<怪物だぁ〜!>の巻

けんけん(以下K)「こんばんは。」

あき(以下A)「あら、けんけん、いらっしゃい。久しぶりね。はい、おしぼり。」

K「ご無沙汰してました。」

やっチャン(以下Y)「本当に久々だよねぇ。元気だったの?」

K「まあ、何とかね。最近新橋方面ばっかり行っちゃって。どうも新宿に足が向かなくてさ。」

A「けんけんもなのね。でも、忘れないでたまには新宿にもいらっしゃいよ。で、今日は何にしようか?」

K「あっ、そうそう。注文しなきゃね。え〜と、あれ何?今月のお勧めドリンクって。」

A「今月はね、ボウモアの12年よ。スコッチね。」

Y「美味しいよぉ。ちょっとクセがあるけどね。僕なんかはまっちゃいましたからね。」

K「へ〜、新宿ってやっぱり発見があるよね。じゃあ、アキちゃん、それ頂戴。」

A「あいよっ!」

K「へ〜〜、ちゃんと計ってやってんだ。それに、なに?この氷。丸いじゃない。へ〜〜〜、ちょっと感激だよね。」

A「はい、お待たせ。」

K「あ〜、ちょっとクセがあるけど、何だろうな、この味。海っぽいよね。」

Y「そうでしょ。けんけん結構味分かるよね。僕なんか、最初はさ、何か、枯れた草みたいだね、 な〜んてアキさんに言っちゃってねぇ。」

A「まあ、感覚って人それぞれだしね。それは良いんだけど、味が分からなくなっている人が最近多くてさ。 まあ、ワインのソムリエみたいに何だか訳の分からない事は言わなくても良いんだけど、 あんまり色々な素材の味を知らないのよね、今の子達。」

Y「そうかもしれませんね。会社でもね、食事に行こうって誘うじゃないですか。で、 付いて来てはくれるんですけど、違うんですよ、食べたい物が、僕らと。何て言うんですかねぇ、 ジャンクフードに毛が生えたような物が好きなんですね。」

K「分かる分かる。和食なんて言うと、毛嫌いするもんね。たまに食べたくなるじゃん、魚とかさ。」

A「なるほどね。和食は敬遠されているかもしれないわね。美味しいのに。経験も少ないのよ。 食べず嫌いっていうの?小さい頃から親が作らないじゃない。塾とか通わせているから、 帰って来るのが当然遅くなっちゃうでしょ。だから、途中で何か食べなさい、ってお金渡すらしいわよ。」

