<複雑な関係>の巻

タケちゃん(以下T)「本当に美味しいよね、このボウモア。もう一杯お代わり下さい。」

あき(以下A)「あいよっ!・・・ね、癖になるっていうの?本当においしいわよね。」

フジ子(以下F)「今晩は。ご無沙汰してました。」

A「あら、フジ子、いらっしゃい。元気だった?心配してたのよ、連絡もないしさ。アッシって、こっちから連絡しないじゃない。だから何時も待ってるだけだしね。でも、元気そうで良かったわよ。はい、おしぼり。」

F「有難うございます。色々あって。ちょっと出て来たくなかったんですよ。」

A「あっそう。で、フジ子は何にしようか?」

F「え〜と、今日は久しぶりだからタンカレーのテンをロックで。」

A「あいよっ!」

T「フジ子、久しぶりぃ!」

F「あらタケさん。・・・今晩は。」

A「はい、お待たせ。」

F「久しぶりですね。元気してました?」

T「うん、元気だよ、オイラは。フジ子も元気そうじゃん。」

F「そうね、まあ元気・・・かな?」

A「あら、まあなんて。暗い顔はアンタには似合わないわよ。明るく明るくね。」

F「そうですよね。でも、暗い顔っていいましたけど、自分の事じゃなくて、今日見た映画を思い出しちゃったんですよ。」

T「相変わらず映画好きなんだな。で、何見たんだよ、今日は。」

F「今日ね、<バッド・エデュケーション>を見てきたんです。」

A「あ〜、そう。いい映画よね、あれ。」

F「そうなんですけど、ちょっぴり悲しくなっちゃって。」

T「本当に女の子なんだから、フジ子は。でもさ、いい映画だったよな、本当に。」

A「タケちゃんも見たんだ。」

T「勿論だよ。ほら、あったじゃん、試写会がさ。それでね。もうひと月以上前になるよなぁ〜。あんまり覚えてないんだけど、良い映画だったっていう記憶はあるんだよね。映画監督の所にやってきた昔の同級生が実はその弟で、その実際の兄貴は性転換までして麻薬中毒で、何たらかんたら・・・っていうんだったよな。」

A「まあ、そんな物かしらん。」

F「でもね、複雑でしたよね。現実か虚構か。目まぐるしくて。どれがどうで、どうなってんの?みたいな。」

A「確かにね。でも、良く出来た映画だと思ったわよ、アッシはね。タケちゃんの行った試写会にアッシの知り合いも行っていたんだけど、まあまあかな?な〜んて言ってたから、アッシも期待しないで行ったらさ、良いじゃない。流石は<オール・アバウト・マイ・マザー>や<トーク・トゥー・ハー>を撮った監督の作品だなって思ったものね。」

