<バレてるぅ〜!>の巻

バンちゃん(以下B)「これなんだぁ〜、ちゃんこって。」

あき(以下A)「アッシも初めてなのよ、ちゃんこって。」

ゆき(以下Y)「でもさ、これって、ただの・・・。」

A「寄せ鍋って感じよね。」

Y「そうでしょぉ〜〜〜。絶対にそうよねぇ〜〜〜。」

仲居さん(以下N)「失礼します。もうそろそろ食べられますよ。どうぞ、どうぞ。」

B「もういいんですか?これで。お姉さん、この鍋って鶏肉なんですね。」

N「はい、そうなんですよ。鳥は二本脚で立っていますでしょ。お相撲さんは鳥しか食べないんですよ。 それではごゆっくり。ご用がありましたらこのベルを鳴らして下さいね。失礼します。」

Y「ちょと、ちょっと。鳥しか食べないんだってさ、お相撲さんって。アキちゃん知ってた?」

A「うん、知ってたわよ。二本脚だからでしょ。」

B「何でですか?二本脚だから鳥しか食べないって。」

A「あんた達、何寝言いっているのよ。鳥は二本脚。ね、二本脚で立っているのよ。分かるぅ〜?」

Y「だからぁ〜?」

A「まだ分かんないの?だからさ、相撲って、足の裏以外が土俵に着いたら負けでしょ。ね、解った?」

B「あ〜、それでですね。解りました、やっと。」

Y「あ〜、それでね。で、どうして?」

A「だからぁ〜、鳥は二本脚で立ってるでしょ。で、お相撲さんも足で立っていられる内はセーフなのよ、 土俵を割らない限り。でもね、足の裏以外が土俵に着いたら負けるでしょ。ね、手とか、肩とか、膝とかさ。 だからぁ〜、鳥みたいに二本脚でず〜〜〜〜っと立ってられるっていう所に縁起を担いだってわけよ。ね、解った?」

Y「あっ、そういう事なのね。ちゃんと説明してくれればいいのにね、あの仲居もさ。きっと京都の女だわよ、 あの仲居。もうイケズなんだから。」

B「ゆきさん、そんなに怒ってないで食べましょうよ、ちゃんこ。」

Y「そうね、食べましょ、食べましょ。」

A「結構美味しいわね、ダシも良く採れているいるしね。ところでさ、どうだった?今日の芝居。」

B「僕ですね、正直言って解らなかったです、何がなんだか。」

Y「アタシも理解不能だったわ。<四谷怪談>って、これなの?って感じだったわよ。アキちゃんは解ったのかしらぁ〜?」

A「まあ、ちょっと難しかったけどね。変わってて面白かったわ。」

B「面白かったんですか?へ〜〜〜、アキさんってやっぱり見方が違うんですかね、僕と。」

A「当り前じゃないのよぉ〜。そんなの見方なんかみ〜んな違うわよ。で、 バンちゃんやゆきはどんな所が解らなかったのかしら?」

Y「まずさあ〜、最初の所よ。四谷怪談でしょ。あの舞台美術。地下鉄のホームじゃない。ビックリ!しちゃったわよね。」

A「素晴らしかったじゃないの、あの舞台美術は特筆すべき物だったわよ。あの狭い奥行きを、 あんなに深く見せてる。それだけだって素晴らしいのに、あの奥のトンネルから何が出てくるのかもとっても楽しみだったわよ。 渡邉和子って流石だわ。今回の舞台のハイライトは、あの舞台美術だったと言っても過言じゃないわね。」

B「その後エレベーターから出てくるじゃないですか、何か訳の分からない女が。いつもオドオドしていて、 本か手帳かを持っていて。あれは四谷怪談には出てきませんよね、確か。」

A「そうね。だからね、アッシはさ、こう考えたのよ。あの女は勿論架空の登場人物なんだけど、 この物語を見つめている女。そうね、ストーリーテーラー的な役割を持っている女なんじゃないかしらってね。」

Y「あら、そうだったのぉ〜?あれって架空の登場人物だったのね。」

B「えっ?ゆきさん知らないんですか?四谷怪談。あんな女出てきませんよ。」

Y「あら、悪かったわね。アタシだって知ってますよ、四谷怪談。お岩さんが毒盛られて凄い形相になっちゃうんでしょ。 殺して殺されて化けて出てって、ゴチャゴチャした話よね。何て言ったっけ?あの男。お岩の旦那。」

