<勉強してるぅ〜〜!>の巻

あき(以下A)「ちょっと待っててね、今すぐに開けるから。」

ごん太(以下G)「すいません、急がしちゃって。」

A「大丈夫よ、もう準備は出来ているんだから。ちょっと待っててね。これだけ片付けてからね。 ・・・・・は〜い、お待たせしました。はい、おしぼり。」

G「アッチチチ・・・。」

A「ら、ごめん、ごめん。熱かったわよね。ほら、ず〜〜っと温めておいたじゃない。もう3時間くらいになるわね。」

G「アキさん準備してから行ったんですね、お芝居。さすがだなぁ〜。」

A「当り前じゃないのよ。それじゃ、ごん太は何にしようか?」

G「そうだね、今日はお勧めのワイルドターキーのライをロックで。」

A「あいよっ!」

G「でも、面白かったですよね、<プロデューサーズ>。あんなに面白いとは意外でしたよ。」

A「はい、お待たせ。ねえ、結構楽しかったでしょ。」

マッチ(以下M)「こんばんは。あら、お邪魔だったかしら〜ん。はははは・・・。」

A「あら、マッチさんいらっしゃい。お邪魔なんかじゃないわよ。さっきまでず〜〜〜っと一緒だったんだからねぇ〜。」

M「あら、そうですかぁ!それは良ございましたわね。ビール頂戴。」

A「あいよっ!・・・・はい、マッチさん、お待たせ。今日はお通しがポテトサラダか生ハムのマリネなんだけど、 どちらにします?」

M「そうねぇ、今日は生ハムのマリネにしようかしらね。」

A「ごん太は?」

G「僕は勿論、ポテサラでお願いします。」

M「なになに、それで。今日は、二人で?どこ、どこに行ってきたんでございますの?」

G「今日はですね。それは、ヒ・ミ・ツです。ははは・・・・。」

M「なにもったいぶってっとぉ〜!コンサート?芝居?まあ、アキちゃんが行くとしたら、 そのどっちかでしょうからねぇ〜。」

A「はい、ご名答。お芝居、っていうか、ミュージカルを観て来たんでした。」

M「ミュージカル。あっそう。アキちゃんも好きだわねぇ、ミュージカル。で、何?なに観て来たのかしら?」

G「<プロデューサーズ>です。」

M「<プロシューサーズ>って、もう終わっちゃったんじゃなかったっけ?」

A「あれは来日公演でしょ。今日行ったのは日本語ヴァージョンよ。」

M「あら、日本語でもやったんだ、来日組が。ま〜〜〜ぁ珍しいわねぇ〜。だけど、良く勉強したのね、 日本語。ちょっと変な所もあったでしょ、それじゃ。」

A「何寝ぼけてるのよ、マッチさんたら。」

G「国内キャストですよ。日本人が演ったんですよ。凄いですよ、来日キャストが日本語で演ってくれたら。 だけど、まあ不可能じゃないですか、そんなの。でも、笑えますけど、マッチさんの発想って。」

A「本当よね、呆れちゃうわよね、ごん太。」

M「悪かったわね、まあ、考えてみたら、そんな事ありえない、っわねえ〜、ははは・・・・。」

A「本当にね、ははは・・・・。」

M「で、誰?誰が演ったの?日本版は。」

G「え〜と、ジャニーズ事務所の・・・。」

M「あらっ、じゃあ、アタシの後輩ねえ。」

A「マッチさん、冗談もほどほどに、ね。」

G「でも、確かにマッチはジャニーズ事務所に所属してるし。でも、マッチさんは、・・・ですよねえ。」

A「マッチでもおお違いよ、マッチさん。」

M「あら、失礼でございますわよ、その言い方。もう、飲まなきゃ。ビールお代わり!」

A「あいよっ!」

M「本当にアキちゃんは、そういう時は返事が良いんだから。まあ、でも、そうよね。アタシと一回り以上違うんだからね、 後輩のマッチは。」

G「でも、マッチさんは、何で、マッチさんになったんです?」

A「アッシも聞いた事ないわよね。で、どうしてなの?マッチさん。」

M「えっ?いいじゃないのよ、そんな事。もう些細な事なんだから。」

G「でも、聞いてみたいですよね、アキさん。」

A「そうよね、ごん太。ねえ、マッチさん、教えて下さいよぉ〜。」

M「だから大した事じゃないのよ、大した事じゃ。たださ、ほら、あの頃よ、もう25年位、もうちょっと前だったのかしらねえ、 マッチがデビューしたでしょ、<スニーカーブルース>っていう曲で。その頃、アタシもまだ30代前半でね、 それはもう持てたのよぉ〜。でさぁ、あの頃ね、嫌だわ〜、もう思い出しても吹いちゃうわね。」