T「何となく記憶が甦って来たかも。あれだよね、映画を撮るんだよね、確か。」

A「そうそう、その映画監督が同級生と偽って来た実際にはその弟の脚本をね。」

T「で、撮り終わる頃にその本の中に出てくる神父の実物が出てきて・・・。あ〜、そうそう。思い出した。複雑だよ。いっぺんには理解出来なかったもんな。」

A「いらっしゃ〜い。あら、ぼんちゃん(以下B)いらっしゃいませ。」

B「こんばんは。ビール頂戴。」

A「あいよっ!」

B「あれ、フジ子もタケもいるんだ。」

F&T「こんばんは、ぼんさん。」

A「なんか、ぼんさん、とか言われちゃうとお坊さんみたいよね、ケケケケケ・・・。で、珍しいわね、こんな平日に。」

B「まあね。芝居の帰りなんだよ。一杯引っ掛けてから帰ろうかな、って思ってさ。」

A「何ご覧になって来たの?」

B「今日はね、<桜姫>。」

A「あ〜、コクーン歌舞伎ね。」

F「コクーン歌舞伎って、勘九郎が勘三郎になっても続いているんですね。」

T「フジ子さ、今回は勘三郎は出てないの、っつうの。」

F「あっ、そうなんですか。」

T「で、ぼんさん、どうだったんです?<桜姫>は。」

B「う〜ん、そうだね、福助はやっぱり若いかな?」

F「でも、ぼんさん、福助さんて、もう40はトウに越してますよね。」

A「馬鹿ね、あんた。若いってのはさ、演技よ、演技。演技が若いっていう事なのよ。」

F「あっ、そうなんですか。」

T「まあ、フジ子もこれでまた一つ勉強になったよな。」

A「何言ってんのよ。タケちゃんも分からなかったんじゃないの?本当は。」

B「まあ、タケの頭じゃ、分からないだろうなぁ〜、本当のところ。はははは・・・。」

T「ぼんさん、意地悪は止めてくださいよぉ〜。」

F「で、ほかの役者さんは?」

B「そうだね、橋之助はまあまあだったな、今回も。あとさ、七之助の立ち役が以外に良かったよ。」

T「アキちゃんは行ってないの?まだ。」

A「アッシは初日に伺ったのよ。やっぱり雰囲気が違うじゃない、初日って。」

F「どんな風にですか?」

A「なんて言うのかしらん。梨園の奥方たちが勢ぞろいしてお客様を迎えてたり、何て言うのかなぁ〜、華々しいっていうの?そんな感じよ。」

F「へ〜。いいですね、雰囲気。行ってみたいわね、初日。でもチケット取るのが難しそうだわね。」

B「まあ、一般的には、初日、中日、千秋楽は切符取るのは難しいんだよ。」

T「で、アキちゃんはどうだったのさ、<桜姫>。」

A「アッシもやっぱりね、ぼんちゃんと一緒で福助はちょっと若いと思ったわね。何しろ、前に観た時がジャッキー(中村雀右衛門)の時だったからね。もう相当前の事だから。」

T「そうか、アキちゃん最近は歌舞伎座では歌舞伎観に行ってないんだっけ。」

F「何で?」

A「まあ、話すと色々あるんだけどさ。歌舞伎って大衆芸能じゃない。で、その大衆を相手に興行うっているのに、夜の部が始まるのが夕方4時半なのよ。ね、誰が行けるの?って思わない?それでね・・・。」

T「まあ、丁度その時、俺も居たんだけど、歌舞伎関係の人がいてさ、アキちゃんたら、内部からそういう所を変えなきゃ本当の意味での大衆演劇にならないんじゃないか、みたいな事言って、ね。」

A「まあ、その何て言うか、ものの弾みで、それだったら二度と行くかぁ〜!みたいなこと言っちゃったのよね。それから歌舞伎座には行ってないのよ。まあ、野田の演出したものには行ったんだけど。」

F「アキさんも頑固ですからね。」

B「でもさ、アキは元が好きだからね。国立劇場とかには行ってるんだよ、同じ時間なのに。」

A「やだぁ〜、ぼんちゃんたら。まあ、そういう事よ。で、コクーン歌舞伎には行っているのよね。」

T「で、話を戻して、どうだったの?」

A「そうね、今回やっぱり扇雀が演じた、局・長浦が最高に良かったわよ。何しろお局様っていう感じが良く出ていたし、追放されてからの長浦がまたいいのよ。コミカルだし、ババアっていう雰囲気が凄く出ててね。」