A「伊右衛門よ。」

Y「そうそう、伊右衛門、伊右衛門。伊右衛門さまってね。」

B「伊右衛門?だったらあのCM、本木が伊右衛門だから、宮沢りえがお岩って事ぉ〜〜〜?!」

A「まあ、それは分からないわね、制作会社に聞いてみないと。でさ、話を戻すとさあ、あの吉行和子さんの演った女は、 さっき言ったストーリーテーラー的な所もあるんだけど、もうひとつ、彼女が四谷怪談の文庫本を読んでいる設定で、 彼女の頭の中に描かれた四谷怪談が舞台で進行している、とも考えられるわって。」

B「へ〜〜〜。やっぱり違いますね、見方が。僕なんて、そんな事全く思わなかったもんねぇ〜。でも、考えてみると、 アキさんの言った今の考えって当たっているかもしれませんね。だってさ、四谷怪談って、あの人数じゃあ足りないし、 あの女がいる事によってその辺りを補っているのかも、って考えたら納得できますよね。」

Y「あら、バンちゃん、結構分かってきちゃったみたいじゃな〜い。アタシ、やっぱりまだまだ理解不能よぉ〜。 格好は現代で、台詞は江戸時代そのままでしょぉ〜。」

A「そうだったわね。あれが分かりにくい舞台を更に分かりにくくしていたかもね。でもさ、アッシが言った、 あの女が本を読んでいて、彼女の頭の中で繰り広げられている物語りだっていえば、 何となく納得出来るんじゃないかなって思うんだけど。」

N「失礼します。お飲み物、まだ大丈夫ですか?よろしかったらお持ちしますけど。」

Y「ああ、それじゃあ俺は焼酎のお湯割り持ってきて。バンちゃんやアキちゃんは、何にするの?」

A「それじゃ、ビールをもう一本。」

B「僕もビールで。」

N「はい、ただいまお持ちしますね。どうですか?お鍋の方は? 大分進んでおられるみたいですから次の牛肉お持ちしましょうね。」

A「お願いします。」

N「はい、それではお持ちいたしますね。失礼しました。」

Y「ちょっと、ちょっとぉ〜。なによ、さっきはちゃんこって二本脚だから鳥だけだって言ったじゃないのよ。 なんなのよぉ〜、牛肉も有るんじゃないのよぉ〜。」

A「そうね、有るみたいね。」

B「でも、どうしちゃったんですか?ゆきさん。急に男っぽくなっちゃって。俺は焼酎のお湯割りで、だって。 変ですよぉ〜、吹いちゃう所でしたよ。」

Y「あら、バレちゃいけないかなって。まあ、良いじゃないのよぉ〜。」

N「失礼いたします。お酒お持ちしました。あと、鍋にもう入れてもよろしいですよね、牛肉。はい、 それではまた何かありましたらこちらのベルでお呼び下さいね。失礼いたしました。」

Y「え、また用があったら呼ぶから。それにしても美味しいね、このちゃんこ。 今までで一番美味しいかもな、ははは・・・・・。」

N「あら、そうですか。有難うございます。それでは失礼いたします。」

B「なんですか、ゆきさん。今までで一番美味しいって、ちゃんこ食べるの初めてじゃなかったっけ? いい加減にして下さいよ、ふざけるのも。」

Y「なんかさ、癖よね、癖。ついつい普通の所じゃ男ぶっちゃうのよねぇ〜。 まあ、いいじゃないの、バレちゃうよりねぇ。」

A「まあ、そうね。でも、もうとっくにバレていると思うけど。」

B「話を戻しましょうよ。確かにあの女が本を読んでいる設定で、 彼女の頭の中で描かれた四谷怪談の世界が舞台上に現れている。そう思えば納得ですね。」

Y「あら、アタシはまだまだ解らないわよぉ〜ん。そうそう、でもね、ちょっと聞きたいんだけど、 前半と後半でエレベーターが着いた時のベル音が違ってたじゃないねえねえ、分からなかったのかしら〜ん?」

A「それはね、アッシもおかしいな、って思ってたのよ。」

B「僕も変だなって。」

Y「あら、気が付いてたのね、ザンネ〜〜〜ン!」

B「あれは気が付くでしょ。全く違ってましたもんね。」

A「でも、本当に理解不能の場面が多かったわね。演出家に聞いてみないと分からない事が多過ぎたかもね。」

Y「演出家って誰なのぉ〜?」

A「ヨッシ・ヴィーラーっていうドイツの演出家よ。」

B「ドイツの演出家って馴染みがあんまり無いから良く分からないんですけど、有名な人なんですか?」

A「最近はオペラ演出で凄く有名よね。ザルツブルグでは年間最優秀上演作品賞も獲っているしね。」

Y「あら、そんなに有名な人だったのね。なんか、舞台を見てるだけではアタシにはサッパリ、だわね。」

B「僕もそこまで凄いとは思いませんでしたよ。あれが芸術ってやつなんですかね。」

A「まあ、その辺りはどうなのか、アッシにもちゃんとは分からないけど、最初に言ったように、 アッシにとっては結構変わってて面白かったのは事実ね。役者がもったいない気も少ししたけど。」