A「何なのよ、もったいつけないで早く話して頂戴よ。」

M「でね、あの頃、似てたんでございますの、マッチに。」

G「えっ?マッチに似てたんですか?それじゃ、あれから随分と輪郭が変わったんですね。」

M「顔じゃあございませんのよ、顔じゃ。」

A「じゃあ、何が似てたの?」

M「ははは・・・・・。嫌ねえ〜。髪型。髪型がそっくりでねえ、みんなからマッチに似てるマッチに似てるっていわれたのよぉ〜、 その頃。」

A「ちょっと待ってよぉ〜。それじゃ、あの頃のマッチみたいな髪型にしてたんだ、マッチさんは。フッ、ははは・・・・・。 でも、似合うかも。」

M「馬鹿にしないでしょうだい。まだ可愛い可愛いって言われてたのよ、あの頃は。」

A「でも、今でも分かるわよ。何となく想像できるもの。きっとあの頃は可愛いって言われてたんだろうなって。」

G「いいですね、そんな頃があったなんて。僕なんてまるっきり無いですからね、そんな事言われた経験が。」

M「あら、そんな事ないわよねぇ、アキちゃん。ごん太ちゃんは可愛いわよぉ〜、ねえ、アキちゃん。」

A「可愛いわよ。まだ若いしね。」

G「有難うございます。でも、こんな話の中で言われてもぉ〜。」

M「まあそうね、こんな話の中で言われてもねぇ、嬉しくはないわよねぇ〜。で、話を戻しましょうよぉ。 で、そのジャニーズ事務所の誰?」

G「え〜と、井ノ原快彦と長野博ですね。」

M「で、どうだったの?二人は。」

A「頑張ってたわよね。」

G「本当にビックリしたんですよ。だって、ジャニーズって聞いただけで、アイドルだけのイメージが先行しちゃうじゃないですか。 だから、あそこまで出来るって思ってもみなかったですからね。」

M「へ〜、そんなに良かったの。アキちゃんも?」

A「そうね、イノッチはオリジナルの台本に出てくる役には若すぎるからか、それをカバーしようとしているのか、 ちょっと頑張り過ぎてたと思うけど、よく演ってたし。驚いたのは長野君ね。あんなに上手く演るなんて。 来日公演のレオ役がイマイチだっただけに、本当にビックリしたわよ。まあ、だけど、歌が二人ともね。」

M「下手だったの?」

A「まあ、そういう事ね。とっても残念なんだけど、歌がね。でも、 今回に限っていうと歌の下手さがあんまり気にならないくらい二人の演技が良かったのよね。特に長野君のね。」

M「あら、観たかったわねぇ〜。他のキャストはどうだったのかしら?」

G「僕は松金よね子の演ったホールドミー・タッチミー役がとっても良かったですね。いくつもの役を演ってたのも凄いな、 って思ったし。」

A「あの役は大変だったと思うわよ、本当に。早変わりで幾つもの役をこなすのは拍手ものね。」

M「他には?」

A「さっきも言ったけど、本当にビックリするくらい、このカンパニーは良かったのよね。ロジャー役ノ藤木孝も、 カルメン役の岡幸二郎も、まるで自分であるかのように活き活きと演じてたし、フランツ役の桑野信義(クワマン)も、 流石、元シャネルズっていうくらい歌が上手かったしね。もしかしたら、 来日したアメリカツアーキャストより良かったかもしれないわね。」