Y「そしたら当然、定食屋なんかには入らないですよね。マックとかケンタとかですよね。」

A「そうそう。だから知らないらしいのよ、本当の料理の味が。」

K「大人の雰囲気を味わう事も少なくなってきたしね。」

A「そうね、最近ウィスキーを始めとした、いわゆる茶色のお酒がイマイチ好まれないのもその傾向に沿っているのかもしれないしね。」

K「でも、アキちゃんの所は頑固にこだわっているよね、ウィスキーにさ。」

A「まあ、アッシが焼酎弱いからね。分からないし。それより、何処でも今は焼酎だからさ、 たまにはウィスキーを勧めるお店があっても良いんじゃないかってね。」

Y「いいですよね。大人の雰囲気っていうんですかね。」

K「いいよ、やっぱり大人の雰囲気って。俺も今日、大人の雰囲気を味わって来たばかりなんだけどね。」

A「何処か行って来たの?」

K「ブルーノートにね。」

A「ディー・ディー・ブリッジウォーターね。」

K「流石だよね、アキちゃん。行って来たでしょ、もう。」

A「ほら、月曜日じゃない、休みが。丁度あそこって、月曜からだからね。 ディー・ディーのステージは楽しいしね。」

Y「僕はないんですよ、行った事が。やっぱり良いんですかぁ?雰囲気とか。」

K「そりゃ良いよ。さっきも言った通り、大人の雰囲気があるからさ。ねえ、アキちゃん。」

A「そうね。アッシは、六本木にある、スウィート・ベイジルの方が少し好きだけど、 ブルーノートもとても良い所よ。」

Y「ここもちょっと大人の雰囲気があるけどね。」

A「あら、ヤッちゃん、ありがとう。それじゃ、ヤッちゃんの為に、ブルーノートの再現って行きましょうかね。」

K「あるの?あのアルバム。」

A「勿論よ。これでしょ。」

K「あっ、そうそう。これですよ、これ。」

A「じゃあ、ペンギンがブルーノートになったつもりで聴いてよね。」

Y「それじゃ、その前に、ボウモアお代わり。」

A「あいよっ!・・・・はい、ヤッちゃん。」

ディー・ディーの新しいアルバム<フランスへのオマージュ>がかかる

K「そうそう。ライヴの時もこれから始まったんだよ、確か。」

A「アッシの時もそうだったわ。アコルディオンの前奏でもうフランスへの扉が開いたって感じだったわよね。」

K「そうそう。俺なんか、その前にディー・ディーお勧めのカクテルな〜んてもん飲んじゃってたから気分はもうフランスってね。」

A「あ〜、あのカクテルね。<ル・ブリュー・ブラン・エ・ルージュ>でしょ。」

K「それですよ、それ。色が綺麗だったよね。」

A「まあ、少し甘かったけどね。」

K「アキちゃんも飲んだんだ。」

A「一応ね。お勧めだもの、ディー・ディーの。」

Y「いいですよね、始まる前から雰囲気が作れるっていうのかなぁ。一度行ってみたいですね。」

K「ああ、ヤッちゃん、これあげるよ。これからのスケジュール。これでさ何か見たい物があったら予約すればいいんだから。」

Y「ありがとう!これ、リー・リトナーだよね、懐かしいなぁ。学生時代良く聴いたんですよねぇ。 リタ・クーリッジやロバータ・フラックも。セルジオ・メンデスも来るんだ。僕らの世代にはそそられる人ばかりですよね。」

K「本当だよね。でも、ディー・ディーは怪物だよね、アキちゃん。もう凄い!のひと言だよ。 英語とフランス語のチャンポンで、ステージングの素晴らしさったらも〜う。ノリが抜群にいいし、 お客さんを飽きさせないように、観客とのコミュニケーションもちゃ〜んととってるしね。」

A「そうね。だけどさ、話し掛けられたらどうしよう、な〜んて思った事ない?一番前に座っちゃうと、 良くあるじゃない、そういう事って。」

Y「いいな〜、やっぱり。僕だったら、もうドキドキしちゃって答えられないかもしれませんね。」

K「大丈夫だって。俺なんかはやっぱノリだよ、ノリ。ノリで喋っちゃうね、ステージ上の人と。 さっきも言ったけど、ディー・ディーって怪物だからさ、何にでも対応出来ちゃう訳よ。まあ、大人っていうの?」

A「酔っ払いには、適当にジョークで往なすしね。まあ、ベテランのアーチストはみんなそうじゃないかしらん。」

Y「怪物っていえば、アキさんがいつも怪優って言っている、大竹しのぶの舞台を観て来たんですよね、 この前。で、やっぱり怪優でした、彼女も。」

A「綺麗だったわよね、舞台。蓮の花が咲き乱れている池があって。同じ蜷川さんの演出した<メディア>でも、 平幹二朗でやった<王女メディア>とは全く違う舞台になっててね。」

K「取れなかったんだよね、チケット。やっぱり怪物なんだ、彼女。アキちゃんが何時も彼女の出ている芝居観る度に、 イッちゃってる、イッちゃってる、って言ってるじゃない。で、一度、舞台で観たいと思ってるんだけど、 取れないからね、チケット。平日は仕事で行けないしさぁ。ブルーノートみたいに9時過ぎから始まってくれればいいんだけどね。 そうもいかないだろうしな。」