B「確かに扇雀は良かったな。まあ、役が良かったともいえるけど。儲け役だな、あれは。」

A「しかし変な話よね。」

F「何がどう変なんですか?」

A「だってさ、お姫様が女郎にまで落ちちゃうのよ。それも吉原じゃなくて小塚原よ。」

T「吉原っていうのは有名だから聞いた事があるけど、小塚原ってのは聞いた事ないな。どう違うのかな?」

B「まあ、新宿2丁目とゴールデン街の違いみたいなもんだよな、分かり易く言えば。」

F「それって、公認か、非公認か、って事なのかしらん。」

A「そうそう。フジ子良く知ってたわね。」

F「前にちょっと聞いた事があるんですよ。2丁目が青線で、ゴールデン街が赤線だったって。」

A「逆よ、逆。こっちが赤で向こうが青よ。」

T「あっ、そうだったんだ。で、その小塚原っていうのは青線の方なんだよな、きっと。」

A「そうそう。」

B「だから分かるだろ。吉原じゃなくて小塚原に身を落としたって事はさ、凄い衝撃的な事な訳よ。」

F「なるほどねぇ〜。」

B「まあ、変な話といえば、それもそうなんだけど、お姫さんが腕に彫り物をしているのも凄いはなしだよな。」

A「本当にね。それも、屋敷に盗賊が入って、その盗賊に操を奪われた姫君が、その男の肌が忘れられなくて、その盗賊が彫っていたものと同じ彫り物をしてしまうっていうんだからね。」

B「まあ次から次へ複雑な関係がこれでもか、これでもか、っていうほど出てくるしな。面白い話だよ。」

A「本当ね。あの時のあれがこうで、この時のこの人が実はその人だったってさ。」

F「なんか、くすぐられますね。」

T「それに何時も思うんだけど、コクーン歌舞伎って、観客と一体になってる気がするよな。」

B「まあそうだよね。歌舞伎のテント版、平成中村座もそうだけど、本来歌舞伎ってのはさ、大衆芸能なんだから。ひとつには伝統芸能って事で、残さなきゃいけない事も大事だけど、時代によってどんどん新しくなっていくっていうのも必要だからね。」

T「凄いっすね、ぼんさん。」

F「本当ね。流石は年の功ね。改めておみそれしました。」

リンダ(以下R)「こんばんは。」

A「あら、リンダいらっしゃい。」

R「みなさんお揃いね。こんばんは。今日はアタシブランデーの水割りにしようっかな?」

A「あいよっ!」

B「あきちゃん、それ作ったらお暇するわ。」

A「はい、分かりました。もうこんな時間だもんね。はい、リンダお待たせ。」

R「ありがとうぅ。」

A「それじゃ、ぼんちゃん、今日は1300円です。6月から100円上げさせてもらっちゃったんで、すみませんね。」

B「あっ、そう。はい、じゃあこれで。」

A「2000円のお預かり。700円のお返しです。有難うございました。」

B「それじゃ、おやすみ!」

F「じゃあ、あたしも帰ろうかな。おいくらですか?」

A「帰るの?フジ子。それじゃね、フジ子は1500円です。」

F「はい、じゃあ丁度で。」

A「どうも有難うね。またね。おやすみぃ!」

R「タケさん、こんばんは。元気でした?」

T「まあな。リンダも元気そうじゃん。」

R「うん、まあまあね。でもアタシ、ドキドキしちゃったわ、このメンバー。ね、タケさんもそうでしょ。」

A「何よ、タケちゃんもって。」

T「余計な事喋らなくていいんだよ。」

R「あら、ごめんなさ〜い。でもさ、別れても和気あいあいなのって良いわよね。みなさんほ〜〜んとに仲がよろしくて。」

T「おだまり!!!」

A「あら、そうだったんだ。今までここも複雑な関係だったのね。」

T「まあ、色々あるさ。」

A「そうよね。人生色々。男も色々ってね。でもリンダさ、あんまり人の事は言わない方がいいわよ。アンタだって言われちゃうんだからね。」

R「そうだったわ。口は災いのもとですからね。ご免ね、タケさん。」

T「まあいいって事よ。それじゃアキちゃん、もう一杯ボウモアをロックで。」

A「あいよっ!」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介した映画・お芝居は、
1)バッド・エデュケーション
    テアトルタイムズスクエアでレイトショー中
2)コクーン歌舞伎<桜姫>
    6/26まで。シアター・コクーン
以上です。どうぞ足をお運び下さいね。


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