<やっぱり良かった!>の巻

のりピー(以下N)「いやぁ〜、全く解りませんでしたよ。アキさん解りました?」

あき(以下A)「う〜む、まあ、解らなくて当たり前かもね。」

N「え?それってどういう事です?」

A「あれね、アッシ昔観た事あるんだけどね、その時も解らなかったのよ。 何しろ原作が尾崎翠の<第七官界彷徨>を基に作っているじゃない。」

N「誰です?尾崎翠って。」

A「アッシもほとんど知らないんだけどね。林芙美子や吉屋伸子の時代に書いていた人らしいんだけど、 病気が悪化した事もあったみたいで突然筆を折って、郷里の鳥取に帰ってからはひっそりと暮らしていたみたいなのよ。だからさ、晩年は、ほとんどの人が彼女を知らなかったのね。」

N「オイラも初めて聞きましたよ、その名前。」

A「でしょ。アッシだって、もう17〜8年前に、この芝居の初演を観た時に、尾崎翠の名前を初めて聞いたんだもの。 それに、もう亡くなってから30年以上も経っちゃっているしね。この芝居がなかったら、尾崎翠の名前を何時聞く事やら、 ってなくらい山の彼方に行っちゃった人かもね、アッシにとっては。」

N「それにしても、何がなんだか、本当に解りにくい舞台でしたよね。」

A「そうね。でもね、アッシ、嫌いか、って言ったらそうでもないのよ。むしろ好きな方かもね。・・・あっ、のりピー、 喫茶店あるから、あそこに入って話さない?」

N「いいですね。・・・ああ、あの喫茶店ですね。ちょっと高いので有名な。」

A「それがさ、最近お安くなっちゃったのよ。」

N「安くしたんですか?」

A「まあ、なんて言うのかしらね。安くしたんでしょうね。実際は値段が変わった訳じゃないんだけどね。」

N「値段が変わった訳じゃないのに安くなったんですかぁ〜?」

A「そうなのよ。ほら、前は一杯¥1050だったじゃない。それがね、今はポットサーヴィスになったのよね。」

N「ポットサーヴィス?」

A「そうなのよ。だから二杯飲めるってわけ。」

N「それじゃ、まるでお徳ですね。」

A「そうでしょ。」

ボーイ(以下B)「いらっしゃいませ。メニューでございます。」

N「アキさん、何にするんですか?」

A「アッシは何時もモカなんだけど。」

N「ストレートコーヒーなんですかぁ。う〜む、オイラは・・・っと、キリマンジャロにしようっと。」

B「お決まりですか?」

A「それじゃ、モカとキリマンジャロお願いします。」

B「かしこまりました。」

N「だけど、ちょっと気取ってませんか?この喫茶店。前からそうでしたっけ?」

A「そうよ。でも大丈夫。よっぽど大きな声で話したりしてなきゃね。気取ってみえるだけよ。普通に接客してるだけでしょ。 まあ、今の世の中、色々乱れてるからごくごく普通の事をしていても、逆に違って見えるのかもしれないわね。」

N「そういうものなんですかね。・・・で、さっきの話の続きなんですけど、 そんなに嫌いじゃないかもって言ってたのはどういう事なんです?」

A「まず、あの始めのシーンね。」

N「あ〜、あの老婆が骸骨とやり取りしていたシーンですね。」

A「そうそう。死の世界に足を踏み込む直前の何とも不思議な世界。夢とも現実ともつかないあの世界、 あの場面。のっけからいい!って言いたくなちゃったわよ。」

N「あれね。オイラはざっぱり。」

A「それに、複雑に絡み合ってる物語り。あっちがこっちで、こっちがあっち、ってな感じでさ。」

B「お待たせいたしました。モカの方は?」

A「はい、わたしです。」

B「こちらがキリマンジャロでございます。ごゆっくりお過ごしください。」

A「はい、ありがとう。」

N「本当だ、ポットですね。」

A「ね、お徳でしょ。」

N「話を戻しましょう。で、その複雑に絡み合い過ぎてオイラにはまるでさっぱりだったんですよ。」

A「あっ、そう。」

N「でも、なんかテーマっていうのかな、その複雑に絡み合ったドラマの中に見えてくる物はあったような気がするんですけどね。」

A「何なに?」

N「なんて言うのかなぁ〜、<恋>とでも言えばいいのかなぁ〜。」

A「その通り!だとアッシも思うわよ。あの複雑に絡み合った物語りから出てくる物は、やっぱり<恋> に他ならないと思うわね、アッシも。」

N「でも、本当に複雑過ぎですよ。もっと簡単で解り易くしてくれればいいのに。」

A「だからさ、さっきも言ったじゃない。原作が解りにくいんだから。まあ、仕方ないんじゃないの?」

N「そうそう、話は変わりますけど、アキさんのホームページのCD紹介で、確か年末だったと思うんですけど、 そこで紹介していた映画<五線譜のラヴレター>、やっと観て来ましたよ。」