Y「ブルーノートって、そんなに遅く始まるんですかぁ〜?そしたら僕帰れませんよね。」

A「大丈夫よ、早い時間のもあるからさ。」

Y「ああ、本当だ。7時半っていうのがありますね。これだったら大丈夫です。」

A「だけど、遅いステージの方が楽しめるわよ、絶対。後にステージがないから、 アーチストがノリノリだと何時までもやってたりするからね。」

Y「それも楽しそうですけど、僕、時間が無くなっちゃいますからね、電車の。」

A「そうか。まあ、遠かったら仕方ないわね。」

K「でさ、大竹しのぶの舞台の話にもどろうよ。どうなのよ、彼女。」

Y「ですから怪優でしたよ。色々な顔を持っているんですよね。アキさんが言ってた意味がちゃんと分かりました今回で。」

K「アキちゃんはどうだったの?」

A「さっきも言ったように、とても綺麗な舞台だったわね。大竹しのぶも、ちょっとヒステリック過ぎるかな?とは思ったけど、 何時ものように怪物だったし、生瀬勝久もなかなかだったわね。それに、今回は、コロスが全員女性だったから、 <生>を感じる事ができたわよ。まあ、それが良かったかどうかは別にして、確かに<王女メディア> のときよりも現実感があったわね、台詞のひとつひとつに。」

K「へ〜、やっぱり違う物なんだなぁ〜。」

Y「最後の龍を形どった馬車も凄かったですしね。それに、後ろの扉が開けられると、そこには現実があって。 あの演出は良かったですよ、ねえ、アキさんもそう思いませんでした?」

A「アッシはね、あれが、この芝居の全てをぶち壊したんじゃないかって思っているのよ。」

K「ヤッちゃんとは全然違う意見だね。」

A「最近、って、ここ数年、蜷川さんの演出には、そういう事で疑問を持つ時が多いのよね。例えば、今度再演する、 三島由紀夫の<近代能楽集>の中の<弱法師>の最後のシーンなんかもそうなんだけど、何故? これをしなきゃいけないのかが分からないのよね。今回の扉を開けるのだって、アッシらからしてみたら、 もう40年も前から唐十郎がやってきた事で新しくも何ともない訳よ。そこに理由があればいいけどね。 確かにヤッちゃんが言っていたように、今まで観て来た芝居が、それは芝居なんだって、でも、現実は今、 そこにあるんだよ、っていう意図は分かるのよ。でもさ、さっきも言ったけど、何でもかんでも、やれば良いってものでもないでしょ。 今回、あの扉を開けた意味がアッシには分からなかったわね。折角の良い舞台だったのに、 最後の最後でメチャクチャにされたようでね。」

K「結構、怒ってるよね。でも、役者は良かったんだ。」

A「良かったわね。大竹しのぶは、ディー・ディーと同じくらい怪物だし、生瀬も、吉田鋼太郎も、松下砂稚子も。 勿論、コロスもね。」

K「あっ、これこれ。ラ・メール。この曲の時だよ、みんなさ踊っちゃって。ノリノリでさ。でもね、 前に相当乗っちゃって疲れたから今日はこの辺りで止めとくみたいな事言ってさ、まあ、本当に疲れてたみたいだったけど、 もっとノリノリで止めてほしくなかったんだけどね。」

A「そのさ、疲れた日って、もしかしたら、アッシが行ったその日かもしれないわ。普通は一時間じゃない、 ああいうステージって。でもね、初日のセカンドステージだったんだけど、2時間もやってくれちゃったのよ。 それでかもね。足痛いって。みんなクレージーだって言っていたからね。」

K「それだよ、きっと。でも、怪物だね、ディー・ディーも大竹しのぶも。」

Y「それに、けんけんもね。」

K「えっ?!・・・・・。」

一同「はははは・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したステージは、
1)ディー・ディー・ブリッジウォーター
         公演終了
2)メディア       シアターコクーン
        5月28日まで
3)近代能楽集     彩の国さいたま芸術劇場
        6月1日〜19日
以上です。どうぞ足をお運び下さい。


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