Y「アタシねえ、吉行和子以外、全く知らないのよ。あんまり有名じゃないわよね、みんな。」

A「そんな事ないのよ。まあ、吉行さんは、TVにも出ているから知っているわよね。あとね、 宅悦を演ったヨシ笈田は、ピーター・ブルックと活動を30年以上に渡ってやっている演劇の世界ではとっても有名な人だし、 お政を演った新井純は、昔、黒テントにいた主演女優で賞も獲ってるアングラ演劇全盛時代のスターの一人だしね。」

B「黒テントって、斎藤晴彦のいる、あそこですか?」

A「そうよ、あの劇団。あとさ、数年前に話題になった北区つかこうへい劇団。 あの最初の頃の公演に良く出ていた吉田智則とかさ。そうそう、それに、北島三郎の娘、 水町レイコも出ていたわね。」

Y「あら、何演った子かしら?」

A「北島三郎の娘?あれはね、お袖よ。吉田君は与茂七ね。」

Y「でもやっぱり内容が良く理解出来なかったら知っている人が出ててもねえ、イマイチじゃな〜い、 と思うんだけどぉ〜、ねえ。」

B「ドイツ人演出家の作品をもっと見なきゃ。」

A「ヨッシ・ヴィーラーはドイツ人じゃなくてスイスで生まれているのよ。でも活躍の場はドイツ語圏。 アッシね、この舞台、日本では結構難しいって受け取られると思うけど、ヨーロッパの人達には受け入られると思うのね。 ほら、今年は演劇の世界では日本におけるドイツ年じゃない。もう既にいくつか公演が終わっているけど、 一つでも観た人は日本とドイツの演劇全体の表現方法の違いに結構驚いたんじゃないかと思うのね。」

Y「そうよね、きっと。四谷怪談を演出した人が今のドイツを代表する演出家だとしたら、 ドイツの演劇をアタシ達平均的な日本人が観たらチンプンカンプン。慣れなきゃいけない気もしてきちゃった〜ぁ。」

A「平均的日本人ってのもちょっと疑問だけど、まあいいとして、慣れる必要はないのよ。こういう演出もあるんだな、 って思えば良いんじゃないかしら。」

B「そうですよね。こういうのも有るんだって思えばね。これからもドイツの演出家がやる舞台ってあるんですかね?」

A「そうね、これからだったら〜・・・。あっ、そうだ。tptであったわよ、確か。え〜と、ああ、そうそう、 これだわ。三島由紀夫の近代能楽集から<道成寺>。中島朋子、大浦みずき、塩野谷正幸らの出演ね。」

Y「ちょっと怖いもの見たさで行ってみようかしらぁ〜。ねえ、バンちゃん、一緒に行かな〜い?」

B「そうですね、行きましょうか。」

Y「それじゃ、決まりっ!アキちゃん、チケット頼めるぅ〜?出来たらお願いよぉ〜ん。」

A「大丈夫よ、ここだったら。二枚ね。日にち早く決めといてよ。」

Y「それじゃ、どんどん飲みましょうよぉ〜ん。ねえ、ねえ、お姉さ〜ん、お酒足りないわよぉ〜! どんどん持ってきてちょうだ〜い。あら、まだこんなに牛肉が。ねえ、食べましょうよぉ〜ん。追加する? お肉。追加しましょ、追加。ねえ、ねえ、お姉さ〜ん、お肉もお願いよぉ〜〜〜ん。」

A「ゆき、ゆき。あんたオネエさんになってるわよ。」

Y「あら!!!!いやぁ〜だぁ〜。・・・・・ちょっと、ちょっと、酒、酒、それに肉、肉が足りな〜い!」

B「もう遅いですよ、ゆきさん。」

Y「まあ、いわよね。」

一同「ははは・・・・・・。」

N「は〜い、お呼びですか〜?」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)四谷怪談    公演終了
2)近代能楽集の内<道成寺>
    8/20〜9/4  ベニサンピット
以上です。どうぞ、足をお運び下さい。なお、<四谷怪談>のこのプロジェクトは、本年12月にベルリンで、 来年にはドイツ各所を巡演する予定になっています。もし、そちらに行かれる方がおりましたら、そちらでもどうぞ。


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