あの頃はね、もう30年近くも前なんだからさ。 カメラ付き携帯電話もなけりゃ、エログロもこっそり見てた時代じゃない。」

S「あれ?見てたの?アキさん、エログロ。」

A「そりゃ見てなかったって言ったらウソになるわよね。誰だって興味はあるし、何しろ、真っ黒なんだからさ。 妄想が膨らみ過ぎちゃって。まあ、今みたいに、ほとんど見えちゃうのも、それはそれでいいけど、 あの頃の方が何て言うのか、想像力を養うには良かったかもね。」

S「で、下着泥棒は、どうよ!」

A「まあ、下着泥棒っていうのは、この芝居の眼点ではないのよね。今回の副題は、<少女の唇からはダイナマイト!> なんだけど、初演のときは、<下着が〜(ほにゃらら)>だった記憶があるから、まあ、下着は重要ではあるんだろうけど、 それより、鏡よね、鏡。」

H「それって、アキさんの時代だと<ロンパールーム>ですか?」

A「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのはだ〜れ?はい、それはアキちゃんですねぇ〜。 ・・・な〜んて馬鹿な事やらせないでちょうだいよね。」

S「何?それ?」

H「さっチャンは知らないんだ、ロンパールーム。世代のギャップを感じちゃうなぁ〜。」

A「何言ってんのよ。アッシはどうするのよ、アッシは。」

H「まあ、アキさんはず〜〜〜っと離れてますからね、ギャップを感じる以上でしょうね。」

A「お会計100倍よ!」

H「冗談ですってば。で、鏡でしたよね。」

A「そうよ、鏡。鏡の<あっちとこっち>の話よね。<あっちとこっち>が入り混じって、 そこに言葉遊びが入ってくる。鏡で覗かれていたのも気が付かずに下着泥棒を続けるスルメ。 なんでスルメだか分かる?」

H「なんででしょう。」

S「え〜〜っとね、え〜〜っとね。あれ?これってさ。逆読みすると、スルメになるよね、 メルスの逆読み。ほらほらほら・・・。」

H「すっご〜い!さっチャン。」

A「そうそう。そんな言葉遊びがたくさん出てきたわよね。野田のこのスタイルは今も変わってないけど、 この時代の方がより多くの言葉遊びをしていたと思うのよ。」

S「あと、どんなのあったっけ?」

A「スルメと芙蓉をひっかけて、マンジュウとスシオウ、とか、スルメの名前と出身地に、スルメと久留米とか、・・・」

H「こんなのもありましたよね、聞き違いとキチガイ。」

S「あった、あった。それに、お砂糖とお里、っていうのもなかったっけ?」

A「そうそう、あったわよ。で、それに、鏡が関係してくるわけよね。」

H「鏡が?どういう事ですか?」

A「さっき言ったじゃない、鏡のあっちとこっちって。」

S「で、そのあっちとこっちと言葉遊びとの関係は何なの?」

A「あっちとこっちの間にあるのが鏡で、その鏡は陽炎なわけよ。 その陽炎があっちとこっちを逆さまに写し出してるのよね。」

H「もっと分からなくなりましたね、僕は。」

S「俺も全く分からないなぁ〜。」

A「ね、これですもの。これが芝居よ、シ・バ・イ。さっチャンもヒロ君も、最近の劇団の芝居観て面白がってるけど、 アッシなんかに言わせれば、面白くもな〜〜んともないのよね。あ〜、そうですか、ってほど。」

H「どういう事だか、また分かりにくくなってきましたよ、僕は。」

A「例えばさ、この芝居のキーのひとつ、鏡ね。その鏡っていうのは、光を受けると色々な方向に光を反射するじゃない。 そういう事なのよ。今の若い人達の芝居には、その反射がないのよね。」

S「反射かぁ〜。そうかもしれないな。いろんな方向に話が散らばらないもんね。」

A「それに、役者の選択よ。プロデュース公演という事もあるけど、中村勘太郎は歌舞伎の世界から、小西や河原、 古田は勿論、松村なんかも小劇場出身、浅野や櫻井は新劇出身だからね。そういう意味でも反射があるんじゃないの?」

H「へ〜。なるほどね。なんか、みんなそんな感じがしませんでしたよ、一体感があって。」

S「でも、勘太郎は台詞がやっぱり歌舞伎だったような、ね。」

A「そうね、倒れると女形だったしね。はははは・・・・。でも、やっぱり一体感があった事は事実よ。 その芝居を30年近く前に書いているって やっぱり凄い!と思うのよね。」

S「凄〜いかもね。」

H「凄〜いですよ。」

A「60年代後半から出てきた芝居家(しばいや)は強いわよ。唐も復活してきたし、益々芝居が楽しくなりそうね。」

S「なんか、ポロって感じだよな。」

H「僕ももっと観なきゃね。」

A「アンタたちに掛かっているのよ、これからは。観る側も責任重大なんだからね。決してブームだけに踊らされないように!」

H&S「ハ〜イ!はははは・・・。」

おわり


*今回紹介したお芝居は、
1)野田地図 <走れメルス> 
      シアター・コクーン
      2005年1月30日まで上演中

以上です。どうぞ、足をお運び下さいね。


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