M「あら、そんなにぃ〜。お勉強してらっしゃるのよ、皆さん。」

A「本当にそうよね。勉強しなきゃあそこまで出来ないもの。拍手を送りたいわよ、今回は。」

G「やっぱりそうですよね。相当レッスンしたと思いますよ。僕も勉強しなきゃな。」

M「他に最近観た物で何かある?良かったの。」

A「最近ではね、三島由紀夫の近代能楽集の中の<道成寺>かしらん。」

M「あっら〜〜〜、三島。三島ねぇ〜。近代能楽集。好きだわぁ〜。<道成寺>、<綾の鼓>、<邯鄲>、<卒塔婆小町>、 <葵上>、<班女>、<熊野>、<弱法師>。」

A「あら、マッチさん、凄いわね、すぐ全部出てくるなんて。何かひとつくらい忘れるじゃない。」

G「全然分かりませんでしたよ。三島の近代能楽集って。そういえば、前にここでポスター見たかもしれないけど。え〜と、 何だっけ?あれは、・・・。」

A「美輪さんのポスターじゃない?<卒塔婆小町>と<葵上>。」

G「う〜む、三島さんじゃなかったと思うんだけど〜。」

A「そうすると、・・・あっ!藤原君のだ、きっと。<卒塔婆小町>と<弱法師>じゃない?」

M「藤原って、あの若い子?何演ったの?卒塔婆小町には若過ぎるから、弱法師の方かしらん。」

A「そうよ。俊徳。アッシはさ、弱法師っていうとね、数年前に亡くなった范文雀が演った調停委員が忘れられないのよね。」

M「サインはVのジュン・サンダースね。弱法師演ってたんだ。」

A「そうなのよ。良かった〜。」

M「あら〜ん、観たかったわぁ〜ん。でさ、今回の<道成寺>はどうだったのかしら?」

G「思い出しました。そうです、藤原君のやつでしたよ。藤原君と高橋恵子です。そうそう。ゴメンナサイ、 話の腰を折っちゃって。」

M「で?大きな箪笥があるんでしょ、舞台に。」

A「それがね、今回の舞台には無いのよ、箪笥。」

M「え〜っ!箪笥が無い<道成寺>なんて聞いた事がありませんわ。ねえ、ごん太ちゃん、ねえ。」

A「でも、無いの。で、それが今回はとっても成功したと思うのよね。」

M「箪笥が無くていいなんて、アタクシにはと〜んと見当も付きません事ですわ。」

A「無いけど在るのよ、そこに。つまりね、観客にその箪笥を想像させるわけよ。 それぞれの観客が巨大な箪笥を想像してそこで起こった事件を感じるのね。」

M「あら、面白そうね。役者たちはどう?」

A「箪笥の中で殺されてしまう男の不倫相手、清子を演った中嶋朋子がとってもいいわね。 大竹しのぶとは違うタイプの天才肌を持っていると思うんだけどね、アッシは。」

G「北の国からの蛍ちゃんですよね、彼女。」

A「そうよ、あの女優。それに、古道具屋の主人の塩野谷正幸、箪笥の競りに招かれた客たち。 みんないい芝居をしてたのよ。」

M「益々観たくなっちゃったわねえ。」

G「じゃあ、アキさんは大満足だったんですね。」

A「そうね。だけど、ひとつだけ分からない所があったのよ。アッシも原作をちゃんと覚えていなかったから、 アッシの記憶違いかもしれないんだけど、途中で殉教者のような格好をした人物が出てきてしまうのよ。 そんなの原作にあったのかな?って。マッチさん、覚えてる?」

M「そんなの無かったわねえ。ないわよ、無い無い。って事はさ、アキちゃん、その殉教者のような人物って、 もしかしたら箪笥の中で殺された清子の不倫相手の男の仮の姿じゃないの?」

A「あ〜あ、そういう事か。つまり、その不倫相手の男を象徴して出したのね、演出家は。」

M「アタシはそう思うけど。まあ、観てないから何とも言えないんだけど、 アキちゃんの話を聞く限りではそうでしょうねぇ。」

A「なるほどね。それだったら納得出来るわ。へ〜、流石、マッチさん。ちゃんと本を読んで勉強してるわね。」

M「あら、どうも。でも、あたしもず〜〜っと前よ、読んだのは。好きですからね、三島は。 ごん太ちゃんは読んだ事あるの?三島。」

G「ありますよ。三島でしょ。<潮騒>に<金閣寺>に<きんしょく>にね。結構知ってるでしょ、僕も。」

A「あのね、ごん太さあ、<きんしょく>じゃなくて、あれは<きんじき>って読むのよ。<禁色>ね。」

G「え〜〜〜!うっそぉ〜!あれで<きんじき>って読むんだぁ〜。へ〜、勉強になりましたよ。」

M「まあ、ごん太ちゃんも夜の勉強ばかりじゃなくて、・・・お分かりですわよねぇ〜。」

G「それじゃ、僕は勉強しに行ってきますかね。」

A「あら、行くの?もう。」

G「はい、そろそろ。早く勉強しに行って、早く帰らないと。」

A「早く帰るって、あんた何処に何勉強しに行くのよ?」

M「まあ、アキちゃん、ごん太ちゃんは、ね、そういう勉強はお得意みたいだから。」

G「まあ、僕もまだまだ未熟ですからね。これから夜の勉強に行って来ま〜す。」

M「まあ、それも人生の勉強みたいなものよねぇ。そういう所では、勉強してらっしゃるのよ、ごん太ちゃんは。」

A「まあ、いいけど。ごん太さ、そういう所だけじゃなくて、ちゃんと勉強して頂戴よ。」

G「任せて下さいって。」

M「何を任せたらいいんだか、ね。ははは・・・・・。」

A「本当よ。ははは・・・・・。」

一同「ははは・・・・・・・。」

おわり


*登場人物は全て仮名です。
*今回紹介したお芝居は、
1)<プロデューサーズ>国内版   公演終了
2)<道成寺>     公演終了
以上でした。芸術の秋です。皆さんも、この季節、何か鑑賞してみては如何でしょうか?


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