A「良かったんじゃない?ねえ、どうだったのよ。」

N「アキさんは勿論ご覧になってるんですよね。」

A「もち、とっくにね。」

N「あれは解り易くて、本当に良かったです。」

A「いい映画よね。アッシも好きだわね、あの映画。元々コール・ポーターの音楽がとっても好きだったって事もあるけど、 あの映画のテーマになっているのは<愛>よね。」

N「色々な愛の形を見せてくれましたよね。夫婦愛、子供へ対する親の愛、音楽に対する愛、男同士の愛、 男とか女とかを越えた愛。本当に解り易くて良かったですよ。」

A「特にアシュレイ・ジャッドが良かったわね、妻のリンダを演じた。」

N「あ〜、あの人ですね。前にマリア・カラス演った人ですよね。」

A「違うわよぉ、あれは。マリア・カラスを演ったのは、ファニー・アルダン。コール・ポーターの妻リンダを演ったのは、 アシュレイ・ジャッド。ちょっと似ているかもしれないけど、ファニー・アルダンより上品な感じがするわよね。 口の大きさかしらね、それってきっと。」

N「ほらほら、コール・ポーターが告白するじゃないですか、ゲイである事を。」

A「まあ、はっきりとは言わなかったけどね。」

N「でも、リンダが言いますよね、<独立したカップルとして夢を叶えましょう>って。もう、あ〜んってな感じでしたよ。」

A「のりピーってロマンチストなのね。でも、いい場面よね、あそこも。」

N「それに、あの豪華な歌手たち。ちょっとだけの出演だけど、流石ですよね、あの人たち。大物揃いでしたよね。 エルヴィス・コステロ、シェリル・クロウ、アラニス・モリセット、ダイアナ・クラール、ロビー・ウィリアムズ。」

A「それにナタリー・コールにマリオ・フラングーリス。あとほら、シンプリー・レッドのヴォーカルの、 ・・・何だっけ?・・・あっ、そうそう、ミック・ハックネルよね。ふてくされて歌って見えた ダイアナ・クラールが面白かったけどね。」

N「でも、本当に豪華そのものでしたよね。ケヴィン・クラインも歌っちゃうし。」

A「そうか、のりピーは知らないんだ。彼って、ミュージカルでトニー賞も獲っているのよ。それも、主演、助演の両方で。」

N「へ〜、そうなんですか。それで、あんなに沢山歌ったんですね。」

A「そうね。コール・ポーター自身も自分で自分の曲を吹き込んでいるしね。ほら、 最後に流れるじゃないポーターの歌声が。<You're the top>だったかしらね。」

N「あれ、本人なんですか?やけに古い録音だとは思っていたんですけど。」

A「まあ、そんなに上手ではないけどね。アッシね、あの映画のもってき方が結構好きなのよ。」

N「もってき方ですか?」

A「そうそう。もう死を間近にしたポーターを謎の演出家が誘って、彼自身の半生を観せるじゃない。 ああいう作り方、好きなのね。」

N「そういえば、あの演出家って有名なんですか?結構重要な役でしたよね。」

A「あの人はね、ジョナサン・プライスっていってね、イギリスの演劇界ではとても有名な人なのよ。 ストレイト・プレイ、ミュージカル、なんでもござれの人で、トニー賞も獲ってるのよね。」

N「へ〜。何か有名なのかな、っとは思ったんですけどね。でもアキさんのところのCD紹介見てなかったら、 行きませんでしたよ、きっと。見といて良かった。で、観たら思いましたもんね、やっぱり良かったって。」

A「それはそれは良かったでございましたわ。・・・あら、もうこんな時間だわ。話していると時の経つのは本当に早いわよね。 そろそろ行きましょ。」

N「そうですね。アキさんも仕事がある事ですし。」

A「ごちそうさまでした。」

B「有難うございます。お会計はご一緒で宜しいでしょうか?」

A「はい、一緒にして下さい。」

B「それではご一緒で、2100円でございます。有難うございました。またお越し下さい。」

N「ごちそうさまで〜す。」

A「それじゃ、またね。時間があったらお店にも顔出してよ。」

N「勿論、行きますよ。いろいろ話ができて良かったです。有難うございました。それじゃ、後で。」

A「それじゃ、後でね。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。

*今回紹介した芝居・映画は、
1)宇宙堂<花粉の夜に眠る恋>
     2月13日まで 本多劇場
     2月15日 のみ かめありリリオホール
2)<五線譜のラヴレター>
     シャンテ・シネにて上映中

以上です。どうぞ足をお運び下さい。


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